75-29 それからの予定
昼食後、仁は老君から時間を少し取ってほしいと頼まれた。
「どうした、老君?」
『はい、御主人様。ちょっとした提案がございまして』
「提案?」
『はい。『アドリアナ記念館』についてです』
「うん、聞かせてくれ」
『はい、御主人様。……記念館に、『賢者』や、その奥様だった『アドリアナ・ティエラ』についても、何らかの形で展示されたらと思いまして』
「なるほどな」
『そのお二方に関しての情報を発信できるのは御主人様だけですので』
「確かにそうだな……」
むしろこの機会を逃すと、アドリアナ・ティエラと『賢者』シュウキ・ツェツィに関して一般に知らせることは難しくなるだろうと思われた。
「そうだな。記念館の1室を使ってでも、アドリアナ・バルボラ・ツェツィ以前のことも知ってもらえたらいいな」
『はい、そう考えます』
「ありがとうな、老君」
仁は老君に礼を言って、展示内容を考え始めた。
相談相手は礼子と老君だ。
「簡単な略年表は欲しいな」
『それは私の方でまとめましょう。御主人様には、そこから抜いたほうがいい項目をチェック願えればと思います』
「なるほど、それがいいか」
「お父さま、岬と島はどうしますか?」
「それなんだよなあ」
岬というのは『マグス岬』、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが養父シュウキを偲んで建てた石碑がある岬だ。
そして島というのは『ツェツィ島』。アドリアナ・バルボラ・ツェツィが眠る孤島である。
仁としては、この2つに関してはそっとしておきたいと思っている。
観光地のようになって、大勢の……そう、工学魔法に興味のかけらもないような人々が、ただ『有名人に因む土地だから』というような理由で訪れ、荒らされるのは嫌だった。
「その2つはそっとしておこう」
「わかりました」
あくまでも『アドリアナ記念館』の中だけ、ということにすればいいと決める仁であった。
「アドリアナ・ティエラさんに関しては、賢者の妻で、工学魔法の基礎を築いた人、という程度に留めようかと思うんだが」
それ以上詳しく記そうとすれば、『賢者』が異世界から来たことに触れる必要が出てきそうだからである。
『そうですね、御主人様。そのくらいが妥当な線かと』
「あとは、ミツホにも知らせて、展示物を決めていきたいな」
その場合はもちろん複製品になるだろうが、と仁は言った。
『アキツさんにもお知らせしたらどうでしょうか?』
『アキツ』は、『賢者』シュウキ・ツェツィが監修した教育指導用の自動人形である。だから礼子の伯母にあたる、といえるかもしれない。
大サハラ沙漠のドームでミツホの人々を見守っていた。その後、仁の庇護下に入り、一時崑崙島に住んだが、その後、魔法連盟を避けて大サハラ沙漠の地下へ移っている。
「そうだな。……『ナギ』と『ナミ』にも知らせてやろうか」
『ナギ』と『ナミ』は初代魔法工学師、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが作った自動人形である。つまり、礼子の兄と姉にあたるわけだ。
ナギは男性型で『賢者』シュウキ・ツェツィの若い頃に、ナミは女性型でアドリアナ・バルボラ・ツェツィの若い頃に似せてある。
仁が再整備し、今もツェツィ島でアドリアナ・バルボラ・ツェツィの墓所を守っているのだ。
都合がいいことに、1月1日の開館式と、一般公開する予定の1月7日の間には日がある。
そこを狙って連れて行ってやればいいだろうと仁は考えた。
「アキツ伯母さまやナギお兄さま、ナミお姉さまとご一緒できるのは嬉しいです」
「そうだよな。よし、その方向で検討しよう」
「あとは……ビーナやマルシア、ラインハルトやステアリーナ……ええい、『仁ファミリー』全員で行こう」
『それがよろしいですね』
2代目の作品として双胴船『シグナス』の模型やアローのフィギュア、『ロッテ』のフィギュアなども置こうと思っているのだ。
そして、2代目のエピソードとしては外せない、エゲレア王国での『ゴーレム園遊会』時の様子を語るため、ステアリーナのクリスタルゴーレム『セレス』やラインハルトの『黒騎士』もレプリカあるいは模型を展示しようと考えていた。
「そうしてみると、準備のための時間ももうあまりないな」
『御主人様でしたら、リストアップが終われば半日でお作りになってしまうと思いますが』
「それでも素材の準備や運ぶ手間や説明書きなんかが面倒くさそうだ」
『私がお手伝いします』
「わたくしも」
老君と礼子が手伝ってくれるなら心強いことこの上ない。
「うん、頼むぞ」
その日は午後3時になってお茶の時間になるまで、仁は老君と礼子と共に『エキストラ展示』の検討をしていたのである。
* * *
「ジン兄、ちょっと提案があるんだけど」
「どうした?」
お茶の時間。
煎茶を飲み、羊羹をつまみながらエルザが切り出した。
「『魔導大戦』と『魔法連盟』について」
「うん」
「どちらも、この世界の魔法技術を後退させてしまった元凶。だから、『アドリアナ記念館』ではっきりさせておくと、いいのでは、と思った」
「そういうことか」
「ん。 ……『魔法工学』は、『魔法と科学の融合』だと、思う」
「確かにな」
「『魔法連盟』はそれを真っ向から否定した集団」
「エルザの言うとおりだな。もう2度と台頭を許したくないもんな」
お茶を一口飲みながら、仁はエルザの言葉を反芻していた。
「それから……初代アドリアナが『科学を取り入れた魔導士』。そして『賢者』シュウキ・ツェツィは『魔法に触れた科学者』と言えるもんな」
「ん、いい表現」
仁はもう一度思考を巡らせる。
『アドリアナ記念館』に、そうした展示物や掲示物を置くのは目的に叶っているといえる。
「部屋数も多めにとっているし、な」
当初は地下1階、地上2階と思っていたが、途中で規模の変更があって、敷地面積はそのままで、最終的には地下3階、地上3階になっていた。
地下は倉庫・保管室・保存室で、地上階が展示室である。
部屋数が増えたのは、各国からの、自国の作品も展示してほしいという要望を受けてらしい。
特に問題でもないので、老君が操縦する仁Dが受け、仁への報告は今になったということだ。
「あとは、今年の大晦日は二堂城で過ごそうかと思ってる」
「ん、私も行く」
『カイナ村ですね。よろしいのではないでしょうか』
そんな相談をしつつ、その日は暮れていったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日1月31日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210131 修正
(誤)「『魔導対戦』と『魔法連盟』について」
(正)「『魔導大戦』と『魔法連盟』について」
(誤)大サハラ沙漠のドームでミツホで人々を見守っていた。
(正)大サハラ沙漠のドームでミツホの人々を見守っていた。
(旧) 昼食後、仁は老君から相談を持ちかけられた。
(新) 昼食後、仁は老君から時間を少し取ってほしいと頼まれた。
(旧)「『魔法連盟』はそれに真っ向から反対した集団」
(新)「『魔法連盟』はそれを真っ向から否定した集団」
20210215 修正
(誤)だから礼子の叔母にあたる、といえるかもしれない。
(正)だから礼子の伯母にあたる、といえるかもしれない。
(誤)「アキツ叔母さまやナギお兄さま、ナミお姉さまとご一緒できるのは嬉しいです」
(正)「アキツ伯母さまやナギお兄さま、ナミお姉さまとご一緒できるのは嬉しいです」




