75-31 2箇所での工事開始
11月29日。『メメンタス』の廃棄自動人形をレストアすることになった。
可搬式転移門を使い、一旦全部蓬莱島に運び込み、仁、エルザ、ラインハルト、ビーナ、ステアリーナといった、『魔法技術者』が手分けして作業を行う。
この時に、体格や顔も弄ることになる。
なにしろ、同じ顔、同じ体格が100体もいては不気味だからだ。
とはいえ、100体の顔を全部変えるというのはなかなか難しい。
実際には老君に手伝ってもらい、実在の人物の顔の一部を使うことで乗り切った。
「いやあ、元が同じものを弄って変えてしまうというのも難しいものだなあ」
とはラインハルトのセリフ。
ちなみに、実在の人物の顔を参考にしているとはいっても、上半分だったり鼻の形だったり輪郭だったりと、本当に『一部』なので、万が一にも同じ顔になることはない。
その一方で、体格に関しては、ランダムに選んだ実際の人間の数値を使うことにしている。
「ラインハルトの言うとおり、こんなに面倒くさいと思わなかった」
仁もまた、この作業に辟易していた。
一方、エルザ、ビーナ、ステアリーナは、もう少しマシである。
彼女らは主に女性型自動人形の改造を担当していたのだが、顔を変えるという作業は化粧の延長で多少乗り切ったようだ。
しかしそれでも100体は大変だったようで、
「もう当分やりたくないわ……」
「ん、同感」
「こんなに大変だとは……」
と、こぼしていたという。
ボディの性能に関しては『職人』たちに一任。
2倍から3倍のばらつき幅をもたせたチューンアップを行ったのである。
1つだけ付け加えておくと、出力に関しては、管理魔導頭脳『ヘルツ』の指示で人並みにリミッターを掛けることもできるようになっている。
町が完成した暁には、人並みのパワーで落ち着くことになるだろう。
最後に、彼らの服装に関しては、残る『仁ファミリー』のメンバーと5色ゴーレムメイドたちが協力して用意してくれたのである。
* * *
そんなわけで、この作業にはまるまる1日が費やされた。
「……ああ、なんだか疲れた」
「最後の方は苦行に近かったね」
「もう二度とやりたくないわ……」
夕食時にぼやく担当者たちであった。
それに比べ、服装を担当した残る『仁ファミリー』のメンバーは楽だったようだ。
普通に流通している服を参考にし、若干のアレンジをしただけなので……。
それでも、全部で500着というのはかなり大変で、大半をゴーレムメイドに頼んでしまったということだった。
* * *
11月最後の日、30日には『ヘルツ』と500体の住民自動人形は惑星ヘールに移動。
『メトロポリス』候補地に到着したのは現地時間午前8時だった。
「『ヘルツ』、これから頼むぞ」
『はい、御主人様。お任せください。この地に立派な町を作ってご覧に入れます』
「うん」
一応町並みの目安として、ショウロ皇国の首都ロイザート、セルロア王国の首都エサイア、ミツホの首都ミヤコなど、現存する都市のデータをひととおり入力してあるので、それを参考にして、理想に近い町を作ってもらおうというわけだ。
建材は現地調達が基本だが、特殊なものは老君が送ることになっている。
急がず慌てず、じっくり作ってもらおう、という方針である。
チューンアップした自動人形が主体なので24時間働けるが、『人の街』ということなので、ほどほどにする予定だ。
今は仮家屋を建て終わったところ。
「……うん、この調子で頼むぞ、『ヘルツ』」
『はい、承りました』
老君にも適宜相談して進めてもらうことで、何かあったときにはすぐにサポートできる体制となっている。
また、ヘールにいる『仁ファミリー』のメンバーも、時々見回りに来てくれるということであった。
* * *
仁がやり残した、またはやりかけの仕事はまだまだある。
対外的にも進めなくてはならないのが『運河工事』だ。
現地時間で12月1日、仁はダーラト公国西部、運河建設予定地にいた。
同行しているのは礼子とホープ、『職人』55。
それにダーラト公国側からは宰相のギックス・ヤーボ・ミヤタと魔法技術相マインゴ・モーム・ゼータ、それに内務相のマイセ・ワイ・ハガ。
仁の『ハリケーン』に同乗してこの地に立っている。
「工事予定図と完成予想図は見ていただけましたね?」
「うむ。ジン殿からいただいたものは大変わかりやすく、公王陛下も納得されておられた」
仁の問いかけには宰相が答えた。
「まずは測量を行い、運河の東側にあたる位置に杭を100メートル間隔で打ち込んでいきます。それが終了し次第、掘削に取り掛かります」
「うむ」
「掘削工事には、『ダイダラ』2体も投入します」
「う、うむ」
『ダイダラ』は『タイタン』ベースの重作業用ゴーレム。身長15メートル、重量は約8トン。タイタンより動きは鈍いが、精密動作性は上だ。
それを、『ハリケーン』ではなく、重量物搬送用の『イーグル』2機で運んできたのだ。
『イーグル』は巨大風力式浮揚機。
ダイダラ運搬用だが、カーゴルームを持ち、物資も運搬できる。最大離陸重量は10トン。最高速度時速200キロというとんでもなさである。
「……ジン殿の技術力にはおそれいる」
「まったくもってそのとおり」
「お味方でいてくれて助かります」
ダーラト公国の3人はそれぞれの感慨を述べた。
「それでは、早速工事を始めますが、よろしいですね?」
「もちろんですとも」
宰相は公王印のある書類を差し出した。
「今、この時をもちまして、ダーラト公国は『魔法工学師』ジン・ニドー殿に運河工事を全面的に委託することにいたします」
略式ではあるが、ダーラト公国の重鎮3名同席の上での正式な委託となる。
「承りました。これよりジン・ニドー、運河工事を開始致します」
こうして、アルス屈指の大工事が幕を開けたのである。
* * *
ダーラト公国の3人を『ハリケーン』で送り返してから、仁は『魔素通信機』で老君と連絡を取った。
「老君、それじゃあ予定どおりに頼む」
『はい、御主人様。では、『職人』200体を送り出します』
「杭は?」
『はい。およそ800キロメートルですので8000本の軽銀の杭を用意しました』
「そうか」
軽銀なら腐食に強く、強度も高いので杭にはもってこいだ。
ただ、単価が高いので、仁くらいしか使おうとはしないであろうが……。
もっとも、使い終わったら全て回収してインゴットに戻すので、無駄にはならないのが強みである。
とにかくそういうわけで、測量と杭打ちが開始された。
観察衛星『ウォッチャー』と航空機からの測定も併用するので作業は速く、正確である。
200体の『職人』が1体あたり40本の杭を打ち終えて、第一段階が終了したのは翌日の朝のことであった。
アルスの北半球は冬が来たばかりであるが、赤道近くの工事現場は常夏。
真っ青な空が広がっていたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210202 修正
(誤)ジン殿からいただいたものは大変わかりやすく、公王陛下も納得されていいた」
(正)ジン殿からいただいたものは大変わかりやすく、公王陛下も納得されておられた」




