73-37 そして彼らは過去と現在を知る
『職人』101は、老君からの助言に基づいてアルス人類の説明を始めた。
「まず初めに断っておく。アルス人類は、君たち『始祖』に比べ、かなり好戦的だ」
「……うむ、薄々勘付いてはいる。先住民がそういう気質だったからな」
「それなら話は早い。……そのため、750年ほど前に『魔導大戦』という大きな戦争があり、文明が衰退したことも最初に言っておく」
「『魔導大戦』か。……外界の情報を集めていたときに聞いたような気はするな」
「そうか。……順序を無視するが、今のうちに説明しておこう。……『魔導大戦』は、『独立派』の子孫と『融合派』の子孫が起こしたものだ」
「何と……!」
自分たちの同胞の子孫同士が戦争を起こしたという事実は、平和を好む『第1世代』には衝撃的だったようだ。
そこで、『職人』101は大急ぎでフォローを行う。
「いや、裏で扇動した存在がいたのだがな」
「それは?」
「負の人形という。不完全な人造人間だ。それが『操縦針』を使って『独立派』の子孫を支配し、戦争へと導いたのだ」
「なんと、そんな過去が……」
「この『魔導大戦』はアルス人類の歴史を語る上で重要なエポックだ」
「うむ、そうだろうな」
「その理由はもう1つあって、『魔導大戦』の最終局面で『魔素暴走』が使われている」
「何だと!?」
禁忌と言われる『魔素暴走』が使われたと知って、驚きを隠せない様子の『ジェドエフ』。
そして、それを行ったのが同胞の子孫だという事実もまた、彼を打ちのめしていた。
『職人』101は更に続けてフォローのための説明を行った。
「だからそれは、負の人形という、不完全な人造人間が扇動したからなのだ」
「……とはいっても、その技術は、元を正せば我々のものだ……」
打ちひしがれた『ジェドエフ』を見て、ああやはり『始祖』は争いごとを好まない種族なのだなあという認識を新たにした『職人』101であった。
「……済まぬな、スミス101。代わって私が話を聞こう」
『ジェドエフ』が落ち込んでしまったのを見かねた『テプヘレス』が名乗りを上げた。
「わかった。説明を続けさせてもらう。……その『魔素暴走』のせいで、このアルス上の自由魔力素濃度は激減したのだ」
「なるほど、そうだったか」
ある時から急に自由魔力素濃度が下降したのは気付いていたが、その原因まではわからなかった、と『テプヘレス』は言った。
「調べようとはしなかったのか?」
「……思ったことは思ったが、我らは基本的に他の大陸に興味を持たなかったことと、その当時既に我々自身が切迫した状況になりつつあったからな」
「そうだったのか。……続けさせてもらう」
『職人』101は説明を継続する。
「その『魔素暴走』のせいで、ローレン大陸に住む『融合派』の子孫は……ああ、もちろんゴンドア大陸に住む『独立派』の子孫もだが……その人口を激減させてしまった」
「うむ、必然的にそうなるだろうな」
『魔素暴走』についてよく知っているが故に、その結果が住民にどんな影響を及ぼすかも理解している『始祖』なのである。
「魔導士は文化の担い手でもあったから、その時点で人類は衰退した。そして時間を掛けて少しずつ復興してきたのだ」
「なるほど。アルス人類の歴史の中で重要なできごとを先に説明してくれたわけだな。しかも、その事件には我々『始祖』も無関係ではなかったということか」
「そういうことだ。わかってもらえてほっとした」
『職人』101は、そこから改めてアルス人類の歴史を説明し始めた。
といっても、まだこの時点では『魔法工学師アドリアナ・バルボラ・ツェツィ』や『賢者シュウキ・ツェツィ』の名前は出さない。
古代ディナール王国と、魔導大戦後の小群国、それに北方民族やミツホ、フソーの説明に留めたのである。
「なるほど、そのような道を歩んできたのか」
「そうなのだ。そして近年……といってもここ300年くらいのことになるが、ローレン大陸の西外れ、ラシール大陸の北東にあたる地域に『四公国』が成立した」
「ほう、なるほどな。……大体のことは理解した。感謝する」
「参考になれば幸いだ」
本当に簡単な説明であったが、『始祖』たちは満足したようだ。
既にアルス人類に干渉するつもりはないのだろうな、と『職人』101は思っていた。
「現状についての認識ができたことは喜ばしい。……『侵略派』などと自称したこともあったが、この惑星の上にそれだけの文明が築かれているのなら、最早我々の出る幕はないな」
少し寂しそうなその言い方に引っかかりを覚え、『職人』101はその真意を尋ねてみたくなった。
「それは……このまま、この拠点に引きこもるということか?」
「まあ、そうなるかな。もっとも、『身体』を得た以上、多少外の世界を見て回るくらいはするであろうが」
最早アルス人類に干渉する気はない、と断言する『テプへレス』。
そしてそれに続き、他の7人も同意を示したのであった。
それを聞いた『職人』101は、好機と見て『ヘール』のことを聞いてみることにした。
「……ならば『ヘール』に帰る、という選択肢もあるのではないか?」
「ふむ、なるほど。……『ヘール』へ、か。それも有りだな」
「左様。『種の存続』に関して、我々にできることはもうないのだから」
気を取り直したらしい『ジェドエフ』も会話に加わった。
「帰っても、我々の知る『ヘール』はもうないのだがな」
「うむ、……だが、それはそれで仕方がない、5000年が経っているのだから」
「この身体でなら、『ヘール』で過ごすのも悪くないのではなくて?」
「そうよな。帰ることも視野に入れてもよいかもしれぬ」
どうやらこの8人には、『ヘールに帰る』ことに対して忌避感や嫌悪感はないようだ、と『職人』101は感じた。
同時にそれは蓬莱島にいる仁たちにも伝わっている。
* * *
「老君、どうやら彼らは『ヘール』に帰ることを嫌がりそうもないな?」
『はい、御主人様。これは朗報ですね』
もしも彼らが『ヘール再開発』に協力してくれるなら、かつてのヘールの再現ができるかもしれない。
また、再現を望まないとしても、このアルスにいられるよりもヘールで隠遁していてもらう方がより安心である。
「でもまあ、今はまだ『ヘール』に行けることは伏せておくかな」
『それがいいでしょうね。少なくとも御主人様の分身人形が彼らと相対するまでは』
「それはそうか」
『もう少し、『ポーセ』の情報もほしいですね』
「うん。『職人』101にはこのまま会話を続けてもらおう」
そういうことになったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201103 修正
(誤)「この『魔導大戦』じはアルス人類の歴史を語る上で重要なエポックだ」
(正)「この『魔導大戦』はアルス人類の歴史を語る上で重要なエポックだ」
(誤)「この身体でなら、『ヘール』ですごるのも悪くないのではなくて?」
(正)「この身体でなら、『ヘール』で過ごすのも悪くないのではなくて?」
(誤)「そうよな。帰ることも視野に入れてもよいかも入れぬ」
(正)「そうよな。帰ることも視野に入れてもよいかもしれぬ」
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(旧)ラシール大陸のすぐ東にあたる地域に『四公国』が成立した」
(新)ラシール大陸の北東にあたる地域に『四公国』が成立した」
(旧)それが『操縦針』も使って『独立派』の子孫を支配し、戦争へと導いたのだ」
(新)それが『操縦針』を使って『独立派』の子孫を支配し、戦争へと導いたのだ」




