76-16 称号
「それなら、私からも1つ、提案といいますか、相談があります」
そう仁が切り出すと、招待客は耳をそばだてた。
「シュウキ・ツェツィ殿が『賢者』。その伴侶であるアドリアナ・ティエラ殿が『智者』。その流れで、アドリアナ・バルボラ・ツェツィにも何か称号を贈れないでしょうか」
もちろん『魔法工学師』という称号は持っているのだが、それは仁が受け継いでいる。
ゆえにそれとは別に、彼女だけの称号、という意味で、と仁は言ったのである。
「いいと思います。ですが、称号……」
「うーん……」
「『初代』ですからなあ……」
仁からの提案を了承したものの、おいそれと称号を思いつくものではないようで、皆、考え込んでしまった。
そんな中、ここで発言したのはまたも『森羅』のベリアルスであった。
「始祖、開祖という意味の古語で『アーク』はどうでしょう」
『賢者』『智者』そして『開祖』。
「ああ、いいと思います」
「私も」
「異議はありません」
「では、そうさせていただきます」
列席者全員の賛成で、アドリアナ・バルボラ・ツェツィはまた、『開祖』とも呼ばれることとなった。
「そうなると、『賢者夫妻』と同時に、3人を指す呼称も欲しいですね」
さらに仁が提案する。
「なるほど」
「……ベリアルス殿、いかが?」
ここまで来ると、ベリアルスの命名センスにおんぶに抱っこ、となるのは致し方ないだろう。
「そうですな……ぱっと思いつくのは『三位一体』とか『三聖』、ちょっと見方を変えて『導師』ですかな……」
「それでしたら私は『導師』を推したいですね」
真っ先に仁がそう言った。
「うむ、いいですな」
「ええ。お三方のあり方に相応しいと思います」
「私もいいと思います」
仁の意見に皆賛成してくれたので、賢者一家に『デュクス』という称号を贈ることとなった。
これ以降、シュウキ・ツェツィ。アドリアナ・ティエラ、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの3人を指して『賢者一家』ということになる。
実際にはアドリアナ・ティエラとアドリアナ・バルボラ・ツェツィは互いを知らないわけだが、シュウキ・ツェツィを通じて結びついているわけである。
仁としてはそういう意味でも3人が『家族』であると認識してほしかったのであった。
「ありがとうございます。弟子としてお礼を申し上げます」
仁は招待客一同に対し、礼を述べたのである。
「ええと、私のわがままをお聞き届けいただき、ありがとうございました」
「いや、有意義な会話でしたよ」
「左様。ジン殿、お気になさらず」
「過去の偉人に敬意を表するのは後世の者として当然だと思いますからな」
居並ぶ列席者たちは、皆そう言って笑ったのであった。
* * *
「あと1つ、申し上げておくことがあります」
「ジン殿、それは?」
「はい。この記念館の運営についてです」
1年くらいは仁が見ているつもりだが、その後はショウロ皇国に移管したい、と仁は言った。
「もちろん手を引くつもりはありません。具体的には館長、それに従業員をショウロ皇国にお任せしたいのです」
仁はあくまでも『名誉館長』でいたい、と説明した。
「わかりました、考えておきましょう」
ショウロ皇国宰相ロデリッヒ・バルベラス・フォン・ハイザーは受けあってくれたのであった。
また、ショウロ皇国魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアスは、
「私が引退したらここの館長になりたいですなあ」
と、冗談とも本気ともつかないことを言うのであった。
* * *
そろそろ話題も尽きてきた頃。
ゴーレムメイドの1人から報告があった。
「ジン様、デウス・エクス・マキナ様がお見えになりました」
「おお、通してくれ」
これもまた、老君と打ち合わせてあったこと。
「ジン、『アドリアナ記念館』開館、おめでとう」
「ありがとう、マキナ」
「皆さん、ご無沙汰しております。新年おめでとうございます。各国のよりよい発展を願っております」
「マキナ殿、お久しゅう。お元気そうで何より」
「マキナ殿、こちらこそご無沙汰しております」
仁の招待客とも挨拶を交わすマキナ。
そして再び仁に向き直る。
「ジン、盛況だな」
「ああ、おかげさまでな」
「『賢者』や『初代』の功績を後世に伝える、か。……期待しているぞ」
「うん」
そんな言葉を交わし、マキナは踵を返した。
「それじゃあ、俺は行くから」
「忙しいのか?」
「いや。……各国のトップとナンバー2が揃って国を空けても問題ない程度には、この世界は平和だよ」
仁が、そしてマキナが(結局仁に帰結するわけだが)世界を見守っている今、為政者たちの留守を狙うような不逞の輩は現れないようだった。
「それでは皆さん、これで失礼します」
そう言ってデウス・エクス・マキナは去っていったのだった。
「なんというか、旋風みたいな御仁ですなあ」
「ああいう人を自由人というんでしょうか」
などと口々に言い交わす招待客たちであった。
* * *
「ええと、そろそろお開きにしようと思うのですが」
時刻は午後5時近く。
質問や意見も出尽くしたようなので、仁は場をまとめることにした。
「ああ、もうこんな時間ですか」
「実に有意義な1日でしたなあ」
「ジン殿、お疲れさまです」
「ジン殿、ありがとうございました」
「こちらこそ、ご来場ありがとうございました。参考になるご意見もお聞かせいただき、助かりました」
「いやいや、なんのなんの。魔法工学、そして魔法技術、ひいてはこの世界の文化文明に幸あらんことを」
招待客は皆満足してくれたようで、仁もエルザもほっとしたのであった。
* * *
この日、招待客は皆ショウロ皇国宮城に1泊する。
今夜は晩餐会なのだ。
仁も参加を打診されたのだが、『アドリアナ記念館』の最終整備を行うという理由で辞退したのである。
まあ、実際にはそういう堅苦しい場に出たくないというのが本音であるが。
招待客は専用に仕立てられた馬車で宮城へと移動した。
仁、エルザ、礼子らは暮れていく空の下、彼らを見送ったのである。
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