75-27 仁の飛行機熱
『両機が破損しましたので、決勝戦はこれで終了といたします。優勝者、なし!』
アナウンスに、どよめきが会場に広がった。
これは致し方ないだろう、と仁は思った。
今回の事故は、人間が操縦していたら大惨事になっていた可能性もあるのだから。
そして、操縦系統のダメージも大きいため、応急修理で決勝戦再開……というわけにもいかないのだろう。
何より、礼子が救助しなかったら大破していた可能性もある。
よって、今回の『優勝者なし』になるわけだ。
その代わり、次回も同じ規定で競技が行われることとなったようだ。
「次に頑張ればいいさ」
「そうですね、ジンしゃま」
* * *
「ジン様、マリッカ様、お名残惜しいですが、お気をつけて」
「お出でいただいてありがとうございました」
世話役のトライハルト・スザンヌ夫妻に見送られ、仁と礼子、マリッカは転移門室に入った。
「それじゃあ、また」
「さようなら」
名残惜しいが、他にもやることがあるので、後ろ髪を引かれる思いではあったが、礼子、マリッカと共に『オノゴロ島』をあとにする仁であった。
* * *
『オノゴロ島』と蓬莱島の時差は半日。
蓬莱島の暦……蓬莱島を経度0度とする……では、同日の午後8時。
時差が厄介だと言いながら、仁は調整をしている。
午前0時まで起きていて、それから6時間ほど睡眠をとれば、時差ボケも起きないだろうと考えたのだ。
「……礼子専用機というのも、いいかもしれない……」
時間潰しに食堂でお茶を飲んでいた仁は、そんなことを言いだした。
「ジン兄、それ、何?」
エルザも付き合ってお茶を飲んでいたので、仁の呟きに気が付いたのだ。
「ああ、実は……」
仁は、『オノゴロ島』で見てきた飛行機競技のことをエルザに説明した。
ちなみに、今蓬莱島にいるのは仁、エルザ、マリッカだけだ。
「……というわけでさ」
「参加してみたくなった、と」
「……うん」
「で、自分なりに作ってみよう、と」
「……うん」
「いいんじゃない?」
「……え?」
「ジン兄はここのところずっと忙しかったから、自分のやりたいこともできずにいたし」
エルザはエルザなりに、仁のことを気遣っていた。
「そっか、それじゃあ今日は飛行機作りだ」
「ん、手伝う」
「わ、私も見学させていただきたいでしゅ!」
そういうことになった。
時刻は蓬莱島時間で午後9時半、構想をまとめるにはまだ十分時間がある。
エルザが手伝うと言い出したのは、仁が一晩中製作に没頭しないように注意するためかもしれない……。
* * *
「スペックは今回『オノゴロ島』での競技用のものとする」
全長全幅7メートル以上8メートル以内、全高指定なし。
推進機は『魔法型噴流推進機関』2基以内。
操縦はゴーレムということなので、礼子、ソレイユ、ルーナを想定する。
付加装置として『物理障壁』『魔法障壁』『風除けの結界』を備えるが、取り外し式にしておき、競技によっては搭載しない。
武装も同じ。
『光束砲』『麻痺銃』『魔力砲』各1門。これも着脱式。
『力の長杖』『電磁誘導放射器』搭載。これまた着脱式。
『魔力妨害機』『魔力素除去器』『魔法無効器』もオプションとして搭載可。
緊急脱出用の『転移門』は常時搭載。
最後に『力場発生器』を……。
「どうしようかなあ……」
悩む仁。
『力場発生器』まで搭載すると、完全に競技用の規定から逸脱するからである。
「……よし」
考えに考えた末、機体に『力場発生器』を搭載するのはやめ、代わりに搭乗者……礼子、ソレイユ、ルーナに搭載されているものを利用することにした。
そのままでは搭乗者と機体をしっかりと固定する必要があるが、機体の重心部に『アンカー』となる『中継極』を設置し、そこを中心に『力場』が発生するように調整することにした。
これにより、結果として『力場発生器』を機体に載せた時同様の性能を得ることができる。
そこまで詰めた仁は、時刻が午前0時近くになり、エルザやマリッカ、礼子らの目が険しくなってきたのを感じて、素直に寝ることにしたのであった。
* * *
「ああ、よく寝た」
自分の家、自分の寝床でぐっすりと寝た仁は、すっきりとした目覚めを迎えた。
「おはよう、ジン兄」
「おはよう、エルザ」
ご飯、味噌汁、海苔、お新香、卵焼き、焼き鮭といった朝食を摂った仁たちは、昨夜の続きを行う。
「おはようございます、ジンしゃま」
「おはよう、マリッカ」
昨夜のメンバーが全員揃ったところで、仁は飛行機の外観図を描いてみせることにした。
「こんな感じだな」
『魔導投影窓』に入力機能を持たせた、液晶タブレットのようなイメージで使える製図用のモニタだ。
「はあ……洗練されたデザインですね」
「ん。ジン兄、凄い」
「いや、そう言われると恥ずかしいんだが、これは俺の元いた世界にあった飛行機を参考にしたんだ」
デザインの苦手な仁がしばしば使う手法である。
「それでも、このデザインを作り上げられるということが凄い」
「そうですよねえ」
「さすがお父さまです」
仁が描いたのは、Mー346と呼ばれるジェット練習機や、Fー15(イーグル)に似ていた。
全長が7.5メートルと小型なので風防の占める割合が大きいのはMー346ぽく、垂直尾翼が2枚あるところはFー15っぽい。
「まあ、ずるいとは思うよ。俺はこっちの技術に加えて、地球の技術やデザインも知っているんだから」
「ん、でも、それを含めての『魔法工学師』だから」
「そうですよ、ジン様」
「そう言ってもらえると少しは気が楽になるよ」
仁はそう言いながら、各寸法を詰めていった。
「よし、こんなもんだな」
画面に描いた図面は、ゴーレムプロッターで出力することができる。
また、魔結晶に保存しておくことも。
「礼子、材料を用意するぞ」
「はい」
基本的な構造材は64軽銀。要所要所はアダマンタイトで補強する。
風防はコランダムと地底蜘蛛樹脂の積層材だ。
推進機の魔法型噴流推進機関は仁渾身の作だ。それを2基搭載。
その他の部品も、可能な限り軽量化し、かつ強度も保てるようにする。
そして組み立ては仁、礼子、職人1、2、3、それに搭乗者となるソレイユとルーナで行っていったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日1月29日(金)は10:00に
蓬莱島の工作箱 https://ncode.syosetu.com/n0493fy/
も更新しております。
ご覧いただけましたら幸いです。
20210129 修正
(誤)推進機は『魔法型噴流推進機関』2機以内。
(正)推進機は『魔法型噴流推進機関』2基以内。




