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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
76 アドリアナ記念館篇(3901年〜3902年)
2871/4348

76-18 正月2日

 明けて、正月2日。

 期せずしてロイザートでのんびりした仁とエルザは、翌朝、少し早めの朝食を摂ると、名残を惜しがるダイキ・ココナ夫妻に別れを告げ、蓬莱島へと戻る。

 仁、礼子、エルザは『ハリケーン』内の『転移門(ワープゲート)』を使う。

 操縦士のホープはそのまま『ハリケーン』を蓬莱島へ飛ばしていくことになる。


「いつも任せっぱなしで悪いな、ホープ」


 仁はホープにびた。


「いえ、これが操縦士である私の役目ですから」


 エルザと礼子もホープに声を掛けた。


「ホープ、気をつけて」

「はい、エルザ様。ありがとうございます」

「ホープ、それじゃあお願いしますね」

「はい、お嬢様、お任せください」


 そして仁たちは蓬莱島へと戻ったのである。


*   *   *


「ジン、エルザ、レーコちゃん、お帰り」


 蓬莱島ではラインハルトを始めとした『仁ファミリー』のメンバーが仁たちを出迎えてくれた。


「新年早々、ご苦労さまでした」

「今日はのんびりしてちょうだい」


 ミーネやステアリーナも仁たちをねぎらってくれた。


「それじゃあ、お茶にでもしようか」

「ん」


 ステアリーナの顔を見て、『アドリアナ記念館』の報告をしようと仁は思いついたのである。


「お茶の用意ができました」


 お茶請けには羊羹とせんべいが出されている。


「それじゃあ、開館式の様子を報告するとしよう」


 お茶を一口飲んで仁は話し始めた。


「各国の代表が来てくれて、盛況だったよ。『賢者(マグス)』と『初代』について、より正しい認識を持ってもらえたんじゃないかな」

「それを一番望んでいたものな、ジンは」

「まあな。嬉しい限りさ」


 仁は順を追って、昨日の様子を説明していった。


「それに、アドリアナ・ティエラにも称号が贈られた。『智者(ラビ)』っていうんだ。同様に『初代』にも、独自の称号として『開祖(アーク)』ってね」

「へえ」

「なかなかいいな」

「それ付けたの、絶対ジンじゃないでしょ?」


 なかなか鋭いシオンの言葉。


「……シオンの言うとおりだよ」

「やっぱり。……誰?」

「旦那さんさ」

「え?」

「ベリアルスだよ」

「あ、そ、そう」


 なぜか少し照れるシオン。


「あと、『賢者(マグス)』『智者(ラビ)』『開祖(アーク)』の3人家族を指す称号として『賢者一家(デュクス)』というものも決まった」

「デュクス……『導師』だったかしら?」

「そう。シオンも知ってるよな」

「古語は習ったからね」

「やっぱりな。来た人たち、ベリアルスのセンスに感心していたよ。俺も含めて」

「ちょっと嬉しいわね。ね、マリッカ」

「……なんで私なんでしゅか?」

「深い意味はないんだけどね……」


 マリッカも仁の弟子のせいか、ネーミングセンスは首を傾げることが多いのだが、みんなそれは口にせず、黙って微笑むだけであった。


 仁は土産話を続ける。


「それから、ビーナのところの工房からも何点か寄贈されていたよ。特に民生品が多かったなあ。新型の冷蔵庫もあったっけ」


 蛇足だが、『民生品』とは一般家庭用の製品のことで、企業用の『業務用製品』と対比される。


 それを聞いたルイスが嬉しそうに、


「やっぱりクラフトクイーン工房も有名なんだな」


 と言うが、隣のビーナはかなり照れくさそうな顔をしていた。


「ラインハルトの『黒騎士(シュバルツリッター)』も大人気だったよ。それにステアリーナの『セレス』も」

「それは嬉しいね」

「まあ、そうなの?」


 どちらも『レプリカ』と銘打ってはいたが、元々の製作者が作ったものなので、オリジナルではないものの限りなくオリジナルに近いレプリカということも言えよう。


「船にも興味を持ってくれていたなあ」

「お、そうかい?」


 マルシアも嬉しそうだ。


「エカルトさんの船とか、マルシアの『白鳥シグナス』とかな」

「今、ラシール大陸との境界に作っている運河ができたら船の需要も増えるだろうしね」


 ロドリゴが展望を述べた。


「そうですね。物資の輸送は船がメインですから」


 飛行船は積載量が少なく、転移魔法陣は一般的ではない。

 陸路はまだ開発途上なので、残るは海路となる。


「運河は大型船も通れるように考えているから」

「期待できるね」


「……聞いていると、各国とも、魔法技術の振興に熱心そうだな」

「ルイスもそう思うかい? 僕もそう感じるな」

「くふ、ラインハルトとルイスがそう思うならそうなんだろうね」

「いや、そうなると素材もどんどん開発競争が厳しくなるぞ」

「それは望むところだねえ」

「一般庶民にも安価で手に入る魔導具が増えるといいわね」

「生活を豊かにする、という意味では趣味も多様化するといいだろうな」

「うんうん、そうなると消費が増えて経済が活性化しそうだね」


 3902年は希望に溢れた年になるといいなあ、と皆思うのだった。


*   *   *


 さて、ショウロ皇国を朝発っていた仁ではあるが、時差のため蓬莱島はもう昼である。


「そろそろお昼の支度をしないとねえ」


 マーサとミーネが席を立ち、厨房へ向かった。

 ハンナとエルザ、ステアリーナも後を追う。

 ビーナ、ベルチェ、リシア、ミロウィーナらはお茶の支度だ。

 仁やラインハルト、ルイス、サキ、グースらは食器の用意をした。

 お客様である『長老』とネージュ、ルージュらはそのまま。マリッカとシオンもそのまま座っていてもらう。

 トア、ロドリゴ、ヴィヴィアン、ロードトス、リュドミラらはすることがなく、仕方なしにまた椅子に座り直したのであった。


*   *   *


「ああ、香ばしい匂いがしてきたなあ」

「お餅の焼ける匂いだね」


 正月2日ということで、昼は磯辺焼きである。

 炭火で焼いた切り餅に醤油を掛け、海苔を巻いたもの。

 好みによって砂糖醤油でもいい。

 仁は醤油派だ。

 今回砂糖醤油にしたのはサキ、ステアリーナ、ヴィヴィアン、ミロウィーナら。


「くふ、醤油も好きだけど、今回はこっちをね」


 とはサキの言葉である。


「お醤油って温めるといい香りになるよね」

「ん、焦げた匂いも、好き」


 ハンナとエルザは仲よく2つ目を食べている。


「そういえば、何で『もち』って言うんだい?」

「うーん、乾燥させると長持ちするから、とか、腹持ちがいいから、とかいろいろ説があるな」


 仁が昔院長先生から聞いた説である。

 その他、昔の餅は皆丸く、それを満月=望月もちづきに見立ててもち、とか、『モチノキ』から作られる『トリモチ』のように粘るから、とか、様々な説があるが、これはという決定的なものはない。


「それだけ昔から広く食べられていたのでしょうね」


 ヴィヴィアンが興味深そうに言った。


「そうそう、ヴィヴィアンの絵も評判よくてさ。作者を教えて欲しいと言われたよ」

「バラさなかったでしょうね?」

「それはもちろん」

「それを聞いてほっとしたわ」


 ヴィヴィアンとしても目立ちたくない以前に、あまり世間と関わり合いになりたくないという気持ちがあるのだった。

 仁もそれは理解できるので、今後もずっと秘密にしておくよ、と断言したのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20210222 修正

(旧)トア、ロドリゴ、ロードトス、リュドミラらはすることがなく

(新)トア、ロドリゴ、ヴィヴィアン、ロードトス、リュドミラらはすることがなく


(誤)正月3日ということで、昼は磯辺焼きである。

(正)正月2日ということで、昼は磯辺焼きである。

(誤)炭火で焼いたも切り餅に醤油を掛け、海苔を巻いたもの。

(正)炭火で焼いた切り餅に醤油を掛け、海苔を巻いたもの。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「それ付けたの、絶対ジンじゃないでしょ?」 多分、真っ先に口開いただけで、別にシオンだけが鋭い訳ではないのだろうとは思いますが、 まさかそのせいで、直後にカウンターを食らおうとは。 [気…
[良い点] 76-18 正月2日 更新ありがとうございます。 [気になる点] 磯辺焼き、チーズを巻いても美味しいのですが、アルス世界にチーズはないですよね…。 [一言] 次回の更新も、楽しみにしてお…
[一言] 炭火で焼いたも切り餅に醤油を掛け、海苔を巻いたもの。 炭火で焼いた切り餅に醤油を掛け、海苔を巻いたもの。
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