76-22 準備と新たな課題
『記念メダル発行機』のあとはパンフレット作成に取り掛かる仁たち。
これにはヴィヴィアンも呼んで、助言をもらうことにした。
「ええと、そもそもパンフレットの目的って何かしら?」
「記念館の沿革の説明とか、展示物の紹介かな」
いずれは書籍も販売したいと考えているが、まずは無料配布のパンフレットからとする。
「A4サイズの紙を3つ折りにする。つまり6ページだな」
写真……はやめておいて、絵とイラスト、それに文章を半々くらいの割合で印刷する。
絵はもちろんヴィヴィアンに描いてもらうわけだ。
「『アドリアナ記念館』の全体像、『初代』『賢者』『智者』の肖像を頼むよ」
「わかったわ」
仁はポンプの動作イラストを書くことにした。
デザイン性とは無関係の図面書きなら仁も得意なのだ。
そしてエルザには記念館の沿革紹介の文章を頼んだ。
「仁、手伝おうか?」
と声を掛けてきたのはグース。
「ああ、そうだな。そうしたら、『賢者』と『智者』の簡単な紹介文を頼む」
「わかった。任せてくれ」
そして仁はポンプ動作の説明イラストを描き終えたあと、『初代』の紹介文を書き始めたのである。
* * *
他の『仁ファミリー』メンバーや老君に推敲、チェックしてもらって、パンフレットが完成したのは夕方だった。
やはりモノづくりとは勝手が違うなと感じた仁たちである。
「3つ折りにして、表が記念館の絵と沿革か」
「裏が記念館の内部案内ね。確かに便利だわ」
「開くと偉人3人の肖像画と説明が1ページ、魔法工学略年表が1ページか」
「その反対側にはポンプの動作説明と……入れ替える展示物の紹介だな。この部分は変えていくんだな?」
「そう。常設展はあまり入れ替えないが、各国から贈られてきた作品は年4回くらい入れ替えていこうと思ってさ」
「そのたびにこの部分の印刷を変えるのか」
「まあそうなるな」
そのあたりは以降は職員自動人形である『スタフィ』にやってもらおうかと思っている仁であった。
* * *
そしてお茶の時間。
クッキーとクゥへもしくはお茶の組み合わせで皆寛いでいる。
「あとはエスカレーターなんだが、主要部品はこっちで作って、残りは現場で……だろうなあ」
クゥへを飲みながら仁が呟くと、皆それがいい、と賛成してくれる。
「僕も手伝おう」
「ああ、ラインハルトが来てくれると助かるよ」
「じゃあ、明日だな」
「うん、頼む」
そういうことになった。
そしてそのまま、なんとなく雑談をする『仁ファミリー』の面々。
「今年は『ライトミスリル』について調べてみたいなあと思っているんだよ」
やや唐突に今年の抱負を述べ始めたサキ。
「ライトミスリルか……」
別名軽魔銀。軽銀よりも強靭な素材であるが、非常に希少な金属である。
仁は初期の礼子の骨格に使ったこともある。
だが、マギ系素材の開発に伴って、この金属の利点がなくなったため、今では使われなくなった不遇の金属とも言える。
希少だが用途が限られてしまうのでは、工学的な素材としては使いづらいわけだ。
その正体は……。
軽銀が、原子番号22のチタンの中性子26個のほとんどが魔力子に置き換わったものであるのに対し、電子・陽子までもが魔粒子に置き替わったものが魔軽銀だ。
軽銀はチタンの『魔力同位元素』であるが、魔力による強化を施すとそれよりも強靭である。
魔粒子とは魔力子、魔陽子、魔電子などの総称である。
それぞれ中性子、陽子、電子と対応するが、まだ詳細な研究はなされていない。
「くふ、中性子が魔力子に置き換わったものが『魔力同位元素』だろう? なら、陽子や電子もそれぞれ魔陽子、魔電子に置き換わっていたら何て言うんだろうね?」
「うーん……『魔力同位元素』の一種ではあるんだろうが……」
「ジン、それにさ、衛星アルファから得られる例の『ネオ素材』とも違うんだろうね?」
「……いっぺんに言うな」
「くふ、悪い悪い。ちょっと興味深いからさ」
「気持ちはわかるけどな」
『ネオ素材』とは……資源とするためにヘール軌道まで運んできた惑星ジパートの衛星『アルファ』の鉱石から精錬した金属素材である。
その全てが自由魔力素との親和性が高くなっている。
「あくまでも『魔原子』であって『魔力同位元素』じゃないと思うぞ」
「『魔原子』かあ……。いったいどんな環境で作られるんだろうねえ」
「それは確かに気になるな」
『世界』……この場合は『宇宙』を含む閉じられた空間という意味……間を人間が渡る際に、欠損部を『魔原子』が補う、というような仮説があった。
アドリアナ・ティエラもそのようなことを知っており、ごくごくまれに、そうやって世界を渡ってくる人間が、シュウキや仁以外にもいた……のかもしれない。
あくまでも想像であるが。
「ただ、そういう風にして世界を渡った素材が『魔原子』に置き換えられるということは考えられる」
「くふ、確かにね。……うん? 待てよ? ……そうだ!」
「どうした、サキ?」
「ジン、昔、グースと出会った頃、『賢者』が持っていたという腕時計を直したろう?」
「ああ、そんなことあったな」
「あの腕時計の金属を調べれば、今の仮説を検証できるんじゃないか?」
「なるほど! それに、自転車とか本とかあったな!」
それらの多くが『魔原子』でできていたなら、世界を渡った素材が『魔原子』に置き換えられるという説の信憑性が増す。
「近いうちにフソーへ行ってみるか」
「くふ、楽しみだね。グースも一緒に連れて行こう」
「それはもちろんだな」
グースの故郷でもあるフソーへ行くなら、当然連れて行くべきだろう。
もう、グースのことを知るものもいない、フソーだが……。
新年早々、いろいろな目標ができた仁たちであった……。
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