74-01 罠か真実か、虚か実か
3901年11月11日、『オエステ2』では『マリッカD』と元『始祖』である『紛い物』8人との初顔合わせが行われていた。
「……マリッカ……『森羅』のマリッカと申します」
『紛い物』たちはそれぞれに名乗った後、
「おお、これは確かに我らと祖先を同じくする者!」
「……そうか、我らの全てが無駄になったわけではないのだな」
「そうですね、少なくとも一部は、こうして細々とでも、この惑星の上で血統を繋いでいるのですね……」
「会えて、よかった」
「これなら、『オエステ2』の『主人』となっていてもおかしくない」
「我らにも縁のある施設だ。よろしく頼む」
「これからも会いたいものだな」
「いつか、他の同族にも会わせてもらいたいものだ」
等々、概ね好意的に受け入れられた。
今や人並みのスペックしかない『紛い物』たちにはマリッカDが『自動人形』のボディであることは見抜けていない。
「お茶のおかわりはいかがですか?」
「おお、いただこう」
給仕をしているのは5色ゴーレムメイドのアクア10。
他にも、ナンバー10つまりルビー10、アメズ10、トパズ10、ペリド10が臨時で蓬莱島から出張してきている。
「うむ、この茶菓子も美味い」
この日、出しているのは煎茶とかき餅、それに芋ようかんだ。
歯ごたえを楽しめるよう、堅焼きの醤油味と、さっくさくの塩味。そしてしっとり甘い芋ようかん。
煎茶との相性は抜群で、『紛い物』たちは上機嫌であった。
別にこれといった目的があっての集まりではない。
『紛い物』たちが人畜無害だと思われたので、『マリッカD』を引き合わせたのである。
そもそも『オエステ2』の現『主人』であるから、いつまでも顔を見せないのもおかしいわけだ。
「……その後、保安施設『ポーセ』の調査は進んでいるのかな?」
この発言は仁、いや仁Dによるもの。マリッカDと共に出席している。
で、実際の仁は老君の『覗き見望遠鏡』によって、『オエステ2』の『統括管理魔導頭脳ルゥカー』が派遣した3体の万能ゴーレム『MGー1』から『MGー3』までの活動状況は把握していた。
「はい、ジン様。『ルゥカー』は順調だと言ってました」
「そうか」
* * *
その『ポーセ』調査隊である3体は、『忍部隊』がたどったルートを忠実になぞり、『ポーセ』があるかもしれないと思われた巨大円形ホール手前まで来ていた。
途中に張り巡らされていた『魔法障壁』や『物理障壁』は消えており、苦労せずにここまで来ている。
彼らの目の前には、ハンドルを回転させて開くタイプの扉があった。ロックは掛かっていないのは確認済み。
「MGー1、この先にあるのが、『ポーセ』があるかもしれなかったホールかな?」
「MGー2の言うとおりだと思う。……MGー3、まず私が扉を開けてみる。お前とMGー2は5メートルほど離れていろ」
「いや、僕が開けますよ」
「いや俺が」
「それは私がやる。これは譲れん」
MGゴーレム3体の1人称は、面白いことにMGー1が『私』、MGー2が『俺』、MGー3が『僕』と設定されている。
結局、リーダーであるMGー1の指示に皆従うことになった。
「では、開けるぞ」
そして、ハンドルを回していくMGー1。少しずつ開いていく扉。
MGー2とMGー3は左右に5メートル離れ、様子を窺っているが、扉の中は静かなものだった。
扉が八割方開いたところでMGー1はハンドルを回す手を止め、中を覗いた。開口部からの視界では十分な確認が得られないからだ。
「……動きはない。まず私が入る。30秒間何ごともないようならMGー2が入れ。そしてまた30秒待機し、何ごともなければMGー3も入ってこい」
「了解」
もちろん何かあった場合は即撤退が基本である。
MGー1は素早い動きで扉をくぐった。
「む……」
報告にあったとおり、動きのない部屋であった。
直接見たわけではないMGー1にはわからなかったが、『忍部隊』が訪れたときよりも、さらに『動き』がなくなっていたのだ。
* * *
動きがないことは、『魔法障壁』がないため『覗き見望遠鏡』で観察することができる蓬莱島でも感じ取られていた。
「老君、理由はわかるか? ……前回の罠が失敗したからではないかと思うんだが」
『はい、御主人様。それがきっかけになったことは間違いないでしょう』
「そうか」
『はい。『忍部隊』が罠と思われる妨害措置を辛うじてすり抜けたので、同じ手は無駄と判断したものと思われます』
「なるほど。それで、あのホールは完全放置か」
『それはわかりません。……おそらく、監視だけは行っているのではないかと』
「まあそうなるか」
『あと一つ。前回はなかった、ハンドル式の開閉装置が付いております』
「あ……。つまり、別の罠があるということか?」
『そこまではわかりません』
思った以上に『ポーセ』は慎重、あるいは狡猾なのかもしれないと仁は思った。
「……老君、ホールの階の下にあった倉庫な」
『はい』
「魔導具が並んでいただろう?」
『はい、御主人様』
「あれも罠の可能性ってあるかな? ……ミスリードを誘うための、さ」
仁からの質問に、老君は1秒ほど沈黙した後に答えた。
『御主人様、その可能性は高いです。恥ずかしながら、私は検討外にしておりました。申し訳ないことでございます』
「いや、気にしないでいい。……で、詳細は?」
『はい、御主人様。『人がいるのではないか』という疑問を抱かせるためでしょう』
「なるほどな」
『通信の魔導具』『掃除の魔導具』『空調の魔導具』『浄水の魔導具』『滅菌の魔導具』などがあったわけだが、掃除・空調はともかく、浄水・滅菌は生物のためのもの、と考えられる。
それが見つかったということは、どこかで使われている、もしくは使われていた、ということになり、生物つまり『人間』の存在を暗示しているというわけだ。
『ですが、逆に『掃除』『空調』がなされているため、あの魔導具がどのくらいの過去に置かれたものかを特定しづらくなっております』
「そりゃそうだ」
空調が行われ、掃除がなされているために埃の蓄積がなく、経過時間を推測できなかったのである。
「俺としては、生物の存在はちょっと信じてはいないんだけどな」
『それはなぜですか?』
「食料だ」
『それは私も考えました』
水については『浄水の魔導具』で供給するにしても、食べ物はそうもいかない。
そして食べ物関係の痕跡がまったくなかったので、仁も老君も住民がいるという可能性を考慮しなかったのである。
つまり、ミスリードを誘われなかったわけだ。
『それから、生活排水をまったく見かけませんでしたし』
「それもそうか」
人間がいて生活しているなら生活排水が発生しないはずがないわけで、それがないということは住民がいないというわけである。
『ただ、あそこではない別の場所に『ポーセ』の主人がいる可能性はあるわけですが』
「それもそうだな。……『メメンタス』や『ポーセ』のある場所……『ポーセ』の場合は『あった場所』か。……それはわかっているから、こっちは地上部を調べてみるか」
『よい考えですね。早速計画を立てましょう』
そういうことになったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201117 修正
(旧)この発言は仁、いや仁D。マリッカDと共に出席している。
(新)この発言は仁、いや仁Dによるもの。マリッカDと共に出席している。
(誤)彼らの目の間には、ハンドルを回転させて開くタイプの扉があった。
(正)彼らの目の前には、ハンドルを回転させて開くタイプの扉があった。
20201118 修正
(旧)
「それもそうだな。……『メメンタス』や『ポーセ』のある場所はわかっているから、こっちは地上部を調べてみるか」
(新)
「それもそうだな。……『メメンタス』や『ポーセ』のある場所……『ポーセ』の場合は『あった場所』か。……それはわかっているから、こっちは地上部を調べてみるか」
20210210 修正
(誤)
他にも、ナンバー10つまりルビー10、アメズ10、トパズ10,ペリド10が臨時で蓬莱島から出張してきている。
(正)他にも、ナンバー10つまりルビー10、アメズ10、トパズ10、ペリド10が臨時で蓬莱島から出張してきている。




