73-46 扉の中にあったもの、それは……
『忍部隊』の前には頑丈そうな扉があった。
〈……まずは、どうやって開けるかだ〉
これまでの部屋には扉らしい扉はなく、全て開放されていたのだが、ここは違う。
通路の壁と同じ金属素材でできた扉があったのだ。
〈出入りするゴーレムがいたら、付いて入りますか?〉
〈……いや、ここは新装備を使うときだろう〉
〈『透視装置』と『短距離転移装置』ですね〉
〈そうだ〉
こういう時のための新装備。
まず忍壱が、『透視装置』で扉の向こう側を探ってみることにした。
〈……扉の厚さはおよそ20センチか〉
〈結構厚いですね〉
〈向こう側に空間があるな〉
転移は可能。だが、何の部屋なのかわからないうちは危険なので、『透視装置』を使って部屋の中を探ってみることにした。今度は全員で行う。
『透視装置』は、その原理上、非常に視野が狭いのだ。焦点を合わせたポイントから直径10センチのかつ前後3センチ程度の範囲しか見えない。
なので全員でゆっくりじっくりと室内をスキャンしていくことになる。
〈……床は滑らかで、広々としているようですね〉
〈……部屋の壁沿いに見ていくと、およそ直径20メートルほどの円形の部屋のようです〉
〈……天井までの高さは10メートルほど〉
〈……中央に構造物があります〉
〈うむ、私にも見えている。半球状のドームだな。中は……見えん〉
〈これが『ポーセ』でしょうか?〉
〈かもしれんが断定はできん〉
その半球状のドームは、直径10メートル、高さ5メートル。ミスリル銀の外装を持っているのか、『透視装置』も中を見通すことはできない。
〈ゴーレムらしきものが2体……いや3体いるな〉
〈警備用か、あるいはメンテ用でしょうか〉
〈そこまではわからん。だが、あれは……おそらく『新型』だ〉
少し前に下のフロアで解析したゴーレムの発展形のようであった。
しかも2体は剣を持っている。少なくともその2体は警備用だろうと考えられた。
〈さて、どうするか〉
ここでこうしていても、事態は進展しないだろうと思われる。
〈……警備用ゴーレムの死角に転移するのがよさそうだな〉
〈そうですね〉
いずれにせよ、多少のリスクを負わなくてはこれ以上の調査はできない。
忍壱は決断を下す。
〈よし、漆と捌はここに残り、我々に何かあったときには報告を頼む〉
〈わかりました〉
そういうわけで、忍壱、弐、参、肆の4体は『透視装置』で確認した、警備用ゴーレムの死角と思われる場所へ転移したのである。
* * *
一瞬で扉の内側へと転移する4体。
〈……気付かれなかったようだな〉
〈はい〉
〈5分、このままでいる。それで何ごとも起きなかったら、次の行動に移るぞ。……緊急避難用の転移をいつでもできるようにしておけ〉
〈わかりました〉
そして……5分が過ぎ去り、何ごとも起こらなかった。
〈どうやら、気付かれずに潜入できたようだな〉
〈はい〉
〈よし。それでは2組に分かれて調査だ。『不可視化』と緊急転移は忘れるな〉
〈了解〉
忍壱は弐と。忍参は肆と組み、調査を開始した。
円形の室内は、床も壁も天井も金属製だった。
材質は合金鋼。
〈鉄とマンガンだな。マンガンが……およそ12パーセント〉
高マンガン鋼、あるいはハイマンガン鋼と呼ばれる合金である。発明者の名を取ってハッドフィールド鋼とも呼ぶ。磁性を持たないという大きな特徴がある。
〈そのあたりの特性を利用しているのかもな〉
〈そうですね〉
また、中央に鎮座する半球形のドームの材質はというと。
〈こちらは軽銀だな〉
〈鉄系ではないですね〉
〈何か理由があるのか、あるいは産出量の問題か〉
忍壱と弐は、そうした素材系の調査を進めていく。
一方、忍参と肆は、
〈警備用ゴーレムは、やはり発展型のようだな〉
〈うむ。外見はほとんど変わらないように見えるが、身長が2.25メートルになっていることと、頭部の形状が若干丸みを帯びている点が異なるようだ〉
〈……もう1体、整備用と思われるゴーレムはどうだ?〉
〈外見は同じだな。だが、出力がまるきり異なる。おそらくエルラドライト……いやミティアナイトを使っていないのだろう〉
ミティアナイトを使って出力をブーストすることができるが、動作の精密性は低下する。
整備という作業を考えた場合、精密性は重要なファクターなのだ。
〈……だが、動きがないな〉
〈……うむ〉
〈少しおかしいと思わないか?〉
〈思う〉
忍参と肆は壱と弐に連絡をとった。
〈どうにも違和感が拭えないのですが、どう思われますか〉
〈……確かにな〉
そこで10分間ほど、『忍部隊』の4体は警備用ゴーレムと整備用ゴーレムを観察した。
〈……動きがないな〉
そこで忍壱は、少しだけ危険なテストを行うことにした。
〈……今から私が、警備ゴーレムの前に出てみる。もちろん緊急転移と『超小型空間遮断結界』も準備した上でな。それで奴らの反応を見る。観察は任せたぞ〉
〈わかりました〉
そう告げると、忍壱はジャンプして警備用ゴーレムの前へと出た。
〈……どう出る?〉
だが、予想に反して警備用ゴーレムは何の反応も示さなかった。
今少し待ってから、忍壱はゆっくりと、そして慎重に警備用ゴーレムに近づいていく。
それでも警備用ゴーレムは何の反応もみせない。
忍壱は、ついに警備用ゴーレムに触れるところまで近付いたが、やはり何の反応も見られなかった。
〈……停止しているな〉
それが結論であった。
〈だが、なぜ?〉
〈……ここは、『ポーセ』のダミーなのでは?〉
忍参が推測を述べた。
〈ダミーだと?〉
〈そうです〉
〈何のためのダミーだ?〉
〈もしや……罠では?〉
〈罠?〉
その時であった。
〈魔力反応!〉
忍肆が突然の魔力反応に気付き、それを受けて忍壱は緊急転移を命じる。
〈! ……緊急転移! 目標、最終フロア手前!!〉
そして彼らは間一髪、罠から逃れることができたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日11月12日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20201112 修正
(誤)整備という作業を考えた場合、精密製は重要なファクターなのだ。
(正)整備という作業を考えた場合、精密性は重要なファクターなのだ。




