75-30 メトロポリス
一夜明けて、11月28日の朝となった。
『御主人様、1つ提案があるのですが』
朝食を終えた仁に、老君が話し掛けた。
「うん、何だ? 聞かせてくれ」
『はい、御主人様。……『メメンタス』が所有している、『作り損ない』の自動人形についてです』
「ああ、あれか……」
先日までゴタゴタしていたラシール大陸の『基地』の1つ、『メメンタス基地』。
その地下には、500体ほどの『動かない自動人形』があったのである。
それらは、作ってはみたものの、出来が今ひとつ納得がいかないというような理由で顧みられることなく放置されているのだ。
『それを使って、『ヘール』に町を作ってみるのはいかがでしょうか』
「なるほど、面白そうだな」
『オノゴロ島でも、多少自動人形が住民の水増しをしていますし』
「……言い方はアレだけど……まあな」
『それに『ジョナール基地』でも管理魔導頭脳『ジョナサン』が地下都市を運営していましたし』
「そうだったな」
『枯れ木も山の賑わい、でしたか? 御主人様のお国のことわざでは』
「まあ、な」
枯れ木も山の賑わい、とは、枯れた木でも、禿山よりはまし、また、枯れた木でも山の風情を増してくれる、というような意味で、転じて『つまらないものでもあったほうがまし』という意味で使われることわざである。
人が多いほうが賑やかでいい、というようなポジティヴな意味ではない。
「自動人形が枯れ木かどうかは置いておくとして、いいアイデアだと思う」
『おそれいります。つきましては、そのための管理統括魔導頭脳をお作りいただきたく』
「お、そうだな」
老君からの依頼で、仁は早速魔導頭脳を作り始めた。
助手は礼子と職人1。そしてエルザだ。
「お父さま、この構造材はどういうことですか?」
礼子が不思議そうに尋ねた。
仁の設計には、直径10メートルの構造材が載っていたのだ。
「ああ済まん。説明し忘れたな。前回作った『転移探知機』と同じように、小型の宇宙船内に作り、自力で飛行させて目的地に設置しようと思っているんだ」
「そういうことでしたか」
今の時点でヘールのどこに町を作るか決めていないので、このやり方にしたわけだ。
「宇宙船に転移門を付ければ、住民にする自動人形を、それを使って送り出せるだろう」
「あ、そうですね」
そういうわけで、直径10メートル級の宇宙船を作り、その中心部に管理魔導頭脳を据えていく。
宇宙船は『イカロス2』などと同型にしたので、午前中には完成した。
そして、昼食を挟んで午後2時には魔導頭脳も完成する。
「よし、命名……そうだな、お前は『ヘルツ』だ」
『はい、御主人様。私は『ヘルツ』です』
「町の名前は『メトロポリス』にしよう。……『ヘルツ』、お前はこれから作る予定の『メトロポリス』を管理していってくれ」
『承りました』
こうしてまず、町の管理魔導頭脳『ヘルツ』が完成したのである。
* * *
「あとは場所か……」
「ジン兄、『紛い物』たちも訪れられるように考えたら、『ヴィラ島』の近くがいいかも?」
「まあそれは『転移門』があるから、距離はそれほど問題にならないだろうが」
「ん、それなら、大陸の東側が私たちの当面の開発対象として、西側を『紛い物』たちの地域とするのは?」
「ああ、そんな感じで住み分けるのもいいかもな」
あくまでも仮の住み分けではあるが、わかりやすくていいかも、と仁は思った。
「よし、大陸の西側に、どこか適当な場所を選定しよう」
『御主人様、いずれ……遠い未来に、人も住めるようにするおつもりですか?』
「うん……そうだな。共存できたらいいな」
『わかりました。それでしたら、海辺、港を作れるような場所をお勧めします』
「なるほどな」
移動手段は『転移門』『飛行機』『自動車』『船舶』など、ケースバイケースで使い分けたいと思っている仁である。
老君の意見を取り入れることにした。
「そうすると、『ヴィラ島』よりちょっと北にあるこの小さな湾の奥……はどうだろうかな?」
「ん、よさそう」
西経231度、北緯12度。そこを『メトロポリス』とすることに決めた仁たちであった。
* * *
『メトロポリス』の構想は、さっそく『仁ファミリー』に通達された。
そしてその日の午後には、蓬莱島に全員が集合したのである。
「……ええと、内容は今話したとおりなんだが」
ひととおりの説明をした仁は、皆の反応を待った。
「うん、面白い考えだな。いいんじゃないか?」
まず賛成したのはラインハルト。
「まだまだヘールは開発に時間が掛かるしね。その一環としてみたら面白いと思うよ」
「あたしも賛成」
サキ、ハンナも賛成してくれた。
「反対する理由はないな。ただ、町を一つ作る、というのは大変だぞ?」
ルイスも、賛成しつつもその大変さを口にする。
「それは自動人形やゴーレムに任せようと思う」
「確かに、彼らなら疲れないからね」
「最初だけ、ダイダラとか職人とか、貸し出してもいいかもね」
「資材運搬も手伝ってやらないとな」
「時間はいくら掛かってもいいだろうしね」
等々、いろいろな意見も出たが、反対意見はなかった。
「あとは『メメンタス』の自動人形を使う許可と、少々のメンテナンスかな」
「『メメンタス』への連絡はお任せくだしゃい」
「うん、そっちはマリッカに頼む。あとは、あそこの自動人形はほぼ人間並みの性能しかないはずだから、少しチューンしたいな」
人間の2倍から3倍の力があれば、作業効率はうんと上がるはずなのだ。
「そっちは『職人』100体に任せよう」
他には意見も出なかったので、この件はそれで終わりとし、さっそく実行に移すこととなったのである。
* * *
続けて仁は報告を行っていく。
「あとは、『アドリアナ記念館』の進捗状況なんだが」
『賢者』シュウキ・ツェツィやその伴侶アドリアナ・ティエラについてや、『魔導大戦』と『魔法連盟』の弊害などについても展示・掲示することを説明。
「うん、いいわねえ」
「賛成だわ」
ステアリーナやヴィヴィアンも賛成の意を示してくれる。
そこで仁は、思いつきを口にした。
「それで、ヴィヴィアンには是非、絵を描いてもらいたいんだ」
「え?」
ヴィヴィアンは『語り部』であるが、実は絵を描くのも趣味なのである。そして、かなりうまい。
「『賢者』やアドリアナ・ティエラの肖像とかな」
「私でいいの?」
「もちろん。ヴィヴィアンに描いてもらいたいんだ」
伝承を絵にする、という点において、最適任だと仁は思っている。
「わかったわ。精一杯やってみる」
こうして、『アドリアナ記念館』に関してもまた一歩前進したのであった。
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