73-43 禁忌が禁忌である理由と、禁忌でなくなる理由
11月9日、蓬莱島にて。
『御主人様、『忍部隊』から中間報告が入りました』
「うん、何か見つかったのかな?」
『はい。『マライト』と『ミティアナイト』、それに『マギ・アダマンタイト』を工場のような場所で発見したということです』
「よりによってその3つか……!」
今老君の報告を聞いているのは仁のみ(あと、ミニ礼子が肩に乗っているが)。
「まさかとは思うが、『マライト』を制御核に使ってはいないだろうなあ」
『ポーセ』にも使われており、そのせいで暴走したのでなければいいんだが……と仁は危惧した。
『それは、今現在の情報ではわかりません』
「それに『ミティアナイト』か……それで出力ブーストを行っているんだろうな」
『はい、それはほぼ確実です』
「その場合の欠点は……精密動作には不向き、ということか」
『ミティアナイト』は魔力を増幅する。それはつまり、正規の信号だけでなくノイズも増幅するということ。
単純な増幅なので、誤差もそのまま増幅されるということだ。
ギリギリで止める『寸止め』は難しいかもしれない。
しかし、そんな欠点を補って余りあるのは、単純に出力を20倍にできるということだ。
魔法も20倍、力も20倍。
ただし力の場合は、土台となる骨格や筋肉組織が20倍の出力に耐えられるという前提が必要であるが。
それに関しては『マギ・アダマンタイト』の存在があった。
これはアダマンタイトにミスリル銀を数パーセント添加した合金で、魔力による強化の効果アップが著しい。
『ミティアナイト』による出力アップにも耐えられる強度を持つ。
『マギ・アダマンタイト』と『ミティアナイト』の組み合わせによる効果は大きいだろう。
かつては仁も、その効果を軽視できずにいた。
が、今は違う。
礼子はもちろん、ランド隊、スカイ隊、マリン隊、職人隊、第5列……蓬莱島のゴーレム、自動人形は全て、『ミティアナイト』を使わずに同等以上の性能を得ている。
それは、『魔力反応炉』の効率アップだったり、機械的部品の超精密仕上げだったり、魔力波の超精密制御だったり……と、仁のたゆまぬ努力によるものである。
閑話休題。
「『ポーセ』は、これまでの相手とは違うと再認識させられたな」
『はい、御主人様』
『オエステ3』を簡単に滅ぼしてしまえるだけの戦力を持つ保安機構『ポーセ』。
「……なあ老君、どうでもいいことには違いないんだが、『始祖』……『紛い物』たちは『ポーセ』のことを『保安措置』と呼んだり『保安施設』と呼んだりと、呼称が安定しないのはなぜだろうな?」
ちょっと気になっている仁なのであった。
『そうですね、御主人様の疑念はごもっともです。推測ですが、彼ら『紛い物』の年齢と関係があるのではと』
「うん? どういう意味だ?」
『お気付きになりませんか? 『紛い物』の外見年齢がまちまちだったことから、推測されることに』
「え? …………ああ。そういうことか? ……うーん……」
『紛い物』8人が望んだ、自動人形の外見年齢。
それが、彼らが没した頃の外見に合わせたのだとしたら。
「早逝した人も多い?」
『はい、そういうことになると思います。デリケートな問題ですので、まだ直接尋ねないほうがいいとは思いますが』
ヘールにはなかった病気がこのアルスにあったのか、あるいは事故か。
おそらくは前者だろうと老君は言った。
早逝した者が存命だった頃は、まだ『ポーセ』は『保安措置』レベルであったが、年を重ね、『保安施設』と言えるまでに強化された可能性を老君は示唆したわけだ。
『移住当時の『始祖』は肉体的にも弱くなっていたでしょうから』
「そうかもな」
そのために早逝した、という可能性はある。
そうでないなら、外見年齢を20代くらいの全盛期にせず、ある意味中途半端な年齢にしたことの説明がつかない。
それについては、いずれ本人たちに聞いてみたいと思っている仁であった。
「……ああ、あと『オエステ2』の『紛い物』たちはどうしてる?」
『はい、御主人様。特に変わりはなく、穏やかに基地内を見て回っているようです』
「そうか」
『当分はこちらで『分身人形』は操縦しておくつもりですが、何か試みてみたいことや、質問事項などはございますか?』
「うん、1つある」
『なんでしょう?』
「食事だ」
『食事ですか? 『紛い物』に?』
「そうだ。あの身体には味覚も備えてある。食べたものを胃に相当する装置で分解して原子に戻すこともできる」
とはいえ、排泄機能は付けなかった仁であるが。
「何千年も食事ができなかったなら、何かを食べる、ということもしてみたいんじゃないかと思ってな」
『なるほど、わかりました』
仁の意図を察した老君は請け合ったのである。
* * *
『オエステ2』では、『紛い物』たちと魔導頭脳……『ルゥカー』と『プローテ』との語り合いは一段落していた。
そのタイミングで、仁Dは1つの質問を行った。
「『ジェドエフ』、1つ聞きたいことがある」
「ほう、なんだろう?」
「『禁忌』についてだ」
「『禁忌』、だと?」
「そうだ。……人間の頭脳を『制御核』にコピーして使うのは『禁忌』ではないのか?」
仁Dがそう尋ねると、『ジェドエフ』は驚いた顔をした。
「ほう、そこまで知っているのか。……そのとおりだ。ただし、『一部をコピーして使う』ことが、だがな」
「どう違うのだ?」
「人間を人間扱いせず、単なる情報処理装置と見なしているから……と言えば、当たらずといえども遠からず、だろう。……実際は『禁忌』の真の理由など私も知らぬよ」
「そう、か」
『ジェドエフ』はにやりと笑うと、言葉を続けた。
「『メメンタス』の中にいた我らだって、『禁忌』に抵触するスレスレ……と言えなくもないしな」
とはいえ『紛い物』の場合は、システムとして利用するのではないから許容範囲だった、ということのようだ。
「ならば、『ルゥカー』はどうなのだ? 禁忌に抵触しているのではないか?」
「……ほう、それも知っているのか。ジン君は大したものだな。…………左様、当時は、な」
「当時は……か。つまり、今はもう禁忌ではないと?」
「そうは言わん。が、最早元となった人物も没して久しい。行った者たちもすでにいない。今更……咎めても詮無きことだ」
更に『クフカエフ』が口を添える。
「そもそも『禁忌』とは、民族、種族の伝承、伝統のようなものだからな。我らはもうそのようなことを云々できるような立場にはいない」
その言い分は、仁Dにも納得できるものだった。
「それに、今の……『ルゥカー』も『プローテ』も、人格の一部をコピーして作った魔導頭脳ではないだろう?」
「それはまあ、確かに」
仁が見直しをかけているのでコピーそのものとはいえない……のだろう。
仁Dは『禁忌』についてはそれまでとし、本来の話をすすめることにした……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201109 修正
(誤)早逝した者が存念だった頃は、まだ『ポーセ』は『保安措置』レベルであったが
(正)早逝した者が存命だった頃は、まだ『ポーセ』は『保安措置』レベルであったが




