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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
76 アドリアナ記念館篇(3901年〜3902年)
2855/4348

76-02 除夜の鐘、初日の出

 大晦日の夜、年越しそばを食べたあとは二堂城大広間で宴会である。

 これはその昔、仁が領主だった時に始めたことだったが、その後もカイナ村では連綿と続けられていたらしい。


 今はエリスとフレディが取り仕切っており、仁は裏方に徹していた。

 200人以上が入れる大広間に村人が集い、楽しげに談笑する。

 アルコール類は控えめで、ジュース類が多い。

 悪酔いした者には『解毒(デトックス)』を使うことで治療する。

 アルコールやアセトアルデヒドは毒素として扱われるので、『解毒(デトックス)』が効くのである。


 この『解毒(デトックス)』の治癒魔法は、仁に乞われてカイナ村に移住した治癒師サリィ・ミレスハンが開発したもの。

 それを思い出した仁は、しばし懐かしさに浸っていた。


 一方、ルビーナとシュウは睡魔に負けて早々に部屋に引き上げている。

 だがグリーナはエリスに代わりフレディと一緒に、村人たちの世話を引き受けていた。


「……もう領主夫人が板についてきてるなあ」


 とは、仁の個人的な感想である。

 その仁は、小腹がすいた人用の『お汁粉』を食べている。

 もちろん、昼間()いた餅が入っている。

 その隣では、エルザもまた、同じ物を食べていた。


*   *   *


 夜も更け、午後11時ともなると、村人はそれぞれの家へと帰っていき、大広間はがらんとしてしまう。

 大広間の片隅に座っている仁がぽつりと呟いた。


「……にぎやかな宴会の後って、なんとなく寂しいよな」

「ん、わかる」


 その呟きにエルザが答える。


「……でも、終わりがあるから、新しい始まりが来る」

「そうだな。今年が終わるから、新年が来るんだよな」

「ん」


 散らかっていた大広間は、5色ゴーレムメイドによってあっという間に片付けられていく。


「……今年も残り僅かか。風呂に入ってさっぱりするかな」

「賛成」


 二堂城の1階、北東と北西の角には浴室がある。

 それぞれ男湯と女湯に分かれているので、仁は男湯に、エルザは女湯へと向かった。


 フレディはまだグリーナと話をしているので男湯も女湯も貸し切り状態で、仁もエルザものんびりと湯に浸かり、1年の疲れを落とした気分になったのだった。


*   *   *


 午後11時40分。

 二堂城が『除夜の鐘』を鳴らし始めた。

 時刻を報せる鐘と違い、こちらは『釣り鐘』である。カーンカーンではなく、ゴーンという重い音だ。

 仁とエルザは自室でそれを聞く。


「108回、くんだっけ?」

「そうさ。……人間には108つの煩悩があって、それをはらうため、と言われているんだ」

「108……たくさんある」

「うん。一説によると『たくさん』という意味もあるらしいけど、俺の世界の宗教の1つである仏教では、ちゃんと説明されている……らしい」

「興味深いお話。ちゃんと聞いたことがなかった気がする。教えて」

「まあいいけど」


 院長先生から聞いた気もするのだが、正確には覚えていないんだ、と前置きして、仁はエルザに説明を始めた。


「まず、人間には六根というものがある」


 『六根清浄ろっこんしょうじょう』と山に籠もる修行者や霊山に登る信者が、六根のけがれをはらい清めるために唱える文句である。

 『六根清浄、お山は晴天』などと唱えることもある。


「六根とは……ええと、五感と精神、だな。視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚、それに意識、ってわけだ」

「なるほど、なんというか、科学的?」

「だな。……で、それぞれに、悪感情があって、レベルみたいなものに分かれていて、現在・過去・未来に分かれて……で、6掛ける3掛ける2掛ける3で108……だったと思う」

「面白い。なんていうか、宗教というより、学問みたい」

「そうかもしれない。仏教は哲学の側面も持つと思うから」


 そんな話をしているうちに3901年も終わろうとしていた。


「107つは旧年中にいて、108つめは年が明けた時にく、という説もあるんだ」

「決まってないの?」

「そのへんは自由だな。……施設の近所のお寺さんは200くらいいてたぞ」

「……いいの?」

「おはらいだから、多い分には構わないんだってさ」

「ほんと、自由」

「だよなあ」


 そして、時計の針が午前0時を示す。

 それと同時に鐘の音が響き、静かになった。

 3902年である。


「あけまして、おめでとう、エルザ」

「ん、あけまして、おめでとう、ジン兄」


 仁とエルザは互いに挨拶を交わすと、隣室へのふすまを開けた。

 そこには礼子が控えている。


「礼子、あけましておめでとう」

「レーコちゃん、あけまして、おめでとう」

「お父さま、エルザさま、あけましておめでとうございます」


 そして部屋に置かれた魔素通信機(マナカム)からも老君の声が響いた。


御主人様(マイロード)、エルザ様、新年あけましておめでとうございます』

「あけましておめでとう、老君」

「あけましておめでとう。今年もよろしくね」


 そして仁とエルザは、夜明けまで少し眠ることにした。

 日の出直前に礼子に起こしてもらう予定だ。


 少し疲れていた2人は、すぐに眠りに落ちた。

 人造人間(ホムンクルス)の場合は、通常の生活では睡眠の必要はないのであるが、意識すれば眠ることができるのだ。

 ちなみに、複体である仁は普通の人間と同じに、睡眠が必要である。


*   *   *


 午前7時頃がカイナ村の日の出である。

 それより15分前に仁とエルザは起きて顔を洗っていた。

 そして天守閣に上り、日の出を待つ。


 おそらく領主邸であるニドー家では、エリス、フレディ、それにグリーナらが同じように東の空を見つめているだろうと思われた。

 そして多くの村民たちも……。


「ああ、ルビーナとシュウも起こしてやろうか。……礼子、声を掛けてみてくれ」

「はい、お父さま」


 礼子はルビーナたちの泊まった客室へと向かった。

 そして数分後、眠い目をこすりながらルビーナとシュウがやって来た。礼子も続いている。


「……おはよう、ジン様……」

「おはようございます……」

「おはよう。ほら、もうすぐ日が昇るぞ」


 地球でもアルスでも、標高が高いほど、日の出の時間は早くなる。

 二堂城の場合、カイナ村の平均よりも30秒ほど早く日の出が見えるようだ。


 茜色に染まった東の空の一点がひときわ明るく輝いたかと思うと、金色の光が放たれた。

 日の出である。

 3902年の、『初日の出』だ。


 太陽セランに向かい、仁、エルザ、礼子、ルビーナ、シュウは柏手かしわでを打ち、合掌して頭を下げた。


 『今年1年が佳い年になりますように』

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 面目次第もございませんが、今週の『異世界シルクロード(Silk Lord)』はお休みさせていただきます。

 来週は更新予定です。


 20210206 修正

(誤)そして数分後、眠い目をこすりながらグリーナがやって来た。礼子も続いている。

(正)そして数分後、眠い目をこすりながらルビーナがやって来た。礼子も続いている。


 20210416 修正

(誤)一方、ルビーナは睡魔に負けて早々に部屋に引き上げている。

(正)一方、ルビーナとシュウは睡魔に負けて早々に部屋に引き上げている。

(誤)「ああ、ルビーナも起こしてやろうか。……礼子、声を掛けてみてくれ」

(正)「ああ、ルビーナとシュウも起こしてやろうか。……礼子、声を掛けてみてくれ」

(誤)礼子はルビーナの泊まった客室へと向かった。

 そして数分後、眠い目をこすりながらルビーナがやって来た。礼子も続いている。

(正)礼子はルビーナたちの泊まった客室へと向かった。

 そして数分後、眠い目をこすりながらルビーナとシュウがやって来た。礼子も続いている。

(誤)「……おはよう、ジン様……」

(正)「……おはよう、ジン様……」

「おはようございます……」

(誤)太陽セランに向かい、仁、エルザ、礼子、ルビーナは柏手かしわでを打ち、合掌して頭を下げた。

(正)太陽セランに向かい、仁、エルザ、礼子、ルビーナ、シュウは柏手かしわでを打ち、合掌して頭を下げた。

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日本人の信心深いけど雑な信仰…良いと思います。 神社?寺?何祀ってるのかよく知らんけど、とりあえず拝んどけば良し!教義?何かあるかもしれんけど知らん。とりあえず拝んどけば良し!他の宗教の神?そういうの…
[一言]  さて、カイナ村は年が明けて3902年になりましたが、蓬莱島は小群国の日付に合わせているのでしょうか。それなら、蓬莱島に関する日付変更線は、世界会議加盟国とは違って180度線ではなく、島の東…
[良い点] >大晦日の夜、年越しそばを食べたあとは二堂城大広間で宴会である。 >これはその昔、仁が領主だった時に始めたことだったが、その後もカイナ村では連綿と続けられていたらしい。 流石は、魔法連盟の…
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