73-47 無理は禁物、引き際を見誤らないように
罠から緊急転移で逃れた『忍部隊』は、事態を解析していた。
〈まず、現在位置は?〉
〈はい、忍漆と捌がおりますので部屋の扉前になります〉
〈何!? それはおかしい。玖と拾のいる最終フロア手前を目標にしたはずだぞ?〉
〈何か、転移を阻害するようなファクターのせいで移動距離が変わったのではないでしょうか〉
〈……それしか考えられないな〉
だとすると、このポジションに長居するのは得策ではない。
忍壱は、忍漆と捌も伴い、初期目標だった、玖と拾のいる最終フロア手前へと再転移したのである。
* * *
〈……危ないところだった〉
〈まったくですね〉
一応の安全圏と思われる場所……1段下のフロアで忍部隊8体……伍と陸は『魔法障壁』の外に出ている……は集結していた。
〈……これ以上は危険だろうな〉
〈同意します〉
〈一度、指示を仰ぎに戻るとするか〉
〈それがいいと思います〉
〈よし〉
保安施設『ポーセ』へのこれ以上の深入りは危機を招く可能性があると判断したのである。
それは仁の望むものではなかった。
〈そもそも罠が発動した時点で危険が生じているからな〉
〈あの罠は自動的なものでは?〉
〈それでも、だ。無理は禁物だ〉
そんな意見を交わしながら8体は来た道を戻っていく。
そして『魔法障壁』の手前までやって来た。
『魔法障壁』越しに伍と陸が見える。
通過するゴーレムが来るまで待機となる。
〈……帰ったらご主人さまに、『魔法障壁』を通過する方法を考えていただこう〉
〈それがいいですね〉
〈でも、できるのでしょうか?〉
〈ご主人さまだぞ? きっとなんとかしてくださるに違いない〉
〈確かにそうですね〉
待機の間に、そんな会話がなされた。
そしてゴーレムが1体、何かを運び出すためにやってきた。
〈よし、脱出だ〉
〈了解〉
問題なく脱出できた8体は、先に外にいた2体と合流。
無事に全員集合した『忍部隊』は蓬莱島へと帰還したのだった。
* * *
「そうか、ご苦労だった」
蓬莱島では仁が『忍部隊』の労をねぎらっていた。
『仁ファミリー』で今仁とともにいるのはエルザだけだ。
「……しかし……そうか、『魔法障壁』の突破方法か……」
『御主人様、それは確かに必要になる技術だと思います』
老君も必要性を訴えている。
「うん、そうだよな。……いくつか案はあるんだが……」
『お聞かせください』
「ジン兄、聞かせて」
「もちろん。……まずは原理からだな。ミスリル銀のように、魔法障壁に干渉されない物質でできたパイプを障壁に通せば、パイプの中はトンネルになる」
「ん、そのとおり、だと思う」
『ですが、それだけのパイプを運ぶのは、隠密行動には向きませんね』
「そうなんだよ」
正面から戦いを仕掛けるなら、こんな方法を取る必要もないわけである。
「だから原理なんだ。……同じことを結界で行えれば……」
「あ、確かに」
「物理障壁にも応用できると思うんだが、それはまた後だ」
『魔法障壁』と同質の結界でできた円錐を差し込んで向こう側に突き出し、次いで円錐の先端を『開いて』円筒にすることで、トンネルが完成する、と仁は説明した。
「さすが、ジン兄」
「ここのところちょっと考えていたんだよな。でもまだいくつか問題点がある」
「それは?」
「対象となる魔法障壁と同質の結界を発生させるための解析時間だ」
魔導具で行うことになるが、『忍部隊』に持たせるにはまだちょっと大きいのだという。
「というのは、解析と穿孔、同化に結構魔力を喰うみたいなんだ」
人間サイズの者が使うなら問題ないレベルだが、と仁は言った。
「カートリッジ式にして『魔力素蓄石』を使うにしても、まだ大きいんだ」
「なるほど……難しそう」
『この場合の消費魔力は相手によるから、ですね』
「そういうことだな」
小さいなら小さいなりに消費魔力も小さくなるので、身長5センチの『忍部隊』が使う装備はそれなりに小さくできたのだが、今回相手にするのは巨大な施設である。
「……相手の結界から横取りするのは?」
エルザが思いつきを口にした。
「それだ! それがいい!!」
仁もそのアイデアを褒める。
「相手の結界と同化したら、自前の魔力供給はやめて相手のものを使う。うん、いけそうだ」
既に仁の脳裏には『魔法制御の流れ』ができあがったようだ。
「まずはノーマルサイズのものを作ってからダウンサイジングしよう」
ダウンサイジングには『リトル職人』=身長40センチ(4分の1)、『ミニ職人』=身長10センチ(16分の1)、『インチ職人』=身長25ミリ(64分の1)、そして『ミリ職人』=身長5ミリ(320分の1)らが活躍する。
今回は『忍部隊』用なので『インチ職人』までで十分である。
「ここを、こうして……こうだな。……できた!」
「……ジン兄は相変わらず規格外なことをしてる」
仁を知り抜いている愛妻エルザが呆れるほどの速さで新兵器『魔法障壁穿孔機』が完成したのである。
さっそく試験運用として、老君が展開した魔法障壁に対して使ってみる。
「これを押すだけ。あとは『魔法障壁穿孔機』が全部やってくれる」
仁はエルザに説明しながら実演してみせた。
肉眼では見えない魔法障壁に、薄赤い壁をもったトンネルが現れた。
「で、トンネル部には薄っすらと赤い色を付けたから、どこからどこまでがトンネルかわかりやすいだろう?」
「ん、確かに」
エルザと仁はそのトンネルを抜けた。
「どうだ、老君? 何か気付いたか?」
『はい、御主人様。何も異常は感じませんでした』
「そうか、成功だな」
「ジン兄、さすが。おめでとう」
「ありがとう」
仁はこれをベースにして、ランド隊をはじめとする蓬莱島部隊の標準装備にすることにした。
そして肝心の小型化を進め、『忍部隊』に装備させる。
これでまた1つ、蓬莱島の強化がなされたのである。
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20201114 修正
(誤)糟糠の妻、エルザが呆れるほどの速さで新兵器『魔法障壁穿孔機』が完成したのである。
(正)仁を知り抜いている愛妻エルザが呆れるほどの速さで新兵器『魔法障壁穿孔機』が完成したのである。




