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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
73 メメンタス調査篇
2765/4397

73-31 長い時間はさまざまな弊害をもたらすようだった

 『メメンタス=クフカエフ』の話は、驚くべき内容だった。


《まず、私『クフカエフ』は、『始祖(オリジン)』の1人だ。いや、1人だった》

〈どういうことだ?〉


 これまでの経緯から、蓬莱島側のスポークスマンは『しのびいち』が務めている。


《我々は、知っているかもしれぬが、元々は『ジェドエフ』『テプヘレス』『クフカエフ』『フェルヘテ』『ルサンク』『ルセネト』『サフラー』『ネフェル』という》

〈……うむ〉


 それは、一部、知らないものがあるが、6人までは礼子が見つけた墓碑に刻まれていた名前だ。


《その8人の集合……いや、8人分の記憶メメントを集めた魔導頭脳の集合体が『メメンタス』である》

〈……そうだったのか〉


 これでようやく『メメンタス』の正体が判明した。

 それは『第1世代の始祖(オリジン)』の記憶と、おそらくは人格を受け継ぐ魔導頭脳だったのだ。


《……我らは没する直前、自動的に魔導頭脳に『自我』……記憶と人格を転写した。そしてこの星と子孫を見守ってきたのだ》

〈…………〉

《しかし、4000年という月日は長すぎた。1000年を過ぎたあたりから、我らは『身体ボディ』を欲するようになった》

〈なるほどな〉


*   *   *


「うーん、想像もしたくないな」


 それは、蓬莱島にいる仁にもなんとなく理解できることだった。

 魔導頭脳として永の歳月としつきを過ごすことに、始祖(オリジン)の精神は耐えられなかったのだろう、と。


「視覚と聴覚……はあるのかな。だが、嗅覚はともかく、触覚、それに味覚がなくなるわけだろう?」


 目は見える、耳は聞こえる。だが、それだけ。

 身体は動かせず(そもそも動かす身体がない)、食事も運動もできない。

 できるのは思考することだけ。


「……あの『精神生命体』でさえ退屈していたからな……」


 そこまでの発展段階に達していない……自ら肉体を捨てられるほどではない……『始祖(オリジン)』が退屈しないはずがないのだ。


「俺だったらもっと早く退屈したと思うぞ」

「ジン兄、話がずれてる」

「ああ、悪い悪い。……とにかく、身体がないと人間、やってられないだろうなあと俺も思うよ、と言いたかったんだ」


 風邪を引いて1日2日寝込むだけでもうんざりするのだから……と仁は思っていた。


*   *   *


 『メメンタス=クフカエフ』の話はまだ続いている。


《……そういうわけで、我らは『身体ボディ』として精巧な自動人形(オートマタ)が必要だったのだ》

〈なるほど、少し事情はわかった。だが、なぜ自動人形(オートマタ)なのだ? 『人造人間(ホムンクルス)』でもよかったのではないのか?〉

《ほう、そこまで知っているのか。なかなか事情通ではないか》

〈いや、たまたまだがな〉

《……そういうことにしておこう。……で、『人造人間(ホムンクルス)』にしない理由、それは簡単だ。肝心な『素材』がなかったからだ》

〈もしや『精神触媒』が、か?〉

《これは驚いた。そこまで知っているとはな。……そのとおり。『精神触媒』がないため『人造人間(ホムンクルス)』を作ることが叶わなかったのだよ》


 大分事情が飲み込めてきたしのびいち


〈それで自動人形(オートマタ)を、というのはわかった。だが、『人間並み』の身体能力にする理由は?〉

《簡単なこと。必要がないから、だ》

〈ふむ……そうかな?〉

《そういうものだ》


 『始祖(オリジン)』の考え方は仁たちとは違う。しのびいちは、これ以上そのことで議論する気はなかった。


《使い慣れた、というよりも、本来あるべき状態の身体、といえばいいか》

〈……わかった。続けてくれ〉

《うむ。……だが、なかなか気に入る自動人形(オートマタ)は作れなくてな。君の製作者殿に作ってもらうまでは》

〈なるほど。……他の部屋にあった、動かない自動人形(オートマタ)は、そういう目的で作られ、気に入らなくて廃棄した、というわけか〉

《まあそういうわけだ》

〈……廃棄というが、再利用しないのはなぜだ?〉

《………………それなりに理由があってな》


 珍しく少し言い淀んだ『メメンタス』である。


〈どうした? 何か説明できないことでも?〉

《……いや、そうではない。いいだろう、理由を話そう》

〈うむ〉

《我らには敵がいるのだ》

〈敵?〉


 またまた思いがけない事実が判明した。


《そうだ、敵だ》

〈そんな存在が?〉

《いる》


*   *   *


 蓬莱島でも、その会話を聞き、驚いた者がいた。


「ええっ? まだそんな相手がいるのかい!?」

『サキさん、それはおそらく『A』『B』が発見した、細かい穴や鞭、熱兵器の痕跡を残した存在のことでしょう』

「あ、ああ、あったっけね、そんなの」

「細かい穴ってのがよくわからないんだよな」

御主人様(マイロード)、可能性としては強酸などの腐食液を散布した際の飛沫、シールドに付いたスパイクの跡、それに足裏の滑り止めスパイクなどが考えられます』


 老君が推測を述べた。


「確かに、そんなものか。俺としては足裏のスパイクを推したいな」

「ん、私も」

「くふ、なるほどねえ。そんな敵がいる……って、一体何モノなんだろうね?」

「少なくとも好戦的だよな。相手を壊すだけじゃなく素材レベルまで分解しているし」

「……ジン兄、その敵も、もしかして素材を欲しているんじゃ?」


 エルザが 思いつきを口にした。


「ああ、その可能性もあるわけか。……て言うか、それは目的であって、手段を正当化するものじゃないよなあ」

「ん、そう思う。でも、徹底的に分解する訳としては納得できる、かも」

「うーん……じゃあ、その素材は何に使うんだ?」

「それは、わからない」


 情報が少なすぎるので、それ以上の推測は困難であった。

 そこで仁たちは『メメンタス=クフカエフ』の話に注意を戻したのである。


*   *   *


〈ここを襲うような敵とは?〉

《……恥を晒すことになるが……我らがその昔に作った保安措置セキュリティシステムだ》

〈……え?〉


 『メメンタス』の話は衝撃的であった。


《……魔導頭脳が暴走したり、倫理にもとる行動をした際に抑制力となるよう設定したのだが……》

〈……まさか、そっちが暴走したと?〉

《……そのとおりだ。……まったく恥ずべきことだ》

〈…………〉


 自分たちが作ったシステムに反抗された、ということになる。

 つまりそれは、潜在的に大きな脅威が存在しているということで、それを聞いたしのびいちをはじめ、蓬莱島勢はさらなる面倒事を予感したのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20201030 修正

(旧)《……そのとおりだ。……まったく不甲斐ない》

(新)《……そのとおりだ。……まったく恥ずべきことだ》

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― 新着の感想 ―
[一言]  うーん8人ですか。当初、西部に来た第1世代は2人しかいなかったので、残り6人はどこから?墓碑に名前があるのは第2世代の親の名前が含まれているからだと思っていたのですが。  こうなると、『ジ…
[一言] 73-26 1つ謎が解けたと思ったら https://ncode.syosetu.com/n7648bn/2765/ >《超小型ゴーレムか。なかなか素晴らしい出来ではないか》 > > そし…
[気になる点] >《……そのとおりだ。……まったく不甲斐ない》 『メメンタス=クフカエフ』は不甲斐ない(≒いくじがない)と貶していますが、この場合は誰を貶しているんでしょうか? 暴走するような保安措置…
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