76-19 兄弟姉妹
昼食後、仁は『仁ファミリー』の皆に今後の予定を説明する。
「4日に、みんなを『アドリアナ記念館』に招待するよ。そこで気が付いたことがあったら教えてくれ」
「おお、楽しみだな!」
「……自分の作品が展示されていると思うとちょっと恥ずかしいわね」
「あ、それから、その関係で明日、ツェツィ島へお参りに行こうと思っているんだ」
はじめは2日に行くつもりだったが、島守であるナギとナミにも『アドリアナ記念館』を見せてやりたいので連れ出そうと思い、3日に変更したのである。
あまり島をあけていたくはないだろうから。
ナギは若き日のシュウキ・ツェツィをモデルにしており、ナミは同じく若き日のアドリアナ・バルボラ・ツェツィがモデルになっている。
その2人が島を離れている間の警備は、マリン隊とマーメイド隊に任せる予定である。
「それと、アキツも連れて行こうと思う」
「ああ、いいな」
『アキツ』はミツホにおいてシュウキ・ツェツィが監修した教育指導用自動人形である。
代々のミツホの首長たちに知恵と知識を授け続けてきたのだ。
元は大サハラ沙漠のドームにいたが、魔法連盟を避けて大サハラ沙漠の地下へ仁が移動させた。
『賢者』『智者』そして『初代魔法工学師』と直接関わりのある自動人形である。
言い方を変えれば、アキツは礼子の伯母、ナギとナミは礼子の兄と姉になるのだから。
* * *
正月2日はのんびりと暮れていった。
仁は『記念メダル刻印機』の構想や『エスカレーター』もしくは『エレベーター』の設置を検討していた。
ただし、素材には一切触れさせてはもらえなかったが。
エルザと礼子曰く、『3が日はのんびりしてください』ということらしい。
頭の中で考えることだけは止められないので、せめて製作だけは止めたかったということだろう。
夕食の後は、『仁ファミリー』のメンバーは数人ずつ集まってトランプや花札、かるたなどで楽しんでいる。
さすがに『百人一首』は再現できなかった、仁とシュウキ・ツェツィであった。
「久しぶりにのんびりした気がする」
「ん、よかった」
エルザ、ハンナと一緒に仁は花札の『バカッ花』をやっている。
『バカッ花』は『花合わせ』ともいい、様々なローカルルールが存在する。
仁が教えたのは院長先生に教わったルールだ。
ラインハルト、ベルチェ、サキ、トア、グースらはトランプでセブンブリッジ。
シオン、マリッカ、ロードトス、リュドミラ、ターレス、ネージュ、ルージュらはいろはかるた。
記憶力のいい面々なので、日本語やひらがな・カタカナも覚えてしまっている。
ちなみに、札の文句はかなり適当だ。
『い ぬも歩けば棒に当たる』『ろ んより証拠』『は なより団子』『に くまれっ子世にはばかる』『ほ ね折り損のくたびれもうけ』までは覚えていたが、『へ』は何だっけ……というわけで『へ たの横好き』にしたりしている。
(実際は『へ をひって尻つぼめ』(江戸)または『へ たの長談義』(関西)など)
元々、江戸・京・大阪などで差があるものなのだ。
難しいのは昔のカナづかいなところ。
例をあげると『れ』。『れ う薬は口に苦し』読みは『りょうやく(良薬)』である。
マルシアとロドリゴは親子で将棋を指している。これはミツホで買ってきたものだ。
リシア、ビーナ、ステアリーナ、ヴィヴィアン、ミロウィーナらは双六。
マーサ、ミーネはコタツでシトランを食べている。
なんとも長閑な正月2日の夜であった。
* * *
明けて3日の朝。
お雑煮を食べたあと、仁、礼子、エルザらは、まず大サハラ沙漠の地下へと転移した。
「おいでなさいませ、ジン様、エルザ様、礼子ちゃん。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう、アキツ」
「本日はどうされましたか?」
「ああ、実は……」
仁は『アドリアナ記念館』を作ったこと、そこへアキツを連れていきたいことを説明した。
「まあ、そうなのですね。そこにはシュウキ様についても展示されているのですか。拝見してみたいです」
「そうか。それなら、『第5列』の遊撃担当をアキツに化けさせて1日2日しのごう」
そこまでせずとも、アキツへのアクセスはそうそう頻繁にあるものではないが、念のためである。
「それで、この後一緒に『ツェツィ島』へ行くぞ」
「あ、はい。そこは、シュウキ・ツェツィ様の墓所ですね?」
「そうだよ。アドリアナ・バルボラ・ツェツィも合葬されている」
「はい、まいります」
そういうわけで仁、礼子、エルザ、アキツらは一旦中継基地『しんかい』を経由し、『ツェツィ島』へと転移した。
『ツェツィ島』の空は真っ青に晴れ渡っていた。
「ようこそ、ジン様、エルザ様、礼子ちゃん。あけましておめでとうございます。……そちらは?」
「あけましておめでとう、ナギ、ナミ。……この子は『アキツ』。ミツホという国でシュウキ・ツェツィ殿が監修した教育指導用自動人形だよ」
「それでは私たちの伯母になるのでしょうか?」
「そうかもな。ナギ、ナミ、仲よくしてやってくれ」
「もちろんです。アキツさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、ナギさん、ナミさん、よろしくお願いします」
顔合わせが済んだあとは、お参りである。
エルザは持参した花を手向ける。
そして全員が墓所に手を合わせ、黙祷を捧げたのだった。
* * *
「それじゃあ、今日のところは蓬莱島へ来てくれ」
「わかりました」
「お邪魔致します」
「お世話になります」
仁としては、この機会に3体の徹底整備を行うつもりもあったのだった。
そして予定どおりに3体の整備が行われる。
一部の部品は新品と取り替えられ、3体は向こう100年以上メンテナンスフリーなボディになったのだった。
その後3体は蓬莱島の面々に引き合わされる。
『仁ファミリー』、老君、ソレイユ、ルーナ、5色ゴーレムメイド、スカイ隊、ランド隊、マリン隊……。
製作者の流れを汲む面々と、自分の弟妹たち。
人間ではない3体だが、こうした正月を迎えられたことは嬉しかったことだろう。
「ナミさんって、ハンナちゃんに似ているわよね」
「というか、ハンナが初代にそっくりなんだよ」
「ええ。本当に、ハンナさんはアドリアナ様によく似てらっしゃいます」
ハンナを見たナギとナミ、そしてアキツは驚きながらもすぐにハンナと打ち解けていったのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210223 修正
(誤)下は大サハラ沙漠のドームにいたが
(正)元は大サハラ沙漠のドームにいたが
(誤)「それでは私たちの姉になるのでしょうか?」
(正)「それでは私たちの伯母になるのでしょうか?」




