73-38 彼らは危険ではないという、その理由
『職人』101と『始祖』との会話はまだ続いている。
一見雑談のようであるが、仁たちにとって貴重な情報が得られているのだ。
『始祖』側のスポークスマンは『ジェドエフ』に戻った。
「そういえば、『パンドール大陸』に移住したという2人のその後はわかっているのか?」
「我らが存命だったときまではな。『メメンタス』に意識を移してからは没交渉だ」
「そういうことか。そうすると、他の派閥のその後も知らないわけだな?」
「左様。まったく知らぬな」
『メメンタス』という大義名分を得て、究極の引きこもりになったみたいだな……と『職人』101は感じていた。
「外部の情報はどうやって得ていたのだ?」
「1つには、通信だな。君が今『製作者殿』と通信しているアンテナを使い、飛び交っている通信信号を傍受し、再構成した」
「それでは断片的な情報しか得られないだろう?」
「左様。断片的どころかほとんど得られなかったな」
そもそも魔力波での通信など、ほとんどなされていないから当然である。
蓬莱島では、月との通信など、重要なものは収束波で行っているし、暗号化もされている。
他愛のない会話から得られる世界情勢など無きに等しいだろうと思われた。
(あ、だが『アヴァロン』と公国間の通信はそうでもないかもしれないな)
とはいえアンテナの位置がラシール大陸の西なので、どこまで傍受できるかは怪しいところである。
「それから、一応『情報収集用ゴーレム』を地上に派遣している」
「なるほど」
よっぽどそれのほうが有効だろう……と『職人』101は思った。
が、『どこへ』派遣したのか、が重要であることに気が付く。
それでそのことを尋ねてみると、
「派遣した場所? ラシール大陸全土だが」
それでは、情報も不十分になるわけだ、と『職人』101は内心で溜息をついた。実際には吐けないので。
* * *
蓬莱島でも、仁たちがやや呆れた顔をしている。
「情報をあまり重視していないな……」
『御主人様、引きこもるのに情報はそれほど必要ではありませんからね』
「それにしてもな……」
そこへ『長老』ターレスが助言を一言。
「ジン殿、生身の頃ならいざ知らず、『メメンタス』となったことも手伝い、外部への興味を失っていたのではないかな?」
そして『身体』を得た今、再び外部の情報に興味を持ち始めたのではないか、というのだ。
『御主人様、そういうこともあるかもしれませんね』
「そうだなあ……」
「ジン殿、『始祖』の自動人形を何人か、希望者を募って外に連れ出してみたらどうだろうか?」
『長老』ターレスが提案を出してきた。
「あ、それいいかもね? ジンが行きにくいなら、向こうから来てもらえばいいんだよ」
「サキ姉の言うとおり。『オエステ1』か『オエステ2』に招待すればいい」
「その手があったか……!」
それなら仁DやマリッカDへの危険はほとんどないとみていい。
なにしろ『メメンタス』だった『始祖』の自動人形は人間並みの性能しかないのだから。
『ですが御主人様、1つだけ懸念事項があります』
思慮深い老君からの発言である。仁は身構えた。
「うん、どうした?」
『はい。……『始祖』がその『身体』を得て、再び遺跡を把握し、覇権を求めないか、ということです』
「それか……」
例えば、今現在マリッカに忠誠を誓っている各地の施設が、真の『主人』である『始祖』に鞍替えしないかという懸念である。
「俺は大丈夫だと思っているんだよ」
『それは、いかなる理由によるものですか?』
「まず、魔力パターンだな」
仁が『職人』たちを経由して知ったのだが、どう解釈しようとしても、人間のモノとは似ても似つかぬモノだったのである。
本来なら、『魔導頭脳の製作者』の魔力パターンとなるはずなのだが、『メメンタス』のそれは人間のモノとは思えなかった、と仁は言った。
それは、数名が各部を手掛けた、つまり合作となっているため、数名分の魔力パターンが混じり合っているのではないか、と推測される。
いずれにせよ、『メメンタス』の魔力パターンは『始祖』のモノとは大きくかけ離れていることは間違いなかった。
それが、仁が大丈夫という理由である。
「彼らは、極言すれば『メメンタス』のユニットだ。つまり彼らの魔力パターンは『メメンタス』と同じなんだ」
『なるほど、それゆえに『魔導頭脳』が『主人』として認めることはないであろう、と』
「そういうことだな。……それに、身近なところに証明してくれる人もいるし」
『ターレスさんですね』
そのやり取りを聞いていた『長老』ターレスが口を開いた。
「ジン殿の言うとおりだ。確かに外見は『始祖』そのもの。吾も懐かしく思った。だが、それだけだ」
『それならよろしいのです』
「老君殿、大丈夫だ。自動人形は自動人形。『分身人形』とは異なるし、魔導頭脳が判断するのは『魔力パターン』であって容姿ではない」
仁の説明と『長老』ターレスの保証により、老君の懸念も払拭されたのである。
「それじゃあ、あらためて『始祖』の自動人形を外に連れ出すことを考えようか」
『わかりました』
* * *
そのアイデアはすぐ『職人』101に伝えられた。
「『ジェドエフ』、1つ提案がある」
「何かな?」
「私の製作者様は今『オエステ2』にいる。こちらに来ることは躊躇われるが、そちらが出向くなら……」
「おお、なるほど!」
「どうかな?」
「行こう」
『ジェドエフ』は即決した。
「私は行くぞ。……お前たちも何人か来るだろう?」
後のセリフは『始祖』の仲間に向けたものだ。
「うむ。ならば私は行こう」
「私も」
「大勢で行くのも、こちらのリスクがあるからな。3人で行って来い」
「それがいいか。……後で我々も外に出てみるからな!」
そんなやり取りが交わされ、『ジェドエフ』『クフカエフ』そして『ルセネト』の3名が『オエステ2』を訪れることになったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201104 修正
(誤)例えば、今現在マリッカに忠誠を使っている各地の施設が
(正)例えば、今現在マリッカに忠誠を誓っている各地の施設が




