76-24 6日も暮れる
ギリギリ1月6日。
蓬莱島時間で午後8時。
蓬莱島は夜だが、ショウロ皇国ではまだ午後3時になっていない。
そこで仁が……行こうとしたらエルザと老君と礼子に止められ、仁Dがロイザートに行くことになった。
もちろん『乗合自動車』の説明のために、である。
フリーパスの『魔法工学師』なので、直接ロイザートの宮城へ。
もちろん『ハリケーン』と『イーグル1』が、である。
フリーパスとはいっても、着陸前に『気球部隊』を通じて連絡を入れてある。
『気球部隊』は首都ロイザートの上空を守る部隊で、『ハリケーン』のことはよく知っている。その『丸に二つ引』の家紋とともに。
ゆえに仁Dもいきなり宮城に着陸することをせず、『イーグル1』と共に来訪する旨を風属性魔法『伝声管』で伝えておいたのだった。
この『伝声管』は『魔導大戦』で途絶えた消失魔法だったが、『2代目』仁が晩年に広めたものだ。
情報の伝達は大事である。
「これはこれは、ジン殿」
出迎えてくれたのはショウロ皇国魔法技術相、レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアス。
仁Dは、まず突然の来訪を詫びる。
「急な来訪で申し訳ない」
「なんのなんの。何か急用なのでしょう? 『アドリアナ記念館』関係と見ましたが?」
「そのとおりです。ええと、この首都ロイザートと記念館の間に、乗合自動車を運行させてみようと思いまして」
「ほう?」
『乗合馬車』というものは存在するので、『乗合自動車』がどういうものかを理解することはすぐにできたようだ。
「なるほど、つまり『アドリアナ記念館』へ行きやすくするために、ですな?」
「そうです」
「拝見しても?」
「はい」
早く見たいという雰囲気が魔法技術相の全身から出ていたので、仁Dはさっそく『乗合自動車』を降ろした。
運転手は『エンプロイ』28、29、30の3体だ。
「おお、これが……!」
「3台あります。定期的に往復させたいと思いまして」
「なるほど、その許可が必要なわけですな」
「そういうことです」
「よろしい。この私にお任せあれ」
レグレイ魔法技術相は胸を叩いて受けあってくれた。
* * *
中庭での立ち話も何なので、仁Dは宮城内に招き入れられる。
10分ほど待たされたあとに通されたのは、皇帝陛下の執務室だった。
「これはジン殿、開館式以来だな」
「急な来訪、申し訳ございません」
「いやいや。レグレイから事の次第は聞いた。いいと思う。詳細はレグレイに任せておくがいい。あれは引退したら記念館の館長になるのだと本気で言っているようだからな」
「は、はあ」
「ジン殿、私にお任せあれ」
「では、よろしくお願い致します」
少々問題発言が混じっていた気がするが、皇帝陛下の許可が下りたので、『乗合自動車』の件はレグレイ魔法技術相に任せることにした仁であった。
「ところでジン殿、明日から一般向けに開館するのだったな?」
「はい。まずは様子見ですね」
「そうか。見学者が増えることを願っている」
「ありがとうございます」
皇帝陛下の執務の妨げになってはいけないと、仁Dはそれで執務室から下がったのであった。
* * *
「ジン殿、ジン殿」
「ああ、グラディンさん、どうされました?」
仁Dを呼び止めたのは、ショウロ皇国魔法技術省技術部部長のグラディン・ハロナド・フォン・イステアであった。
「いえ、レグレイ閣下が先程すごい勢いでやりかけの執務を終わらせて執務室を飛び出していかれたので何かご存知かと」
「ああ……」
そこで仁は『乗合自動車』のことを説明した。
「なんと! ……ですが、いい考えですね。それでは、私も手伝いに行くとします」
「執務は?」
「本日の分は終わりですので、ご心配には及びませんよ」
「そうですか。それでは、よろしくお願いします。詳細はレグレイ閣下がご存知ですので」
「わかりました」
やる気に満ちた人達を見て、仁Dはホッとしていた。
そして、あまり口出しをすることはせず、彼らの裁量に任せようと決めた仁であった。
* * *
中庭に駐機した『ハリケーン』と『イーグル1』は夕暮れのロイザートの空にゆっくりと浮かび上がっていく。
そして宮城の真上を避けながらゆっくりとロイザートの上空を周回し、敬意を表したあと、『ハリケーン』はロイザートの屋敷へ、『イーグル1』は蓬莱島へと、それぞれ向かったのである。
* * *
『御主人様、滞りなく終わりました』
同時刻、蓬莱島では老君が仁に報告していた。
「そうか、ご苦労だったな」
これで懸念事項もほぼなくなり、仁は安心して翌日の開館を待つことができるようになったのである。
「普通は開館直後は混むか閑散とするか両極端じゃないかと思うんだよなあ……どう思う、老君?」
『はい、御主人様。『世界会議』を通じて会議国に知らせてありますので、各国からの客人が殺到すると思われます』
「そうなのか……?」
『はい。現に、ロイザート周辺の宿泊施設はほぼ満室です』
「え……?」
『通常の今頃は満室になることはないようですので、まず間違いなく明日の開館に合わせての来訪だと思われます』
「そうかあ……」
その混雑が一段落したら、招待客を呼ぼうかなと仁は考えた。
『エイラさんたちでしたら既にロイザートでお泊りになってますが』
「え?」
『休暇をお取りになってやって来られたようです』
「そうだったのか……」
仁としては、開館当日はダイキ・ココナ夫妻を案内しようかと考えていたのである。
しかし、こうなると……。
「義理と血縁……なら義理を優先せざるを得ないかな?」
苦渋の決断を迫られる仁。
『御主人様、ダイキさんとココナさんには、正直に事情を話されるのがよろしいかと。その上で、お2人のご意見も聞かれるのが望ましいと愚考します』
「そうか……」
老君としては、おそらく夫妻は仁にご友人を優先なさってくださいと言うだろうと考えている。
そしてさらに、その後屋敷にお連れしてください、とも言うだろうと。
その上で、エイラたちが『アヴァロン』に帰るのを見送った後にダイキ・ココナ夫妻を『アドリアナ記念館』にゆっくり案内するのがいいだろうと考えていた。
そしてその推測はそのとおりになる。
仁の許可を得て仁Dが夫妻に事実を告げると、
「ジン様、私どもにお気を使ってくださってありがとうございます。でも、まずはご友人を優先なさってください」
「そして明日の夜はこちらにお泊まりいただきたく存じます」
との答えが返ってきたのである。
「ありがとう、2人共」
2人の心遣いに感謝する蓬莱島の仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
は都合によりお休みです(3月2日(火)更新予定です)。
代わりまして
蓬莱島の工作箱
https://ncode.syosetu.com/n0493fy/
を更新しました。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お知らせ:2月28日(日)は昼過ぎまで不在となります。
その間レスできませんのでご了承ください。
20210228 修正
(誤)要来島は夜だが、ショウロ皇国ではまだ午後3時になっていない。
(正)蓬莱島は夜だが、ショウロ皇国ではまだ午後3時になっていない。
こっちにも……orz




