75-26 再戦、そして
ルビーナの『ナイルⅣ』対シュウの『雷光』、その決勝戦が再開された。
天候は晴れ。青空に白い雲が浮かび、風も穏やか。絶好のフライト日和である。
『さあ、昨日は決着がつかなかった決勝戦、その再戦が行われます! 本日は特別ゲストとしてジン様とマリッカ様がいらっしゃっています!』
大歓声が会場を包む。
時刻は午前9時。
『さあ、スタートまであと10秒! ……9……8……7……6……5……』
スタートは滑走路から始まる。
より早く飛び立ったほうが有利なのは言うまでもない。
『……4……3……2……1……スタート!!』
が、実力伯仲の2機は、ほぼ同時に空中に舞い上がった。
機首を思い切り持ち上げて大きな迎え角を取ったデルタ翼の『ナイルⅣ』の方が先に飛び上がったが、空気抵抗のため速度が急には上がらない。
その反面、『雷光』は離陸こそ遅れを取ったが、加速は速く、結果としてほぼ同じくらいに戦闘可能状態となったのである。
その様子は、『ナイルⅣ』『雷光』に搭載した『魔導監視眼』と、小型飛行船に積んだ『魔導監視眼』を使い、大型魔導投影窓に映し出しているのだ。
まず2機は空中戦を行える高度まで上昇を続けている。
少しでも高いポジションを取って、初撃を加えようとしているようだ。
確かに、一般的に言えばより高い位置を取ったほうが有利である。
降下時の速度をプラスできるため、有利な位置取りをしやすいからだ。
だが、昨日散々バトルを繰り返した2機、パイロットのゴーレムは相手の癖を学習していた。
そう、ゴーレムであっても『癖』はあるのだ。
それは、構造が完全な左右対称でないがゆえに生じるものであったり、製作時のクリアランスや誤差の違いから来るものだったりと、原因は様々。
だが、間違いなく癖は存在する。……礼子や老君でさえも。
礼子や老君が他のゴーレムや自動人形と一線を画すのは、自分の癖を知っていて、それを逆手にとり、相手の隙を誘うこともできるからである。
閑話休題。
2機の高度は6000メートルを超えた。
小型飛行船はついていけず、機影を見失っている。
が、決勝戦を戦う2機の優秀なエンジンは、まだまだ余裕を持っているようで、さらに高度を上げていく。
そのまま、浮かんでいた雲に突っ込む2機。
その様子は各機に搭載されている『魔導監視眼』から送られてくる映像で知ることができている。
『これは!』
その映像が乱れた。
高度6000メートルに浮かぶ雲……上層雲の一種である巻積雲は、水ではなく小さな氷の粒でできている。
その氷の粒が風防を叩き、視界を遮ったのである。
速度は時速400キロほど。ゴーレムの視力と反応速度をもってしても、対応に0.5秒ほど掛かった。
事故は、その時起きた。
翼を並べるようにして飛んでいた2機の主翼同士が接触したのだ。
運悪く、翼端の補助翼部分が絡むような形になり、引っかかってしまう。
無理に離れようとすれば補助翼がちぎれることは間違いない。
だが、片方の補助翼が効かず、2機が絡み合った状態では、まともな飛行ができるものではない。
雲を突き抜けた2機は、大きな弧を描いて、地上目掛けて急降下をし始めた。
『危ない! 2機、コントロール不能のようです!』
引っかかった補助翼のために、昇降舵や方向舵の動きも悪くなっているようで、2機は絡み合ったまま錐揉み状態で急降下を続ける。
2機から送られてくる映像を見続けていると酔いそうなくらい、視界がぐるぐると回っていた。
『このままでは海面に落下します!』
降下速度は時速800キロを超えた。どうやら何らかの理由でスロットルも故障したようだ。
「うーん、操縦系統が脆弱だったんだな……礼子、2機を救助できるか?」
「はい、お父さま」
「そうか。それじゃあ、頼む」
「はい!」
礼子は『力場発生器』を使い、来賓席から飛び立った。
『お、おおお! ジン様のレーコ嬢が飛び立ってくださいました! これで安心です!!』
会場では、サポート用の航空機が飛び立つ準備をしていたが、礼子の姿を見て、邪魔にならないようにと離陸を取りやめていた。いい判断である。
* * *
亜音速で礼子は上昇。
高度3000メートル付近で2機を視界に捉えた。
そこから反転し、下降に移る。
速度を同調し、2機と平行になった時点で『エーテルジャマー』と『魔力素除去器』を使い、2機のエンジンを停止させた。
次いで『力の長杖』を使い、2機を捕捉。
礼子は2機が耐えられる程度の加速度で降下速度を落としていった。
* * *
『お見事! レーコ嬢が、無事に『ナイルⅣ』と『雷光』を救ってくれました!!』
どよめきが会場に広がる。
「よくやった、礼子」
「礼子さん、凄いです!」
そして10分後、2機と礼子は会場に無事帰還したのであった。
* * *
「ジン様! どうもありがとう!! レーコちゃん、どうもありがとう!!」
「ジン様、レーコさん、ありがとうございました」
ルビーナとシュウは、仁と礼子に礼を述べていた。
「いやあ、間に合ってよかったよ。……だけど2人とも、操縦系統が脆弱だったな」
仁もそこまで詳しく機体を見ていなかったのが悔やまれた。
そしてもう1つ。
「キャノピーの材質は何を使っていた?」
「えっと、コランダムを」
「僕もです」
「コクピットは暖房を入れていないよな?」
「はい、ゴーレムですから」
「……普通ならそれでいいんだがな……競技では障壁を張らないしな……」
「え、ジン様、どういうこと?」
仁は2人に説明する。
「コランダムは熱伝導率が高いからな」
屋外で、金属製の物体のほうが霜が付きやすいのと同じである。
「だから、ヒーター用の熱線を入れておくかコクピットを予熱しておけば、ああいう場面でも氷が付着しにくいんだ」
「風除けの結界さえ張っていれば、こんなことにはならなかったんだが。まあ、運が悪かったんだろう」
「……反省しなきゃね。競技用だからといって、信頼性を犠牲にしていいというわけじゃないものね」
「ルビーナの言うとおりですね。削れるだけ削って……という設計も反省しないと」
ルビーナとシュウは仁の説明を聞き、いろいろ思うところがあったようである。
「あとはゴーレムか。もう少しだけ視覚センサの性能がよければ、凍りついたキャノピー越しに相手の機体を視認できたかもしれないな」
「それも反省点ね」
「まだ未熟だと実感しましたよ」
「いや、こういう失敗の経験を積んで、ベテランになっていくのさ」
仁自身、初期の飛行機試験で『バードストライク』を起こし、墜落してしまったこともあったのだから。
「次回に生かせれば、それに越したことはないさ」
「はい、ジン様」
「ジン様、わかりました」
2人は神妙な顔で頷いたのであった。
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本日1月28日(木)は14:00に
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