73-29 それはそれで得るものはあったようだ
サキの助言を受け、骨格はアルミナ(酸化アルミニウム、Al2O3)で作ることにした。
これはサファイアやルビーの原料にもなるもので、耐熱性・電気絶縁性に優れ、硬度も高い。金属を溶かするつぼにも使われている。
比重は3.85から3.99くらいなので、骨の比重が2.0から2.1であることから、多少の調整を行うことになる。
もう少し具体的に説明すると、空気の粒子を混ぜて整形するわけだ。これで強度も同時に調整できる。
「筋肉はどうするかな」
金属系では絶対に重くなるので、生物系となるのだが、蓬莱島にある素材では『人間並み』にするのは至難の業なのだ。
最低でも10倍以上のパワーになってしまう。
「くふ、思わぬところにジンの苦手があったものだね」
「まったくだ。この機会にこういう技術にも習熟しないとな」
仁としては、義手や義足などに応用する際に役に立つだろうと思っているのだ。
そういう意味では、『アヴァロン』の技術者の方がこの点においては一日の長があるかもしれない。
だが、そうした苦手を苦手のままにしておかないのが『魔法工学師』仁である。
「これまで、パワーアップのために工夫していたことを逆方向へやってみればいいのかもな」
「くふ、逆転の発想だね」
「ジン兄、例えば?」
「そうだな……」
仁は地底蜘蛛の糸を手に取った。
「これを撚り合わせ、ねじることで長さと断面積を稼いでパワーと伸縮量を得てきたが、その逆をやってみる」
仁は礼子……がいないので、たまには……とソレイユとルーナを呼んで助手をさせている。
「それじゃあ、2人で端を持って引っ張って伸ばしてくれ。そうだな、元の3倍くらいに」
「はい、お父さま」
「わかりました、お父さま」
1メートルほどの長さの地底蜘蛛の糸の束を、2人は引き伸ばしてくれた。
「おお、ありがとう」
引き伸ばしたことにより密度は低くなり、従って出せるパワーも低下するはずである。
ここに、何も制御しない繊維も混ぜることで筋肉として全体的なボリュームを確保しつつ、人間並みのパワーに収めるのだ。
地底蜘蛛の糸の比重はおよそ1。重さ的にもちょうどよい。
「さて、ある程度触覚も備えさせたほうがいいだろうな」
歪センサーを使い、触覚を再現する。
これにより、力の加減がうまくなる上、動作もより人間らしくなる。
「魔導神経線は標準的な2本並列として、皮膚をどうするかなあ……」
「くふ、さすがに人間の皮膚と同等しかない強度の素材はボクも知らないなあ……」
「サキ姉も? 私も心当たりがない」
仁としては、皮膚くらいは少々強度があってもいいのではと思ってはいる。
「あ、そうだ。ジン、向こうで廃棄した自動人形はどんな素材を使っていたのか、わかるかい?」
「なるほど、それがあったな。……老君、『忍部隊』からそれについての報告はあったか?」
『はい、御主人様。簡単ですがありました。それによりますと、普通の動物の革を加工したもののようです』
「あ、そうか」
魔獣の革を使うから強度が大きすぎるわけで、魔物ではない動物の革なら、十分用途にかなうわけだ。
「じゃあ……ボア系の革を使うか」
工学魔法で薄く削ぎ、表面を平滑にし、色を調整した。
薄くしたら思ったより弱くなったので、少しだけ『強靱化』を掛けた。
「これでよし」
「ジン兄、顔のパーツが、できた」
「お、ありがとう」
特に指示はなかったので、目の色は黄色、髪の色は銀色。
マリッカを基準にし、やや暗めの色にしている。
『始祖』がこうした髪と目の色だったことを聞いているからである。
「視覚センサー、聴覚センサー、それに一応味覚センサーも、っと」
いずれも人間並みにデチューン……というより新規製作したものだ。
面倒だったのは『制御核』。
ベースは5色ゴーレムメイドなのだが、身体能力が違いすぎるので、『人間並み』に最適化するのが大変であった。
最終的には老君にパラメータの変更をチェックしてもらう。
『御主人様、問題ありません』
「そうか、よかった」
当然、知識もそれに応じて取捨選択した。
「よし。エルザ、頼む」
「ん」
その他の付随装置を取り付け、女性型なので仕上げはエルザに任せた。
結局、ここまでで2時間半も掛かってしまった。
「……こんなに大変だとは思わなかった」
「ん」
「くふ、ジンにしてはそうだろうねえ。……でも多分、これでも世間一般の魔法技術者に比べたら結構速いと思うよ」
『結構速い』ではなく『とんでもなく速い』のだが、サキもまた蓬莱島の常識に慣れているのだった。
服は蓬莱島標準の侍女服……にしようと思ったが、こちらもまた『地底蜘蛛絹』製なので、急遽流通している木綿と麻を使い、同じデザインで仕立てたのだった。
* * *
「結局3時間くらい掛かったな」
「ん。でも、勉強になった」
「だな」
まだ起動はしていない、侍女自動人形。
「これを向こうへ送り出して起動させるか?」
『いえ、御主人様。誰かに運ばせるのがよろしいかと』
ラシール大陸までは転送機で送り込み、『オエステ2』から転移魔法陣を使い『オエステ3』を経て『メメンタス』のところへ、というルートになる。
「それじゃあ手伝ってくれた『職人』101に頼むとするか」
「はい、お任せください」
「よし、頼んだ」
「あ、ジン兄、命名は?」
「それも『メメンタス』に任せよう」
「わかった」
そして『職人』101は、新作侍女自動人形を抱えて転移していったのである。
* * *
〈『メメンタス』、自動人形が完成したようだ〉
《……何、もうか?》
〈そうだ。『人間並み』ということで作り慣れておらず、かなり苦労されたようだ〉
《ふむ……それでもこの時間で作れるのか》
〈まもなくここに到着する。セキュリティは解除されているな?〉
《大丈夫だ。……楽しみだな》
そんな会話の2分後、職人101と侍女自動人形が到着した。
「持ってきたぞ」
〈ご苦労さま。……音声ではなく、この周波数で会話しています〉
〔わかった。これでいいな?〕
〈はい〉
《……客人、さっそくだが見せてくれ》
〔もちろん。さあ、見てくれ〕
職人101は侍女自動人形を床に下ろした。バランスがいいのでそのまま立っている。
《ふむ、これはいい。起動できるか?》
〔もちろんだ。『メメンタス』だったか? 起動してくれ〕
《いや……そちらで起動し、命令権を譲渡して欲しい》
〔わかった。……私は『職人』101という〕
《そうか、スミス101。では頼む》
その要請に従い、『職人』101は自動人形を起動することにした。
仁と同じ魔力パターンなので問題なく起動できる。
〔『起動せよ』〕
「はい」
侍女自動人形が目覚めた。
〔どうだ、調子は?〕
「はい、大丈夫です」
《ほほう……》
〔さあ、それでは『メメンタス』が名前を付けてやってくれ〕
《わかった。そうだな……》
* * *
「さて、『メメンタス』は、この侍女自動人形を気に入るかな?」
蓬莱島でモニタしている仁も、少し緊張していた……。
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