76-23 準備あれこれ
1月6日は、朝からエスカレーター設置工事である。
階段の半分を潰し、上り・下りのエスカレーターを設置する。
短期間で行うために『職人』100体が投入された。
ステップや手すりは蓬莱島で作ってあるので、『アドリアナ記念館』では組み立て・組み付け、微調整が主な作業である。
「ふうん、新しい型だな」
エスカレーターを見たラインハルトが言った。
デウス・エクス・マキナの拠点『アルカディア』にもエスカレーターは設置されているので、それと比較した感想だろう。
「新しいっていうか……より一般向け、かな」
性能はこちらのほうが低めだ。
というのも、『アルカディア』のエスカレーターの方が速いのである。
こちらは一般向けなので、動きはゆっくりめだし、外観も仁が覚えているものに近くなっている。
幅は一人用。上りと下りがある。
「ううん、いいな、これ」
試しに乗ってみたラインハルトは、意外な乗り心地のよさに感心し、何度も上ったり下ったりしている。
「ラインハルトがそう言ってくれるなら安心だな」
午前中には地下1階から4階までのエスカレーター設置は終了したのであった。
* * *
「さて、いよいよ明日は開館だ」
一般客を迎えることとなるので、仁は職員である『スタフィ』に、新たな仲間である男性型の従業員ゴーレム『エンプロイ』30体を紹介した。
「『スタフィ』たちと同じことができるけど、普段はどちらかと言ったら裏方かな」
これだけいれば、大勢のお客さんが来ても対処できるだろうと仁は言った。
万が一の時には蓬莱島から5色ゴーレムメイドが助太刀に来ることになっている。
「そもそも、そんな心配をするほどお客さんは来ないかもしれないけどな」
現代日本と違い、認知度が低ければ集客は難しい。
まだまだこのアルスは情報社会ではないのだから。
「チケットもパンフレットもよし、と」
仁はもう一度館内を見回っている。
「記念メダル発行機もよし」
一応、壊れた時の予備も含め、3台を作り、1台を使用する。2台は予備だ。
「ゴミもないな」
工事に伴うゴミ・ホコリの掃除も行き届いているし、加えて売店や食堂も準備オーケーだ。
「天気は……明日も晴れそうだしな」
あとは、お客さんがどのくらい来てくれるかである。
もっとも仁としては、最初の数日は多少混み合うだろうが、その後は閑散としているだろうと想像している。
現代日本の『〇〇科学館』とか『〇〇記念館』というのは、そういうものだからだ。何か話題があった時には混み合うが。
「一般招待枠としてダイキ・ココナ夫妻や、『アヴァロン』からエイラやカチェアも来てくれるだろうかな……」
……と考えていた仁は、
「そうか、シャトルバスみたいなものがあるといいんだ」
と思いつく。
この『アドリアナ記念館』の立地条件は悪くはないが、それでも首都ロイザートから歩いてこられる距離ではない。
「乗合自動車とか乗合飛行船があってもいいかもな」
飛行船はともかく、乗合自動車の運行はショウロ皇国と話し合ってみよう、と思った仁であった。
* * *
一旦蓬莱島に戻った仁は、1人反省している。
「初めての施設だから仕方ないにしても、後から後から抜けとかこうしたらとか思いつくなあ……」
溜息をつきながらも仁は、『乗合自動車』について考えている。
「定員は10人くらいか……50人なんて大型バス並みにしたら道路が陥没しそうだし」
そんな大きな車をいきなり作るのも危ないと、仁は構想を練っていく。
「うん、まあ、10人乗りを3台くらい用意すればいいだろうな」
そんな独り言を聞きつけ、ラインハルトとエルザが顔を出した。
「食堂で寛いでお茶を飲んでいるのかと思えば」
「また何か、作るつもり?」
「まあな」
仁は『乗合自動車』のことを説明した。
「なるほどな……ロイザートと記念館の間を往復か。それなら便利だな」
「いずれ、トスモ湖の対岸へも船の往復便を出すといいかも」
ラインハルトは感心し、エルザは別のアイデアを出した。
「おお、いいな。その場合、シグナスに似せてみたり、ラインハルトが昔作った……ええと何だっけ」
「『スカーレット・トレイル』かい?」
「ああ、それだ。それ」
技術博覧会でお披露目した外輪船である。
それを元にした『乗合船』を作り、トスモ湖の向こう岸と結ぼうというのである。
400年前は外輪船が運行されていたが、『魔法連盟』の影響で途絶えて久しい。
「ああ、それなら僕が作りたいな」
「製作者自身が作ってくれるならそれに越したことはないよ」
「よし、任せてくれ」
ラインハルトは胸を叩いて受けあった。
そこで渡し船はラインハルトに一任し、仁は乗合自動車に注力することにした。
「小型バス……だと馴染みがないだろうから、大型馬車風にするか」
タイヤは路面にめり込まないように幅広にする。
舗装路面用であるし、軸受にもボールベアリングを使用するから、転がり抵抗を気にする必要はない。
エンジンはゴーレムエンジン、トルク重視。
運転手は馬車風にし、御者のように見せかける。ただし馬は繋がれていない。まさに『馬なし馬車』。
外見は黒塗りの高級馬車風とし、馬がいない以外は違和感をなくすデザインとする。
内装は高級感を出す。
そして、大半の素材は外部から購入し、蓬莱島素材はごく一部のレア素材のみとすることで経済活性化にも貢献する。
「……こんなものかな?」
仕様が決まれば、製作は速い。
礼子と『職人』4体に手伝ってもらい、仁は30分で1台を完成させた。
あとは『職人』に頼んで同じ仕様で2台を作ってもらう。
それを『イーグル1』を使い、ショウロ皇国へと運ぶ。
ギリギリ1月6日。
蓬莱島時間で午後8時。
蓬莱島は夜だが、ショウロ皇国ではまだ午後3時になっていない。
「なんとか執務時間中に陛下に伝えられるだろう」
相変わらず忙しない仁であった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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お楽しみいただけましたら幸いです。
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その間レスできませんのでご了承ください。
20210228 修正
(旧)「いずれ、トスモ湖の対岸へも往復便を出すといいかも」
(新)「いずれ、トスモ湖の対岸へも船の往復便を出すといいかも」
(誤)あとは『職人』の頼んで同じ仕様で2台を作ってもらう。
(正)あとは『職人』に頼んで同じ仕様で2台を作ってもらう。
(誤)要来島は夜だが、ショウロ皇国ではまだ午後3時になっていない。
(正)蓬莱島は夜だが、ショウロ皇国ではまだ午後3時になっていない。




