73-27 交渉とも呼べない交渉、その相手は
ついに『メメンタス』の謎に迫った『忍壱』であったが、まだまだ謎の種は尽きないようである。
《言うことを聞かないなら、貴様程度捻り潰すこともできるのだぞ?》
『メメンタス=フェルヘテ』が恫喝を掛けてきた。
だが、その程度の脅しに屈する『忍部隊』ではない。
〈できるものならな〉
《……言ったな》
後悔するな、と『メメンタス=フェルヘテ』が言うか言わないうちに侍女自動人形が飛びかかってきた。
〈……何をする気だ?〉
《握りつぶされてしまえ!》
〈……それは無理だと思うぞ〉
《何!?》
侍女自動人形の動きは人間並み。それでは到底『忍部隊』を捕えることはできない。
何せ、彼女の身体能力はそれ以上上がらないのだから。
これは自動人形が作られている『工場』で観察した結果わかったことである。
どういう拘りがあったのか、『工場』で作られていた自動人形は全てが『人間並み』の性能しか出せない設計だったのである。
『忍部隊』の素早さは折り紙付きである。
蓬莱島勢で、純粋な身体能力だけで彼らを捕まえられるのは礼子くらいのものであろう。
つまるところ。
〈……無理だろう?〉
《くうう、ちょこまかと!!》
侍女自動人形に『忍部隊』を捕まえることはできないのである。
〈……やめておけ〉
《馬鹿にしおって!!》
時折侍女自動人形の頭に乗ってはすぐに飛び退くという挑発も交え、3体の『忍部隊』は室内を縦横無尽に跳び回った。
〈……もうやめておけ〉
《やかましい! 我らの手がこれだけと思うなよ!》
その言葉が発せられた直後、今度は男性型……初老の執事タイプの自動人形と、壮年のスポーツマンタイプの自動人形が現れた。
とはいえその2体もまた、外見どおりの身体性能しか持たず、脅威にはなりえない。
〈……たいして変わらんな〉
《ぐぬぬ……》
〈こんなことをしていても進展はない。いい加減にやめようではないか〉
《……………………そうですね》
〈おっ?〉
話し方が変わった。忍壱は、
〈『メメンタス=ジェドエフ』に戻ったのか?〉
と尋ねてみた。
だが、答えは予想もつかないものであった。
《違います。私はルセネト。『メメンタス=ルセネト』と呼んでください》
なんとなくだが女性っぽい感じの相手だな、と忍壱は感じた。
〈……『メメンタス=ルセネト』。あなたは理性的な話ができるのか?〉
《ええ、大丈夫だと自覚していますよ》
〈それはよかった〉
少しほっとする忍壱。
《それにしても、あなた方は本当に素晴らしい性能をしてらっしゃいますね》
〈ありがとう〉
忍壱としても、それはイコール製作者である仁への賛美であるとわかっているので素直に礼を述べた。
《『ジェドエフ』が言ったように、私たちは助けが欲しいのです》
〈さっきは自動人形が欲しいと言っていたが?〉
《同じ意味です》
〈自動人形を作ることが助けになる、と?〉
《ええ。正確には、我々が望む仕様の自動人形が、ですが》
〈……端的に言えば、性能のいい自動人形が欲しい、ということか〉
《いえ、性能だけではないのです。容姿も重要なのです》
〈ふむ?〉
『メメンタス』の言い分はわかった。だが、忍壱としては、まだなんとなくすっきりしていない。
『メメンタス=ルセネト』は、嘘をついてはいないだろう。が、真実をすべて語っているとも思えなかった。
まだ何か、隠していることあるいは語っていないことがあるはずだ。
(……まあ、それはこちらも同じか)
信用しきれない相手に洗いざらい何もかもを語るはずがない、と忍壱は思い直したのである。
〈……あのたくさんあった自動人形は、すべて納得のいかない出来だったということか?〉
《そういうことですね》
〈なぜ放置を?資源の無駄では?〉
《今は、再利用するための手間も惜しいのですよ》
〈……つまり、事態は切迫していると?〉
ここで、またしても何かが変わったようだった。
《……うだうだ言わずに、貴様を作った技術者を呼び寄せやがれ!》
〈また人格が変わったのか。今度は何というんだ?〉
《『テプヘレス』。……『メメンタス=テプヘレス』と呼べ》
〈そうか、『テプヘレス』。少しは理性的に考えろ。そんな態度をとっていたら、呼ぼうという気になるはずがないだろう?〉
《やかましい。どうせ先住民の中から出た技術者だろうが》
〈……違う、と言ったら?〉
《なに?》
〈……私の製作者様は先住民でも、あんたたちの子孫でもない……と言ったらどうする?〉
《それは本当か!?》
〈……さあな?〉
《何!?》
〈あんた方も、まだ全てを語っていない。なら、私もすべてを語る必要はないわけだ〉
《ぐむ…………………………》
《………………………………ふはははは! なるほどなるほど、素晴らしい思考回路だ。やはり会ってみたいものだな、君の製作者に!》
どうやら、また人格が変わったようだ、と忍壱は内心で溜息をついた。
〈……今度は誰だ?〉
《私は『クフカエフ』。『メメンタス=クフカエフ』だ》
〈……多重人格か〉
《まあ、そう言ってもらって構わん。……ところで、どうすれば君の製作者に会わせてもらえるかね?》
〈今のままでは難しいだろうな〉
《うむ、そうであろうな。当然の判断である》
今度の人格……『メメンタス=クフカエフ』は、かなり話のわかる相手らしい、と忍壱は思った。
〈そうだな……危険がないことが第一だが、自動人形がそれほど欲しいのか?〉
《欲しい。というより必要なのだ》
〈そうか……〉
* * *
蓬莱島では、そうした会話も傍受できている。
『……『メメンタス』は複合魔導頭脳なのかもしれませんね』
これまでの情報をまとめた老君の推測である。
「うーん、あの『容器』の中身がエーテノールのようなもので、その中に魔導頭脳が浸かっているわけか……」
高電圧用のトランスだったかがオイルに漬けこまれているという話を聞いたことがある気がするなあ……と仁は思いながら、
「放熱対策かな?」
と、現実的な背景を推測してみたのだった。
『御主人様、それよりも、どういたしますか? あの『メメンタス』の所へ行くのはかなり危険があると考えますが』
「俺もそう思う。いきなり行く気はないよ」
『では……』
「うん、何か策を講じよう」
そういうことになったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20201024 修正
(誤)〈……つまり、自体は切迫していると?〉
(正)〈……つまり、事態は切迫していると?〉
(誤)『メメンタス』の言い分はわかった。だ、忍壱としては、まだなんとなくすっきりしていない。
(正)『メメンタス』の言い分はわかった。だが、忍壱としては、まだなんとなくすっきりしていない。
20211109 修正
(誤)忍壱としても、それはイコール製作者である仁への賛美であるとわかっているので素直に例を述べた。
(正)忍壱としても、それはイコール製作者である仁への賛美であるとわかっているので素直に礼を述べた。




