76-04 開館式
ショウロ皇国上空へ転移した『ハリケーン』は、ゆっくりと高度を下げ、トスモ湖を目指した。
その湖畔、コジュの東、バンの北に『アドリアナ記念館』がある。
記念館に隣接する駐機場……飛行船や馬車を駐めておける……に仁は『ハリケーン』を駐機し、ホープに留守居を任せると、エルザ、礼子とともに『アドリアナ記念館』に向かった。
時刻は午前9時。
式典は午前10時からの予定なので、まだ1時間の余裕がある。
記念館前の広い芝生には来賓用の簡易施設が建てられ、寒さを気にすることなく快適な休憩ができるようになっていた。
が、この日は風も弱く、比較的暖かい、いい日和である。外にいても寒くない。そこで少し庭園を見て歩こうと思った仁たちであるが、出迎えの声が掛かった。
「ジン殿、新年おめでとうございます」
「ああ、レグレイ閣下、新年おめでとうございます」
仁たちを出迎えたのはレグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアス魔法技術相だった。
その隣には現場責任者のグラディン・ハロナド・フォン・イステア魔法技術省技術部部長もいる。
「お早いお着きですね。開催者なのに後から来て申し訳ありません」
と仁が言えば、
「いえいえ、こちらは地元ですからな。それに、こちらも『開催国』として楽しみなのですよ」
と返されたのだった。
そんな言葉を交わしながら、簡易施設の中に案内されると、そこにはなんとショウロ皇国皇帝、エルンスト・ルプス・フォン・リヒト・ショウロ、つまり皇帝エルンスト2世が待っていたのである。
「やあジン殿、奥方殿、新年おめでとう」
「新年おめでとうございます、陛下」
「開館式が楽しみでね」
「光栄です」
「……ご先祖様……『大明慈母皇帝陛下』は貴殿の先代と良好な関係だったと聞く。それこそ、他の国とは一線を画すほどに」
「……」
その言葉に、仁は在りし日の『女皇帝』を思い出した。
「貴殿の先代には、色々な技術援助をいただいたことであろう。知る限りでも『フューラー』という名の教育ゴーレムだったか自動人形だったか……を作ってもらっていたという。……にも関わらず、今の我が国は、他国と変わらぬ技術水準である。まことに残念だ」
皇帝エルンスト2世は心底残念そうに言った。
「だから、魔法工学の記念館を我が国に建ててもらえたことがこの上なく嬉しいのだよ」
その言葉には一片の虚飾もないようだった。皇帝エルンスト2世は心の底から、国のため、国民のため、魔法技術の向上を望んでいたのである。
「ありがとうございます。この記念館が、そうした技術者たちの道標になりますよう、切に願う次第です」
そんな話をしていると、招待客が到着したという知らせが入る。
仁とエルザは、開催者であるから、全員に挨拶をするため、一旦簡易施設の外へ出た。
* * *
「新年おめでとうございます。本日はようこそおいでくださいました」
「新年おめでとうございます。こちらこそ、お招きに預かりありがとうございます」
この日の招待客は……。
ショウロ皇国:ショウロ皇国皇帝エルンスト・ルプス・フォン・リヒト・ショウロ(エルンスト2世)、宰相ロデリッヒ・バルベラス・フォン・ハイザー、魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアス、総務相シュロトゲン・ドメール・フォン・カバスタン、魔法技術省技術部部長グラディン・ハロナド・フォン・イステアの5名。(ただしグラディンは記念館建設時の現場責任者だったため、半ば接待側ともいえる)
クライン王国:クライン王国国王メリカランス・リヒト・クライン(メリカランス1世)、宰相フィリステル・バン・トーデス、魔法技術相コーウェン・ラッカ・キドー、産業相テイダー・ゾコイ・ミラナの4名。
フランツ王国:フランツ王国女王カロライン・ド・ラファイエット、宰相ヨアヒムス・ド・ドロウ、総務相クロウ・ド・ショーネ、魔法相ヨーナス・ティグリナの4名。
エゲレア王国:エゲレア王国第3王子で王室工房の名誉最高経営責任者アーネスト・エルム・アンドレア(アーネスト17世)、側近カナージ・パロソファ、宰相チャールズ・クロウ・バラガス、ブルーランド領主代行ログレス・ウィン・クズマ侯爵の4名。
エリアス王国:エリアス王国国王アダルベルト・ニーモ・エリアス(アダルベルト1世)、宰相ヴァスコ・ド・ジーノ、魔法技術相フィオリーナ・ド・ドランテ、魔法技術省次官シトラネラ・ド・ザウス・フィレンツィアーノ の4名。
セルロア王国:セルロア王国国王ボザール・ヴァロア・ド・セルロア、総務相ダイト・キニエ・ラルア、外務相ジューナ・コニー・ボンドの3名。
ミツホ:ミツホ現首長アタル・ムトゥ、世界会議ミツホ代表テイン・ミヤベ、統括技術管理官コウキ・カトウの3名。
ノルド連邦:『森羅』の氏族長ベリアルス、『森羅』のコンダック、『傀儡』のハルナータの3名。
懐古党:名誉顧問エレナ、懐古党幹部アリエッタ・エオリアルの2名。
ノルハ公国:ノルハ公国公王キース・テニック・ド・ノルハ、魔法相ミコ・ビー・サフラン、技術相ジャービー・キーフの3名。
ミマカ公国:ミマカ公国公王ガスパル・デ・ミマカ、宰相モイツ・ミャス・ローダイ、産業相ジンツオ・ミホヤスの3名。
ダーラト公国:ダーラト公国公王ジルベルト・デ・ダーラト、宰相ギックス・ヤーボ・ミヤタ、魔法技術相マインゴ・モーム・ゼータの3名。
ジャグス公国:ジャグス公国公王ニエストル・キリーロ・ジャグス(ニエストル2世)、宰相ベイヤックス・ギア、総務相ザイン・メジーベの3名。
メルカーナ公国:『代理政府』の評議員パエローヴァ・ソンドヴィク、秘書官ジェド・アラモルドの2名。
アヴァロン:最高管理官トマックス・バートマン、最高管理官副官イルミナ・ラトキン、最高管理官秘書フィオネ・フィアス、技術管理官ギジュウ・シツド、資材管理官リザ・コカイン、アカデミー学長セイバン・イライエ・センチ、学長補佐サホ・ショマス、ゴーレム研究室室長ラスナート・ハイルブロン、航空機研究室室長ロア・エイスカー、医療研室長ハーシャ・クラウドの10名。
以上、56名が招待客となっている。
これに仁、エルザ、礼子を加えて59名が『アドリアナ記念館』の開館式出席者である。
* * *
「ご来賓の皆様、本日は遠方よりおいでくださいましてまことにありがとうございます。『アドリアナ記念館』名誉館長として厚く御礼申し上げます」
まずは仁の挨拶から始まる。
「……魔法工学の歴史を詳らかにし、後世に伝えるためにこの記念館を建てました。同時に、過去の残念な出来事も明記し、残すことで同じ轍を踏まないための戒めとして……」
この日のために考えてきた文章だ。
「……『古きを温めて新しきを知る』という言葉がミツホにあるそうです。未来のため、過去の財産を管理する、そんな施設になればと希望しております。これにてご挨拶とさせていただきます」
なんとかとちらずに挨拶を終えた仁は、拍手の中、ほっと安堵のため息をついたのだった。
* * *
その後、来賓代表として森羅の氏族長ベリアルスとミツホ現首長アタル・ムトゥ、それにアヴァロンの最高管理官トマックス・バートマンの3名が挨拶を行ったあと、いよいよ開館となる。
仁の知る日本式に、正面玄関入り口前に張り渡されたテープを、2代目と3代目に仕えている(実は初代から仕えており、2代目と3代目は同一人物なのだが)従者自動人形である礼子がハサミでカットした。
拍手が起こり、開館式は無事終了した。
引き続き、館内の案内が行われる。
案内役はもちろん仁だ。エルザと礼子がそのサポートをする。
まずは玄関ホール。
広めに取られたそこには、初代魔法工学師、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの銅像が建てられている。
威厳を出すため初老の容貌で再現され、背後には単純土木作業用のロックゴーレムを従え、右手には従者自動人形『おちび』の手を引いている、という像だ。
「この『ロックゴーレム』は単純作業しかできませんが、魔力素を切らさない限り半永久的に動き続けることができます」
「ほほう……」
「単純な土木作業には向いていますな」
「初代殿はこうしたゴーレムも開発していたのですね」
「手を引いているのは従者自動人形です、礼子の前身となったものと思ってください。初代は『おちび』と呼んでいたようです」
「ほう、レーコ嬢の前身……なるほど」
「おちび、ですか。なるほど、可愛らしいですねえ」
「初代殿は偉大だったのですね」
「その業績が失われてしまったというのは……」
「それはこちらをご覧ください」
仁たちは、次にホール奥にある特別展示室へと案内する。
そこには『黎明の部屋』と書かれた札が掛けられていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
列席者の名前は……流してくださって結構です……
20210208 修正
(誤)威厳を出すため初老の要望で再現され
(正)威厳を出すため初老の容貌で再現され
(誤)「それはこちらをご覧ください』」
(正)「それはこちらをご覧ください」
(誤)以上、41名が招待客となっている。
(正)以上、56名が招待客となっている。
(誤)これに仁、エルザ、礼子を加えて44名が
(正)これに仁、エルザ、礼子を加えて59名が
(旧)クライン王国国王メリカランス1世
(新)クライン王国国王メリカランス・リヒト・クライン(メリカランス1世)
(旧)エリアス王国国王アダルベルト・ニーモ・エリアス1世
(新)エリアス王国国王アダルベルト・ニーモ・エリアス(アダルベルト1世)
(旧)
記念館前の広い芝生には来賓用の簡易施設が建てられ、休憩できるようになっていた。
が、この日は風も弱く、比較的暖かい、いい日和である。
(新)
記念館前の広い芝生には来賓用の簡易施設が建てられ、寒さを気にすることなく快適な休憩ができるようになっていた。
が、この日は風も弱く、比較的暖かい、いい日和である。外にいても寒くない。そこで少し庭園を見て歩こうと思った仁たちであるが、出迎えの声が掛かった。




