73-26 1つ謎が解けたと思ったら
結局『忍部隊』は、通路にある扉をすべて開け、中を確認してしまった。
合計10の扉があり、その全てに『動かない自動人形』が置かれていたのである。
そして部屋ごとに、自動人形の外見は異なっていた。
1つの部屋に置かれて(あるいは放置されて)いた自動人形の数は平均50体。
これが何を意味するのか、推測はできるが決め手に欠けていた。
その答えは、おそらく『統括管理魔導頭脳』が持っているはずである。
『忍部隊』は通路の突き当りを目指した。
〈突き当り……正面に、扉が1つありますね〉
〈あの向こうに『統括管理魔導頭脳』があるのでしょうか?〉
〈可能性は高いな〉
そして辿り着いた扉の前。
〈……白いな?〉
その扉だけが白かったのである。
〈やはり『第1世代』に関係があるのだろうか?〉
〈……さあ、それは……〉
その時、『忍部隊』が使う魔力波の回線に、何者かが割り込んできたのである。
《ようこそ、来訪者諸君。入りたまえ》
『白い』扉が自動的に開いた。
〈……入るしかないな〉
忍壱は用心をしながら扉内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ、お客様」
〈……!?〉
彼らを出迎えたのは、古めかしい服装をした侍女……型自動人形であった。
その背後には、直径5メートル、高さ5メートルほどの『タンク』のようなものがある。
《超小型ゴーレムか。なかなか素晴らしい出来ではないか》
そしてさらに、侍女とは異なる声……いや、回線を通じた言葉が『忍部隊』3体に届いた。
〈そう言うのは……誰だ?〉
忍壱が聞き返すと、謎の声が答える。
《私か? 私なら、諸君の目の前にいる》
〈何?〉
彼らの目の前にある、もしくはいるのは、侍女型の自動人形と、銀色の『タンク』。
〈……そこの『タンク』か?〉
《ふふ、なかなかに鋭いな。左様。諸君らの目の前にある容器、その中に『私』はいる》
〈何だと!?〉
銀色のタンク。
おそらく軽銀製で、液体を溜めておく圧力容器のようにも見える。
〈……まさか、中に脳髄が……?〉
《ふっ、はははは! 面白いことを考えるな!》
謎の声は愉快そうに笑った。
《培養液に浸る脳髄か。それはそれで興味深いが、私は違うぞ。この容器の中の液体は『*@+、>&$#』だ》
〈何と?〉
《ふむ、そちらの語彙にはない言葉だったかな? ……要するに『自由魔力素』を大量に含んだ液体だ》
〈……なるほど。それらしいものなら知っている。『エーテノール』という〉
《ほう、エーテノールか。……面白い。まったく同じものではないかもしれんが、とりあえずそう呼んでおこう》
容器の中はエーテノールで満たされているという。だが、それだけでこうした思考ができるはずがない。
〈……そのエーテノールの中に、何が入っているんだ?〉
《……ほう。……そこまで推測できるか。本当に面白いな》
〈で、答えは?〉
《ふふ、今はまだ秘密だ……と言っておこう》
〈もったいぶっているな〉
《ふふふ、実に興味深い存在だよ、君は》
謎の声は笑う。
〈……ではせめて貴殿の名を聞かせてはくれないか? 私は『忍壱』という〉
《名か。……『ジェドエフ』とでも名乗っておこう》
〈ジェドエフ?〉
その名には聞き覚えがあった。
〈……もしかして『第1世代』の『始祖』の名前か?〉
そう、礼子が発見した墓所に刻まれていた名前と同じなのだ。
《ほう? ……どうやら貴殿はかなりいろいろなことを知っているようだな》
〈いや、知らないことも多々ある〉
《例えば?》
〈む……〉
少し考え、忍壱は、ここであの単語を口にした。
〈……『メメンタス』について、とかな〉
《ほほう……その単語を知っているのか》
〈偶然耳にしてな。……で、『メメンタス』とは何か、教えてもらえるのか?〉
《いいだろう。『メメンタス』とは私のことだ》
〈!〉
《……驚いたか?》
〈ああ、驚いた〉
魔導頭脳の名称だろうとは想像されていたが、まさか目の前の存在がそうだとは思っていなかったのだ。
だが、『メメンタス=ジェドエフ』もまた、驚いていた。
《そうか。……貴殿は驚くこともできるのだな。……貴殿を作った者は、存命か?》
〈もちろんだ〉
《ほう、そうか! それはいいことを聞いた》
明らかに声のトーンが変わった。どうやら『メメンタス=ジェドエフ』もまた、感情を持つようだ。
だがそれはそれ。忍壱は用心しながら逆に質問してみたのである。
〈……いいこととは、どういう意味だ?〉
《会ってみたい、ということさ》
〈……会ってどうする?〉
《頼みたいことがあるのだ》
〈それは?〉
《うむ………………》
言い淀む『メメンタス=ジェドエフ』。
〈どうした? 言いにくいことか?〉
《そうではないが……まあ、いいか。……自動人形を作ってもらおうと思ってな》
〈自動人形を? どうして?〉
《貴殿は、ここへ来るまでの道中で、廃棄した自動人形を見たであろう?》
〈……うむ〉
やはり廃棄品だったのか、と忍壱は思った。
《たくさん作った中から、最も出来のいいものを選別したのだがな、どうしても納得がいかんのだよ》
〈……それで私の製作者に会いたいと?〉
《そういうことだ。話をしてみてくれるか?》
〈……〉
忍壱は考え込んだ。
この『メメンタス=ジェドエフ』という魔導頭脳は話が通じる。
ここは仁に報告し、『分身人形』を差し向けてもらうべきではないかと。
しかし、突然状況が変わった。
《……どうなんだ? 答えろ!》
〈?〉
突然、『メメンタス=ジェドエフ』の態度が変わったのである。
《返答しないか!》
〈……どうした、『メメンタス=ジェドエフ』?〉
呼びかける忍壱……だが。
《俺は『フェルヘテ』だ。『ジェドエフ』ではない》
〈……それは……それも『始祖』の名だが……〉
《知ってるのか。ふん、『オエステ2』の碑文を読んだな? まあいい。貴様を作った技術者を呼べと言っている》
〈……2つの性格があるのか?〉
《貴様の質問に答える義務はない》
〈……安全を保証してくれない限り、ご主人さまを呼ぶことはできない〉
《強情な奴だな》
〈主人の安全を気遣うのは当然だろう?〉
《ふん、確かにな》
〈……安全を保証してくれるなら、その証拠として、もう少しそちらの情報を開示してくれてもいいではないか〉
こうして、謎の魔導頭脳『メメンタス』と『忍壱』との交渉は続いていく……。
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