75-25 助言
オノゴロ島に1泊した翌朝。
「お父さま、今日のご予定は?」
口をすすぎ顔を洗い終えた仁に礼子が尋ねた。
「うーん、そうだなあ……約束した『魔導監視眼』を付けた小型機を作って、それから決勝戦を見たら蓬莱島に帰るつもりだ」
「わかりました」
その前に仁は、ルビーナとシュウの機体を間近で見せてもらうつもりであった。
が、まずは朝食である。
今朝の献立は和風。
お粥、梅干し、昆布の佃煮、油揚げとネギの味噌汁、メジカ(シャケ)の切り身、お新香。
「うん、この梅干しは美味いな」
「すっぱいでしゅ」
「佃煮もいい味だ」
「よく煮込まれていますね」
朝食は仁、礼子、マリッカの3人で、である。もっとも、礼子は食べないので、お代わりをよそったりお茶を注いだりしていた。
「ああ、美味かった」
「美味しかったです」
仁とマリッカは満足そうに食後の玄米茶を飲んでいる。
「もう少ししたら、ルビーナとシュウの機体を見せてもらいに行こう」
「はい」
2機とも、決勝戦を行った飛行場の格納庫に置かれているはず。
2回めの決勝戦は午前9時から。今は午前7時半である。あまり時間はない。
「ジン様、マリッカ様、お待たせ致しました」
そこへ世話役のトライハルト・ランドルがやってきた。
「お、待ってたよ。行こう」
移動は『転移門』なので一瞬である。
「あ、ジン様、マリッカ様」
「ようこそ!」
ルビーナとシュウが飛行場の転移門で出迎えてくれた。
「さあ、見てちょうだい! そして悪いところをどんどん指摘して! 今日は無理でも、次回までには直すから!!」
「ルビーナはいつも前向きだな」
「それがあたしの取り柄だもん」
「はは」
そんな会話をしながら格納庫へ。ここは簡易整備ドックを兼ねているようだ。
「おお」
なかなか広い内部に、仁も感心する。
その中央部に、2機の飛行機が置かれていた。
全長はおよそ8メートルほど。かなり小型である。
その横にパイロットのゴーレムが立っていた。こちらも小学生ほどの身長で、小柄だ。
「今回のレギュレーションは?」
「全長全幅が7メートル以上8メートル以下、全高は規定なし。魔法型噴流推進機関駆動。推進機は2基まで。操縦はゴーレム……だったわ」
細かい規定もあるが、そこまでは仁も尋ねてはいない。
規定のうち7メートル以上、という点は、空中戦を想定していると思われた。
「なるほど、その上で空中戦か……大きいと不利だもんな」
ターゲットが大きければそれだけ被弾しやすくなる、というわけである。
「で、ジン様、どうかしら?」
「うーん、そうだなあ……ルビーナの機体は85点、シュウは80点といったところだな」
「厳しいわね……」
「厳しいですね……」
「あ、言っておくが、俺自身が作ったものでも100点満点はないぞ? 礼子のボディだって95点といったところだ。……娘としては100点を通り越して120点満点だけどな」
満点としてしまうと、それで進歩も発展も止まってしまう、というのが仁の持論である。
そして、いつまでも挑戦者でいたい。それが仁の信条である。
「……なるほどね。なら、85点というのはかなりいい成績ね」
「ええと、僕の方が5点低いのはなぜでしょうか」
「うん。それはこれから、ざっと説明するよ」
まずはシュウの『雷光』から、仁は評し始めた。
「減点したのは、水平尾翼の位置だ」
「どういうことですか?」
「前から見て、主翼と同じ高さにあるだろう?」
「はい。空気抵抗を少しでも減らそうと思って……」
「そのせいで、水平尾翼の効きが悪くなっているんだ。運動性能が悪いだろう?……もちろん、僅かに、だが」
「あ、はい」
「それは、主翼が発生させた空気の乱れの中に水平尾翼が入るからなんだ」
主翼の後端からは乱流と呼ばれる空気の乱れた発生し、後方へ流れていく。
その乱れの中に水平尾翼が入っているため、若干水平尾翼……昇降舵の効きが悪くなっている、と仁は評したのだった。
「そうだったんですか……」
「以前、模型飛行機競技の時、誰かに話したような気がするんだがなあ……徹底しなかったか……」
更に仁は、こういう時は模型を使って風洞実験をするといい、と説明した。
風洞実験とは、人工的に風の流れを作り出し、あたかも機体が飛んでいるような状態にしておいて、空気抵抗などの発生を調べるものである。
航空機に限らず、自動車の車体設計でも行われている。
「風洞実験ですか……なるほど」
「トライハルト、どこかに作れないかな?」
仁は世話役のトライハルトに相談してみた。
「はい、ジン様。可能だと思います。この後手配してみましょう」
「頼む。詳細は『テスタ』宛に老君から送らせよう」
「ありがとうございます」
蓬莱島でも風洞実験は行っている。そのデータを使えば、『オノゴロ島』でもすぐに実験用の風洞を作ることができるであろう。
「あともう1つの減点ポイントは上反角が大きすぎることかな」
「やっぱりそうですか」
後退翼はそれ自体が上反角効果を持つため、直線翼と同等の上反角を付けると復元性が強くなりすぎる。
そのため、運動性が落ちる原因となっている、と仁は見たのであった。
「俺も航空力学は素人同然だから、あまり突っ込んだことは言えないけどな」
実際、仁が作った航空機は、過剰出力とも言えるエンジンパワーで強引に飛んでいる節がなきにしもあらず……であった。
「その点を直していけばいいと思う」
「わかりました」
「ジン様、私のは?」
「ああ、次はルビーナの『ナイルⅣ』だな」
「はい!」
「全体のデザインはいいな。さすがだ」
「ありがとうございます!」
仁自身、デザインが苦手なのでそういう点はルビーナを評価している。
「ただ、デルタ翼の実機って、低速で揚力が小さいだろう?」
「あ、はい」
折り紙飛行機の大きさであれば、空気の密度は十分に飛行機を支えてくれるが、実機になるとそうはいかない。
離着陸時に大きな迎え角(飛行方向に対する主翼の角度)が必要になってしまうのだ。
「俺も出た大会のときは模型だったから、『ナイル』だっけ、あの大きさでも十分な揚力が得られたんだが、実機になるとそうはいかなかったろう?」
「うん……はい……」
「そのあたりは、ゴーレムパイロットなので危なげなく着陸させていたけどな」
人間だったら10回に3回くらいは着陸に失敗しそうだ、と仁は言った。
「それが減点ポイントだな」
「わかりました……。でも、どうしたらいいのか……」
「それもまた、風洞実験で、同じデルタ翼でも前縁の角度を変えるとか、断面形状を変えるとか、実験していくことだな」
「わかりました!」
2人と話していて、ますます自分も参加してみたくなった仁である。
その後約束どおり、仁は礼子とマリッカを助手に、空中からも戦闘の様子を中継できるようにと、小型飛行船に『魔導監視眼』を取り付けたものを3機製作したのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210127 修正
(誤)あ、言っておくが、俺自信が作ったものでも100点満点はないぞ? 礼子だって95点といったところだ」
(正)「あ、言っておくが、俺自身が作ったものでも100点満点はないぞ? 礼子のボディだって95点といったところだ。……娘としては100点を通り越して120点満点だけどな」
(誤)もっとも、礼子は食べないが、お代わりをしたりお茶を注いだりしていた。
(正)もっとも、礼子は食べないので、お代わりをよそったりお茶を注いだりしていた。




