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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
73 メメンタス調査篇
2778/4403

73-44 欲求を満たすことで得られるものは

「ところで」


 仁Dは改めて『紛い物(エラート)』に語りかけた。


「1つ、面白い提案があるんだが」

「ほう、何だね? 聞かせてもらおう」


 『ジェドエフ』は興味深そうに頷いた。


「あのな……『お菓子』を食べてみないか?」

「なに!?」

「お菓子!?」

「お菓子ですって!?」

「是非!」

「お願いするわ!!」

「…………」


 『ジェドエフ』よりも『ルセネト』『サフラー』『ネフェル』『ルサンク』の方が提案に喰い付いた。

 種族が違っても、年齢がどうあっても、やはり……と思わずにはいられない仁Dであった。


「……よし、それじゃあ少しだけ待っていてくれ」


 仁Dはそう言うと、2つ隣の部屋、つまり『転移魔法陣』のある部屋へ行った。

 そして5色ゴーレムメイドの1人、『ペリド10』と共に戻ってくる。

 ペリド10は、その手に『岡持ち』を持っていた。


 蛇足ながら『岡持ち』とは、出前のときに料理などを入れて運ぶ、取っ手(持ち手)付きの箱である。


 岡持ちの中には、比較的単純な甘味ということでクッキーが入っている。ただ、砂糖だけではなくメープルシロップ味や蜂蜜味も一緒だ。

 それとシンプルな紅茶も、魔法瓶に入れてあった。


「この子も、俺が作ったメイドゴーレムだ」

「ほう」

「見事だな」

「それじゃあ、こっちでお茶会にしよう。……『変形(フォーミング)』」


 仁Dはそう言うと、床に転がっていた適当な素材で椅子とテーブルを人数分作り上げた。


「おお、見事だな」

「さあ、適当に座ってくれ」


 丸テーブルにスツールなので、本当に簡易的なものだ。

 だがかえって気のおけないお茶会になった。


「さあ、食べてみてくれ」

「う……うむ……」


 『紛い物(エラート)』たちはクッキーをつまみ上げたものの、口に運ぶことを躊躇ためらっていた。

 無理もない、何千年も飲食とは無縁のときを過ごしてきたのだから。

 なので、まずは仁Dが食べてみせる。


「うん、甘い」


 それを見た『ネフェル』がまずクッキーを一口食べた。


「……甘……い……これが、甘い、って感覚…………ああ、何千年ぶりでしょう!」


 それを聞いた他の7人も、次々にクッキーを口にした。

 涙を流している者もいる。


「甘い! これが、甘さ!」

「ああ、忘れかけていた味覚……」

「また再び、味を感じることができるなんて……」

「美味い……!」


 皆、何千年ぶりかの『味覚』に感激していた。


 仁の作るゴーレムや自動人形(オートマタ)場合、口中に『味覚センサー』を備えている。

 簡単に言えば『分析(アナライズ)』で成分を分析し、ブドウ糖・果糖・ショ糖などは『甘味』という出力を出すわけだ。

 もちろん塩化ナトリウムなら『塩味』、カプサイシンなら『辛味』、クエン酸や酢酸なら『酸味』というわけである。

 どれにも分類されないものは『無味』あるいは、味覚ではないが『まずい味』としている。

 その他にも、『食材』のデータも出力されるので、『蜂蜜味』とか『オレンジ味』という認識もできるわけだ。


「ジン君、感謝するよ」


 クッキーを頬張りながら『ジェドエフ』が言った。


「同じ甘味でも違うのだな。3種類用意してくれたのか」

「そう。砂糖、蜂蜜、メープルシロップだな」

「そうか、この風味はメープルシロップというのか」


 仁Dの説明を聞きながらも、彼らの手は止まらない。


「美味い、美味い」

「お茶も美味いな」


 大量に用意したクッキーと紅茶は、10分ほどで全てなくなってしまったのだった。


「ふう……」

「満足したわ」

「ありがとう、ジン君」

「どういたしまして」


 腹部に食べたものを一時蓄えるタンクがあり、そこがいっぱいになると『満腹感』が出力されるようになっているのだ。

 なので際限なく食べ続けるというようなことは起きない。

 というか『満腹感』という感覚も、彼らには数千年ぶりだったのである。


「ああ、『身体ボディ』があるというのはいいことだなあ!」

「ほんとうね」

「完全に同意する」


 『引きこもり』の元『始祖(オリジン)』でも、やはりエーテルを喰って生きる仙人にはなりきれなかったようで、『食欲』は健在だったようだ。


「それにしても、この『身体ボディ』は素晴らしい」

「ええと、『食欲』と『睡眠欲』に関しましては、意識的に切り替えられますので」


 仁Dが補足した。


 夢中になって寝食を忘れる、ということがあるように、普段は食事も睡眠も必要としない『自動人形(オートマタ)』なのであるが、今回の身体ボディは特別製なのだ。

 もちろんリミッターもあって、1回満腹感を得ると、5時間は『空腹感』が得られないし、睡眠も8時間で一度目が覚めるようタイマーがセットされている。

 当然、意識的にそれらをカットすることもできるのだ。


「ううむ、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』と言ったか。ジン君はたいしたものだな」

「いえ、その身体ボディを作ることでいろいろと学べたことも多かったですよ」

「ふむ、向上心もあるか」


 『食事』を楽しめたことで、『紛い物(エラート)』たちの仁Dに対する態度はさらに軟化したようだった。


*   *   *


 さて、同じ頃、保安施設『ポーセ』の調査を進めている『しのび部隊』。


さんはうまく報告できただろうか〉


 その2体は魔法障壁(マジックバリア)の外へ出るゴーレムにくっついて抜け出し、老君へ報告していたのである。


〈……大丈夫のようです〉


 しのびいちの呟きに、『魔法障壁(マジックバリア)』のそばで様子をうかがっていたが答えた。

 魔法障壁(マジックバリア)は可視光や音波を通すので、内と外で手話や音声による会話をすることが可能なのだ。


〈そうか。それならいい。よし、調査を続行するぞ〉

〈了解〉


 今いるフロアには、もう新たな発見はなかったので、もう1つ上のフロアを目指す『しのび部隊』。

 前回見かけたのとは異なる形式のゴーレムが行ったり来たりを繰り返していたので、その移動に便乗してフロア間の障壁(バリア)を通過した。

 転送装置を使えば『物理障壁(ソリッドバリア)』は抜けられるのだが、念の為である。


〈さて、このフロアもざっと調査しよう〉

〈了解〉


 8体となった『しのび部隊』は、また2体1組で調査のために散らばった。


〈さて、このフロアでは何が見つかるだろうか〉

〈慎重に行こう〉


 『しのび部隊』は慎重に、フロアの各部屋を目指した……。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20211110 修正

(誤)もちろんリミッターもあって、1回満腹感を得ると、5時間は『満腹感』が得られないし

(正)もちろんリミッターもあって、1回満腹感を得ると、5時間は『空腹感』が得られないし

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[気になる点] もちろんリミッターもあって、1回満腹感を得ると、5時間は『満腹感』が得られないし、睡眠も8時間で一度目が覚めるようタイマーがセットされている。 『満腹感』が得られない だと、逆に食べ…
[良い点] 73-44 欲求を満たすことで得られるものは 更新ありがとうございます。 [気になる点] 『始祖《オリジン》』を唸らす魔法工学師《マギクラフトマイスター》の腕前よ! 忍部隊は、順調に調…
[気になる点] >仁の作るゴーレムや自動人形場合、口中に『味覚センサー』を備えている。 (略) > どれにも分類されないものは『無味』あるいは、味覚ではないが『まずい味』としている。 仁「そう言えば、…
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