73-50 助言と反省と正当な手段と
遅れました <(_ _)>
「うむ、やはり熱線は反射に限るな」
『ジェドエフ』が言った。
「ええ。盾の表面に添わせて『反射結界』を構成すればいいでしょう」
「それには、盾の材質をミスリルにする必要があるぞ?」
『ルセネト』と『テプへレス』も意見を述べた。
ようやく話し合いっぽくなったな、と思う一方で、疑問が生じる。
そこで仁Dは疑問を口にした。
「ええと、ミスリル銀は、魔力の伝導性がいいと同時にシールド効果もあるので、結界をまとわせるのは難しいのでは?」
すると『ジェドエフ』がにやりと笑った。
「おお、ジン君に一矢報いられそうだぞ」
「さすがの『魔法工学師』にも知らないことがあったか」
どうやら何かコツがあるらしい、と仁Dを操縦している仁は思った。
なんとなく悔しいので、大急ぎで考えを巡らせる仁。
ミスリル銀の魔力伝導性やシールド効果は、電気や電磁波に対する銅や銀のそれと似ている。
また結界を、留まった魔力と考えると、静電気になぞらえることができる。
そして、金属は静電気を帯びにくいのだ。
(静電気……電荷を金属に溜めるといえばコンデンサ(キャパシタ)か……もしかして……)
「絶縁かな? 盾の持ち手部分を魔力の絶縁体にするなどして」
「うむ? お、おお、そのとおりだ。さ、さすがだな、ジン君」
「こ、こんな短時間で推測してしまったか……」
「さすが『魔法工学師』……」
『紛い物』たちも呆れ気味の驚きを顔に浮かべている。
「そのとおりだ。取っ手に魔力の絶縁体を使うことで、盾そのものに結界の効果をまとわせられる」
「だが、魔力の絶縁体ってなかなかないぞ?」
「それはそのとおりだ」
あっても加工性が悪かったり、強度が足りなかったりする。
仁も、今すぐにこれ、という物質は思い当たらなかった。
「……作ったことがあったのか?」
「いや、理論だけだな」
『ジェドエフ』の答えに、聞いた仁本人の力が抜ける。
「それなら、磨き上げたミスリル銀の盾に強化を掛けたほうがいいのでは?」
『魔法工学師』が使う『強靱化』は分子間の結合力をアップする。
つまり融点も上がるわけだ。
銀の反射率は95パーセント以上。
赤色光が98パーセント、緑色光98パーセント、青色光97パーセントというデータも見られる。
「工学魔法で完全に平滑な表面を作れば、98パーセントくらいはいくだろう」
熱線の2パーセントを受けて融点にまで上がるかどうかは今のところ不明だ。熱線魔法のデータがないから。
「『強靱化』で足りなけりゃ、冷却魔法を付与すればいい」
融点に達する前に冷却してしまえばいい、と仁Dは言った。
その発想に『紛い物』たちは感心する。
「おお」
「さすがジン君。アイデアが豊富だな!」
* * *
だが。
蓬莱島で仁は仁Dを操縦しているわけだが、その双方の様子を見ている者がいた。
「んー……ジン兄、よくわからないんだけど、反射結界を盾に沿わせる意味って、あるの?」
エルザである。
その言葉に、仁も仁Dの操縦を止めてしまう。
間髪入れずに老君が操縦を引き継いだので、『オエステ2』にいたもので操縦者が入れ替わったことに気が付いたものはいない。
「え? ……うーん……ないな……」
「なんで盾に拘るのかと思った」
「だな……おそらく、限られた平面状に展開するのがやや難しいことからじゃないかな?」
「なるほど」
* * *
「うん? なぜ結界のみで展開しないのか、だと?」
「そうなんだ。何か特別な理由が?」
「結界が安定しないからだ」
「え?」
『ジェドエフ』の説明を聞いてみると、彼らが使う『反射結界』は非常に不安定で、平面を保つことが難しいのだという。
確かにそれなら、物質の表面に沿わせるという発想に行き着いてもおかしくないな、と仁は納得した。
「ええと、『魔導式』とか『魔法制御の流れ』とかわかるかな?」
彼らがどうやって『反射結界』を発生させているのか知りたくなった仁は、仁Dを通じてそんな質問を繰り出す。
「もちろんだ。私はそっちの専門だったからな……こう、こう、……そして、こうなっている」
「なるほど」
仁は仁Dの目を通してその構成を読み取り、大きな欠陥を発見した。
「……ここの『魔導式』だが、条件AとBの時はいいが、Cの時におかしなルーチンにジャンプしているぞ」
「何!? そんな筈は…………本当だ」
仁の目と解析力は、直観的に違和感を感じ取り、その部分をつぶさに調べ、おかしな部分を見つけ出していたのである。
「『魔法工学師』ジン君。脱帽だよ」
「いや、俺だって本来なら盾に結界をまとわせるという話の段階で疑問を口にしなければいけなかったんですよ」
なんとなく違和感はあった。
が、『始祖』の言うことだから、また、『面白い発想だ』という思いも手伝い、疑問という形をとらず、むしろ喜々として再現方法を考えるという方向に向いてしまったのだ。
「熱線魔法は速い。質量のある盾を構えるより、結界を展開する方が早いでしょう」
「で、あるな」
そういうわけで、熱線を反射する結界を発生させる魔導具が製作され、3体の万能ゴーレムに組み込まれたのは15分後であった。
* * *
『ソードブレイカーと熱線反射結界。これで対策はできましたね』
『ルゥカー』は満足そうな声を出した。
「ああ。だが、こちらが予測しない武器を持っている可能性もあるんだ。十分に注意していけよ」
『わかっております、ジン殿。……さあ、『MGー1』『MGー2』『MGー3』、『ポーセ』の情報をできるだけ調べてきなさい』
『MGー』というのは万能ゴーレムのことらしい。
かくして、『ルゥカー』は保安施設『ポーセ』調査に乗り出したのである。
* * *
蓬莱島では、彼らの様子を老君が『覗き見望遠鏡』を用いて追っている。
「どこまで行けるかな?」
『わかりません。『MG』でしたか、彼らに対する『ポーセ』の反応は未知数ですから』
「そうだな」
『オエステ3』が滅ぼされたのは、『オエステ1』『オエステ2』以上に暴走していたがゆえ、とも考えられる。
ならば当面の危険はないのだが、『ポーセ』自身が暴走している可能性も否定できないのである。
「少しでも早く、できるだけ穏便な対処をしたいからな」
『始祖』の手になる希少な施設である。できればアルス世界のために役立てたいと仁は考えていたのである。
秋の終わりとはいえ、亜熱帯にある蓬莱島には心地のよい風が吹き抜けていった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
長くなりそうですので章を分けます。
20201116 修正
(誤)3地の万能ゴーレムに組み込まれたのは15分後であった。
(正)3体の万能ゴーレムに組み込まれたのは15分後であった。
(誤)ようやく話し合いっぽくなったな、思う一方で、疑問が生じる。
(正)ようやく話し合いっぽくなったな、と思う一方で、疑問が生じる。




