73-25 その理由は、彼らにもわからず
『統括管理魔導頭脳』があると思われる階層、そこにある扉の1つの奥にあったもの。
〈……自動人形の、廃棄場所……なのか?〉
そこには、魔力反応の欠片もない自動人形が乱雑に置かれていた。
それはまるで、用済み、もしくは不良品なので廃棄したかのようにみえる。
〈……ご主人さまが見たら、嘆かれるに違いないな〉
〈同感です〉
仁は、己の作った作品をこんな扱い方は絶対にしない、と忍壱は知っているからだ。
〈……しかも、ここに置かれている自動人形は、全て同じ型ですよ〉
〈確かにそうだな〉
青年に見える男性の姿である。服は着ていない。
〈先ほど上で見た自動人形とは違うのだな〉
〈確かにそうですね〉
あれは壮年もしくは初老風だった、と『忍部隊』の3体は、その光景を思い出していた。
〈いずれにしても、先へ行こう〉
〈わかりました〉
謎が謎を呼ぶ展開であるが、ここで立ち止まってはいられないと『忍部隊』は、その部屋を後にするのだった。
〈……参考までに、もう1つ、扉の中を確認しておくか〉
〈わかりました〉
隣の扉も、中に魔力反応がないことを確認した後に開く。
と、そこには。
〈……ここもか……〉
そこもまた、動かない自動人形が乱雑に置かれていた……いや、積み上げられていたのだった。
〈おっ、ここの自動人形は、もしや上で見たラインで作られたものではないか?〉
〈いえ、似てはいますが違いますね〉
〈間違いないと思います。ほら、髪色が異なりますから〉
〈なるほど、確かにそうだ〉
それがわかっても、謎は解けない。
〈……先へ行くか。そして、もう1つ部屋を確認してみよう。もしも予想が正しいなら、また別の型の自動人形が放置されているはずだ〉
〈わかりました〉
* * *
その忍壱の予想どおり、また別の部屋には若い女性型の自動人形が積み上げられていたのである。
〈……〉
〈こうなると、他の扉の中にも、違う外見の自動人形が放置されているのでしょうね〉
〈そうだろうな〉
その予想が正しいかどうか、3体は別の扉も開けてみることにした。
そして……。
これまで開けた扉は8つ。
そのことごとくに自動人形が放置されており、全てデザインが異なっていたのである。
男性型だったり女性型だったり。
また、見かけの年齢も少年・少女から初老まで様々。
〈ますますもってわからんな〉
〈老君は何と言っていますか?〉
〈……結論を出すには、まだ情報が足りないそうだ〉
* * *
蓬莱島では仁をはじめとする、残っている『仁ファミリー』のメンバーが頭を捻っていた。
「……目的がわからないな……」
『はい、御主人様。先程の推論はやはり違っていたようです』
老君が立てた仮設、『人の生活、営みを模倣・再現するためではないか』。それはどうやら違ったようである。
「うーん、たくさん作って、一番出来のいいものを採用するのかな……?」
「ああ、ハンナの意見はいい線かもしれないな。作るだけ作って放置する理由としてはありかもな」
「くふ、でもジン、同じ型を量産して、そんなに変わるものかい?」
サキが疑念を口にした。
仁はそんなサキに『量産品』というものについて簡単に説明する。
「ああ、変わるよ。同じように作ったとしても『誤差』というものは必ず出るからな。大小の差こそあれ、誤差は必ず出てしまう」
「そういうものかい?」
「そうなんだよ。……だから俺としては、誤差を嫌う場合は全部一品生産するんだ」
1つ1つ現物同士をすり合わせて、誤差が極小になるように作る、と仁は言った。
その極致が世界最高の自動人形、礼子である。
『とはいえ、御主人様の場合、各ゴーレム部隊のような量産品でも、誤差は極小ですけれど』
老君が補足を入れた。
「ああ、それは工学魔法のおかげだな。組立時に調整しながら組んでいるからだ」
ただ組み上げるのではなく、工学魔法により誤差をできるだけ小さくするように調整している。それこそが蓬莱島品質である。
「ふうん、改めて聞くととんでもないねえ……脱帽だよ、ジン」
笑いながらサキが言った。
「ありがとう。……それはいいんだが、問題は向こうだよなあ」
積み上げられた自動人形。それはどうしてそういう扱いになっているのか。
考えてもわからなかった。
「ん、意図が掴めない」
「……ターレスさん、何かご意見は?」
「うーむ、なんとなくだが想像できることはある。だが一点のみ、『始祖』のやり方にはそぐわないのだよ」
「それは?」
「廃棄品を積み上げておく、ということだ」
「ああ、再利用もせずに、ということですね?」
「然り。……その点を除けば、いかにも『始祖』らしい、とも思える」
『長老』ターレスによれば、『始祖』には、『気に入るまで何度でも作り直す』という面が確かにあるという。
「つまり、あれらの中から、最も出来のいいものを使っていることになりますね?」
「然り」
ハンナが言ったように、たくさん作ってから最も出来のいいものを採用した、そういうことらしい。
量産品にはばらつきがある。そのばらつきは、一般的には(製造ラインが適正であれば)設計値を中心に、大小両方向へ分布する。
例えば、機械式の時計。正しい時刻に対し、進むもの、遅れるものがある。
進むものの中にも、多く進むもの、少し進むもの、とばらつきがある。
遅れるものも同じだ。
そして、ごくまれに、進みも遅れもしないものができることがある。
『当たり』などと言われる個体だ。
そうした自動人形を選別するため、量産している可能性がある、と『長老』ターレスは言ったわけだ。
「ですが、もう『始祖』……『第1世代』はいないはずですよね?」
「それは確かにそうだ。だが、その意思を受け継いだ魔導頭脳が残っている可能性がある。あるいは吾のような『人造人間』やもしれぬが」
「なるほど……」
『やはり、まだ情報が足りませんね。もう少し様子を見ましょう』
この謎は、もう少し情報がなければ解けないだろうと老君は言った。
そして『仁ファミリー』の面々は『忍部隊』の調査活動に期待するのであった。
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