73-49 彼らにも考えてもらうことにしたが
仁Dは『ルゥカー』に意見を述べている。
「『ポーセ』がどんな戦力を持っているか、推測しているのか?」
『はい。『鞭』『熱線系魔法攻撃』『スパイクキック』などですね』
「……それがわかっていて、対策をしないのか?」
『はい、特には。そうした武器も、『当たらなければ』いいのです』
「本気で言っているのか……」
どこかで聞いたことがあるようなセリフに、仁Dはがっくりしたように肩を落とした。
「どうして『当たらない』と言えるんだ?」
『速いからです』
「うーん、どのくらい速いかわからないが、ちょっと見せてもらえないか?」
『わかりました』
「やっぱり模擬戦で、がいいだろうな」
そういうわけで、3階層上にある広いホールで模擬戦を行うことにした。
ホールの広さは直径30メートルほど。天井までの高さは7メートル。速さを十分に活かせる広さがある。
(まあ、まずは小手調べと行くか)
『ルゥカー』側は3体全部を繰り出している。
仁Dはまず、『職人』101を出してみることにした。
そして『紛い物』たちはもちろん全員見物だ。
「この『職人』は技術系のゴーレムだが、戦闘力が皆無というわけじゃないからな」
そして仁Dは、適当な素材からやっつけ仕事で作った鞭を『職人』101に持たせたのである。
材質は青銅なので、『ルゥカー』のゴーレムの合金鋼の外装に傷をつけることはないだろうと思われた。
もっとも、傷くらいならすぐに仁Dが直してしまうが。
「それでは、始め!」
3対1の模擬戦が始まった。
『ルゥカー』の万能ゴーレムは、確かに素早い動きをしていた。
「だが、単調だな」
直線的な動きだけでは『職人』101を翻弄することはできない。
『職人』101は変幻自在な動きで3体を翻弄する。
「おお」
「見ごたえがあるな」
「ジン君のゴーレムは素晴らしい」
『職人』101が振るう鞭は、立て続けに万能ゴーレム2体にヒットした。
もう1体は後方にいたため、隙を見て2体の間から飛び出し、『職人』101に剣を突きつけてきた。
が、『職人』101はそれを難なくかわすと、鞭を使ってゴーレムの剣を巻き取ってしまったのである。
「それまで」
これはあくまでも模擬戦であり、壊し合いではないので、仁は終了を宣言する。
『……』
「どうだ、『ルゥカー』?」
監視用の魔導監視眼で一部始終を見ていたはずの『ルゥカー』は、すぐに返答しなかった。
が。
『……狭い部屋では、鞭は使いづらいはずです』
と、負け惜しみのようなことを言い始めた。
「ふむ、一理あるかもしれんな」
「そうなると、純粋な力比べになる……のか?」
「興味深い」
『紛い物』たちは娯楽のように感じているようだ。
「……それじゃあ、狭い場所でもやってみよう」
『では、通路で』
仁Dの提案に『ルゥカー』はすぐに応じた。
「わかった」
今度は、ホールを出た通路で模擬戦である。
『職人』101を挟み、片側に2体、反対側に1体という布陣だ。
「では、始め!」
仁Dの号令で再び模擬戦が始まった。
今回は、明らかに不利な配置からの開始であったが、それをものともしない『職人』101。
鞭を短めに持つことで、多少先端が壁や天井を擦る程度に抑えた。
まず、1体の方に鞭を振って牽制した後、身を翻して2体いる側へと突進する。
通路は狭いため、2体いても並んで迎え撃てるわけではなく、『職人』101は短めに持った鞭を相手の剣に巻きつけ、その機能を奪った後、正面蹴りを行う。
仮に足裏にスパイクが付いていたなら少なくないダメージを喰らうであろう。
正面蹴りを喰らったゴーレムは吹き飛び、後方にいたゴーレムにぶつかって停止。
ぶつかられた方のゴーレムも転倒した。
その間に、もう一度身を翻した『職人』101は、1体だけのゴーレムに突進。そして……。
「『水弾』」
野球のボールほどの水弾をぶつけたのである。
「それまで」
再び仁Dが模擬戦をやめさせる。
「ほう」
「これは……」
「なるほどな、戦い方というものにはバリエーションがあるのだな」
『紛い物』たちは素直に感心している。
「どうだ? 今の『水弾』だが、熱線魔法だったらやられているぞ」
『……仰ること、理解しました』
「それならいい。どうだ、少なくとも『鞭』と『熱線魔法』への対策は必要だろう?」
『はい』
「よし。急いで考えよう。……そうだ、『紛い物』の皆さん、何かいい案はありませんか?」
事ここに及び、仁Dは『紛い物』のアイデアも聞いてみようと思ったのである。
「ふむ、興味深いな」
「ええ、そうね」
「熱線なら反射かな?」
「盾の表面の反射率を100パーセントに近づければいけそうだな」
どうやって、という方法については触れていない。
「鞭は……わからんな」
「ええ。ああいう武器って、盾で防ぐしかないのでは?」
「あるいは物理的な結界か」
考え方は仁たちと大差ないようだった。
が、こういう思考実験的なものは好みのようで、『紛い物』たちはわいわいがやがやと楽しそうに言い合っている。
仁も、仁Dの口を通じて意見を出す。
「……鞭は、材質にもよるが、絡め取ってしまうというのはどうだろう?」
その言葉を聞きつけた『紛い物』たちは即反応した。
「ふむ、ジン君の意見は面白いな」
「先程は逆に剣を絡め取ったりもしていたようだが」
「鞭が絡みついたあとは、結局のところ力比べになりそうね」
「通路のように、1対1で対峙できる場所なら、3体が協力して引っ張れば勝てるかもしれないな」
『なるほど。……ジン殿、それにはどのような武器がいいでしょう?』
「『ソードブレイカー』みたいなやつかなあ」
『それは?』
「ああ、知らなかったか。……こういうやつだ」
仁Dは、転がっている素材で模型を作ってみせることにした。
「『変形』」
「おお」
「見事!」
「この形状は……」
仁Dが作った『ソードブレイカー』の模型は、ちょっと見た目には肉厚な剣の片側がノコギリのようにギザギザしているもの。
だが、よく見るとそのキザギザの部分はノコギリよりももっと凹凸が激しくなっている。
つまりはその凹凸に敵の剣を受けた後にひねることで折る構造だ。
ゆえに『ソードブレイカー』。
鞭であってもギザギザ部分に引っ掛かりそうである。
『これはよさそうですね』
『ルゥカー』も認めた。
「よし、あとは熱線魔法だな」
『紛い物』を交えた話し合いは佳境に入る。
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