76-03 新年の挨拶
「あけましておめでとう、ルビーナ、シュウ」
「ジン様、エルザ様、レーコちゃん、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます、ジン様、エルザ様、レーコちゃん」
ルビーナたちとも挨拶を交わした仁たちは1階へ下りていく。
そこにはお屠蘇とお節、それにお雑煮の支度ができていた。
お屠蘇とは、1年間の邪気を払い、長寿を願って元旦に飲む縁起物の酒であるが、ただの酒ではなく、屠蘇散という生薬を配合した薬酒である。
さすがの仁も生薬の内容など知らないので、普通の日本酒を飲むことにしている。
ただし、今年13歳になる未成年のルビーナは昆布茶である。
蛇足ながら、グリーナの方は出会った時は19歳だったが、今年で22歳、仁の認める成人の年齢を十分クリアしていた。
お節はその名のとおり『節句』用の料理であるが、正月用として定着している。
ちなみに『節分』も季節を分けるという意味では年4回あるのだが、春の訪れ、邪気祓い、という意味で2月の節分が定着している。
さらに付け加えると、『節句』は五節句といって1月7日の七草、3月3日の桃の節句、5月5日の菖蒲の節句、7月7日の七夕、9月9日の菊の節句となる。
(正式名称はそれぞれ順に人日、上巳、端午、七夕、重陽)
* * *
大広間には和風の膳が整然と並べられており、一番の上座に仁とエルザが、その次にエリスとフレディが、そしてグリーナとルビーナとシュウが座ることになった。
礼子は仁たちの斜め後ろに控えている。
「それではみんな、改めて、『あけましておめでとう』」
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしく」
「今年もよろしくお願いいたします」
仁の挨拶に皆が応え、お屠蘇に口を付けた。
あとは、うるさいことは言わず、好きに食べる無礼講とした。
「うわ、美味しそう」
ルビーナはお節の中の玉子焼きと伊達巻に目を輝かせている。
「5色ゴーレムメイドがじっくり作ってくれたからな」
仁は黒豆を食べてそのやわらかさに満足している。
「きんとんも美味しい」
エルザは栗きんとんを味わっていた。
「ねえジン様、この『お節』ってどういう意味があるの?」
紅白かまぼこを頬張りながらルビーナが尋ねてきた。
「ええとな、全部日本語での話になるんだが……この黒豆は、『黒く日焼けするほど達者に働けるように』という意味だったな。それにこっちの昆布巻きは『よろこぶ』に通じるからだし、伊達巻は『巻物』が昔の書物だったから、学問の向上を願う……とかだな」
「へえ……なんというか、洒落? みたいなものなのね」
「そういう面もあるな」
鯛は『めでたい』であるし、ブリは『出世魚』だから『出世』に通じる、またきんとんは『金団』と書き、金銀財宝に恵まれますように、という願いも込められているという。
「まあ、あまり薀蓄ばかり気にしないで、好きなものをお食べ」
「はい!」
仁はこの後ショウロ皇国へ向かうので、酒は一杯だけにとどめ、お雑煮を頼んだ。
身体が『魔原子』になっている今、酔うことはないのだが、息が酒臭くなるのを嫌ったのである。
「おまたせしました」
頼んでから1分も経たずにお雑煮が運ばれてきた。
仁が慣れ親しんだ院長先生風のお雑煮。
醤油ベースの汁、豚肉もしくは鶏肉の出汁。そこに青菜、大根、かまぼこ、なるとが入っている。
あとはもちろん餅だ。
「……まず菜っ葉から食べる」
「どうして?」
「菜と名を掛けて、『名を上げる』に繋がるからだってさ」
縁起というものは多分に語呂合わせや洒落のようなものが多いものである。
「へえ……」
「そうなんですね、知りませんでした」
ルビーナだけでなくエリスも感心していた。
院長先生はそういう話をたくさん知っていたなあ、と懐かしく思い出す仁。
そして、今度は自分が次の世代に伝えていく立場なんだ、と思い直したのである。
* * *
「領主様、あけましておめでとうございます!!」
「あけましておめでとう」
再び大広間は村民で溢れ始めた。
新年の挨拶に皆がやって来たのである。
エリスとフレディは挨拶を受け、『お年玉』を手渡している。
これもまた、仁が昔始めた風習で、ぽち袋の中身は銀貨1枚、つまり100トール(約1000円)。金額は、まあ……気持ちである。
元々が村人が納めた税である……が、そういうことを考えてはいけない。
子供たちには銀貨ではなくお菓子の詰め合わせ袋が配られた。
グリーナも裏方として、お菓子袋を運んできたり、小さい子供の手を引いてやったりと甲斐甲斐しく動き回っていた。
そんな様子を見て、仁とエルザは領主だった昔を思い出し、目を細めていたのである。
外を見れば、エルメ川の土手で凧揚げをする子供や、二堂城前の広場で羽根つきをする子供たちもちらほら。
これもまた、仁がいた頃に広めた風習である。
「ああ、お正月だなあ」
生まれ育った日本とは少し違うが、そこには確かに新年を寿ぐ人々の想いあふれる営みがあった。
* * *
「さて、そろそろ行かなきゃな」
「……まだ少し、早いんじゃ?」
「その前に、初詣もしておこうと思ってさ」
「あ、わかった」
そういうわけで、仁とエルザ、礼子はルビーナとグリーナシュウらに小声で声を掛け、二堂城を後にした。
向かうは蓬莱島の祠である。
研究所と『家』の間に、『賢者マグス』シュウキ・ツェツィを祀った祠があるのだ。
蓬莱島に戻ると、『仁ファミリー』の全員が集まっていた。
「ジン、エルザ、レーコちゃん、あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう。今年もよろしく!」
ラインハルトが一同を代表して挨拶を行い、仁もそれに応えた。
そして全員で祠にお参りをする。
「これからも見守っていてください」
と。
ちなみに、『ツェツィ島』へは翌2日に行く予定である。
* * *
「さて、そろそろ行かないとな」
「ん」
『家』で正装に着替えた仁とエルザは『ハリケーン』に乗り込んだ。礼子はいつもの侍女服である。
そのまま、老君に『転送機』でショウロ皇国まで送ってもらえばタイムロスなしに移動できる。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
仁たちの乗った『ハリケーン』はショウロ皇国へと転移したのであった。
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20210207 修正
(誤)この黒豆は、『黒く日焼けするほど達者に働けるように』とい意味だったな。
(正)この黒豆は、『黒く日焼けするほど達者に働けるように』という意味だったな。
(誤)外を見れば、エルメ側の土手で凧揚げをする子供や
(正)外を見れば、エルメ川の土手で凧揚げをする子供や
20210416 修正
(誤)「あけましておめでとう、ルビーナ」
「ジン様、エルザ様、レーコちゃん、あけましておめでとうございます」
(正)「あけましておめでとう、ルビーナ、シュウ」
「ジン様、エルザ様、レーコちゃん、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます、ジン様、エルザ様、レーコちゃん」
(誤)ルビーナとも挨拶を交わした仁たちは1階へ下りていく。
(正)ルビーナたちとも挨拶を交わした仁たちは1階へ下りていく。
(誤)そしてグリーナとルビーナとシュウが座ることになった。
(正)そしてグリーナとルビーナが座ることになった。
(誤)仁とエルザ、礼子はルビーナとグリーナに小声で声を掛け、二堂城を後にした。
(正)仁とエルザ、礼子はルビーナとグリーナ、シュウらに小声で声を掛け、二堂城を後にした。




