74-02 フラグ回避のために
『メメンタス』のあるポジションは、ラシール大陸南西部にある小さな山の地下だった。
つまり保安施設『ポーセ』は、その山の山頂付近にある可能性が高い、
老君は、まず『覗き見望遠鏡』で下調べを行うことにした。
『間違いなく、この山の直下……海抜でいうとマイナス100メートルのところに『メメンタス』がありますね』
ならば、その『上』に『ポーセ』があるはずである。
だが……。
『これは……!』
老君をして驚かせたもの。
それは、『切り取られた山頂』であった。
切り取られた大きさとしては、底面が直径2キロメートル、高さが200メートルの円錐で近似できる。
もちろん自然物なのでゴツゴツ、凸凹しているし、底面も円形とは程遠い形をしているが。
とはいえ、老君を驚かせたのは切り取られたという事実ではない。
切り取られたということを、観察衛星『ウォッチャー』からの観察で確認できなかったことなのだ。
『幻影結界に似たものでしょうね』
原理としては立体映像である。近くに寄れば明瞭度が違ったり、木々が風に揺れていなかったり、不自然な点が多々あるのでそれとわかる。
しかも実体はないので、かつて旧レナード王国上空に見られたものよりは劣る。
とはいえ、そのせいで今日まで『ウォッチャー』からの観察で見つけられなかったのだから、あまり馬鹿にできない。
『……反省は後回しにして、問題はこの山頂です』
老君は『覗き見望遠鏡』を使い、山頂のあった場所をつぶさに観察していく。
『平坦ですね。幾何学的な平面で切り取られています。その後、砂や土により隠され始めていますが……これは『魔法力場』によるものでしょう』
『魔法力場』とは、魔力で作った力場、つまり目に見えない力の塊である。
同種のものに『力の長杖』がある。こちらは棒状。
今回使われた『魔法力場』は平面状であろうと思われた。
『……これを使われたら、礼子さんと言えども真っ二つですね。障壁を張れば大丈夫かもしれませんが』
老君は、大急ぎで仁を呼び出し、説明を行った。
「……『魔法力場』か。恐ろしい魔導具だな」
『はい、御主人様。おそらく、耐えられる物質はございません』
「かもしれないな」
「ジン兄、物質では耐えられないということは、残るのは魔法?」
一緒に話を聞いていたエルザは、少し青ざめている。
礼子でも敵わないかもしれないという事実が恐ろしかったのであろう。
「いや、必ずしもそうじゃない、もちろん魔法は使うが、それはあくまでも手段だ」
「つまり?」
「『空間遮断結界』もしくは『防御盾』だよ」
「ああ、なるほど」
通常の『物理障壁』では力不足の可能性が高いが、空間の連続性を断ち切る『空間遮断結界』なら、間違いなく『魔法力場』を防げる。
一方『防御盾』は『整波器』を応用して作られた、平面状のバリアである。その強度は、既存のどんな障壁よりも上だ。
より強い方を用いればいいのかもしれないが、『自由魔力素』の消費量が段違いである。『空間遮断結界』は『防御盾』の100倍くらいの魔力を消費するのである。
蛇足ながら、この2つは特殊過ぎる障壁であること、世界最高峰であることなどから、『仁ファミリー』内部でも混同されていたが、最近はきちんと定義を理解してもらい、呼び分けられるようになっている。
「『忍部隊』には超小型の『空間遮断結界』を持たせられたけどな……」
等身大の者たちにはちょっと無理がある。
「『防御盾』を改良する方向で検討してみよう」
「ん、手伝う」
「それなら、あたしもー」
仁とエルザに加え、ハンナも参加した。
3人は知恵を寄せ合い、検討を行う。
「まず、改善点を出してみよう」
「ん、基本」
仁とエルザが話し合いの進行方向を確認し、ハンナがすかさず意見を述べた。
「今の『防御盾』は、あまり自由な形状を取れないね」
「だな。魔力の消費量もまだまだ大きい」
「もっと強度が上げられるなら、より安心」
とりえあえず改良目標が3つ挙がった。仁たちは1つ1つを検討していく。
「自由な形状は……制御シーケンスを見直すことで改善できるんじゃないかな?」
そこで思いつくままに改善を行った『魔導式』を、老君にシミュレートしてもらうと、
『御主人様、おおよそ50パーセントほどの改善がなされたようです』
という答えが返ってくる。
「おお、そうか」
思いつきだけで50パーセントの改善ができたなら、じっくり見直せばさらなる改善が望めるだろうと、仁はエルザとハンナにも協力を頼んだ。
「ん、ここの魔導回路、効率が悪い。……こう直せば、もっとよくなる」
「この命令、これじゃない方がいいんじゃないかなあ?」
自分は魔法を使えなくても、ハンナの卓越した頭脳は魔法理論を深く理解している。そんじょそこらの魔導士では太刀打ちできないほどに。
そんな2人の協力を得、ときどき老君にシミュレートしてもらいながら、仁たちは3時間ほど掛けて『防御盾』の改善を終えた。
「発生装置の大きさは半分になったな。その分消費魔力も減らすことができた」
「ん。形状も、体表面に沿わせることができるようになった」
「ああ、そうだな。……つい最近、『反射結界』を盾表面に沿わせようとあれこれやったのが役に立ったよ」
「何が役に立つかわからないね。……強度も多分これまでの2倍以上あると思うけど」
収束率を向上させた結果である。これを『防御盾改』と呼ぶことになった。
「これなら、普通の大きさのゴーレムや自動人形なら連続して展開できるんじゃないかな?」
蓬莱島のゴーレムや自動人形は全て『魔力反応炉』を搭載しており、仁の設計と調整によって100パーセント近い効率を誇る。
通常の動作ではその2割くらいしか使っていないのだ。
『はい、御主人様。唯一、礼子さんが50パーセント以上の出力を出しながらだときついと思われます』
「そっか……どうするかな」
仁は考えた。ここで『それぐらいなら十分だろう』と妥協するのは破滅フラグである、と。
礼子が60パーセントを出すようなシチュエーションが生じ、そこに魔法力場で攻撃される可能性だってあるのだ。
最低でも出力100パーセントを出しながら『防御盾』が展開できないのでは不安であった。
「『魔力反応炉』の見直しもするか。……礼子の胸部筐体にはまだ若干の余裕があるんだよな」
仁はこれを受け、礼子の『魔力反応炉』を並列でもう1個増やすことにした。
そちらは、平常時にはアイドリング状態としておき、『防御盾』を展開するときにのみ出力全開になる。
この後、同じ改良が蓬莱島の全ゴーレム・自動人形に施されることになるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201118 修正
(誤)仁はエルザとハンナにも強力を頼んだ。
(正)仁はエルザとハンナにも協力を頼んだ。
(旧)「これなら、普通の大きさのゴーレムや自動人形なら連続して展開できるだろうかな?」
(新)「これなら、普通の大きさのゴーレムや自動人形なら連続して展開できるんじゃないかな?」




