73-22 いよいよ彼らの出番となる
最も左の坑道。そこは最も規模の大きい坑道でもあった。
ゆえに坑道も長く、入り組んでいる。
2体は奥へ、奥へ。
〔む? ここは……〕
〔何か聞こえるぞ〕
奥からかすかに物音がするのだ。
ゴーレムの聴覚でやっと聞こえるほどのかすかな音。
かなり小さい音か、あるいは遠く離れているのか……。
『A』と『B』は身構え、慎重に進んでいった。
〔おお、これは……〕
〔……鉱夫ゴーレムか〕
その坑道奥では、十数体の鉱夫ゴーレムがせっせと採掘を行っていたのである。
採掘しているのは軽銀が主で、まれにアダマンタイトが採れているようだ。
採掘した鉱石は転移魔法陣で運ばれていく。
一見、おかしなところはない……ようだったが、『A』が異常に気付いた。
〔あの転移魔法陣の行き先は、この基地内ではないぞ?〕
〔何? ……むう、そのとおりだ。いったいどこへ……〕
〔……ここを荒らした敵の本拠地ではないのか?〕
〔そう考えるのが自然だな〕
だが、それを確かめる術はない。
より正確に言うと、敵に気付かれずに確かめる術はない。
〔……せっかくの手掛かりなのだがな〕
〔致し方ない。ここはしばらくこのままにしておくとしよう〕
* * *
『A』と『B』には敵に気付かれずに確かめる術はなかったが、蓬莱島では違う。
『ここは、いよいよ『忍部隊』を送り込みますか』
鉱石の影に隠れ、謎の敵の本拠地に潜り込むことができるだろう、と老君は考えた。
『オエステ基地』調査で活躍した彼らは今、現地付近で待機中の『ペガサス2』にいる。
老君の要請に従い、彼らは『ペガサス2』に搭載された『転移門』を使い、蓬莱島に帰還した。
『新たな使命があります』
老君は彼らに説明を行った。
口頭ではなく『知識転写』を使ったので一瞬で済む。
『……そういうわけです。無理はせず、調査を行ってください』
「了解」
今回送り出されるのは『忍壱』以下、伍までの5体。陸から拾までの5体は待機である。
『それでは、気を付けて』
「行ってまいります」
『転送機』を使い、老君は『忍部隊』を『オエステ3』地下の鉱山へと送り込んだのである。
* * *
〈ここが『オエステ3』地下だな〉
〈確かに鉱石が山と積まれていますね〉
忍壱たちは、少し離れたところから、採掘の様子を観察していた。
〈ふむ、一定量の鉱石が溜まったら転移魔法陣上に運ぶ。運んだゴーレムが転移魔法陣の外へ出たら、トリガーの魔力を与え、魔法陣を起動して鉱石を転送する。……こんな手順の繰り返しだな〉
忍壱は観察の末、結論を出す。
〈鉱石の搬入と転送の間に、4秒ほどのタイムラグがある。紛れ込むには十分だ〉
〈了解です〉
忍壱と弐はそんな打ち合わせを行った。
〈よし、次のタイミングで鉱石に紛れるぞ。『不可視化』は作動させておけ。それから『物理障壁』もだ〉
〈了解!〉
簡単な打ち合わせ後、タイミングを見計らい、5体は鉱石と共に転移魔法陣に乗ったのであった。
* * *
一瞬で視界が切り替わり、『忍部隊』5体は、鉱石と共に広い倉庫内にいた。
鉱石ごと運ばれてしまう前にその場を去り、壁際へ。
壁際では観察しづらいが、ここは敵地である。まずは十分注意しながらそこで観察を行うことにした。
〈……転送されてきた鉱石を、ゴーレムが運んでいって仕分けする……か。普通の光景だな〉
〈ですが、そのゴーレム、4本腕ではないですよ〉
〈そのとおりだな。つまりここのゴーレムは、少なくとも『始祖』の『侵略派』ではないということになるな〉
〈設計者が違うという可能性もあります〉
〈そうだな。今から決めつけるのはよくないな〉
そして『忍部隊』は、位置を変えることにした。
壁伝いに移動し、倉庫の反対側からの観察だ。
それでも特に変わったものは確認されなかった。
〈よし、この倉庫を出よう。目指すは鉱石の運ばれていく先だ〉
〈おそらくは精錬場ですね〉
〈そうだ。そこからは精錬された金属が、貯蔵庫や加工場に運ばれていくだろう。その加工場を見つけるのだ〉
〈了解!〉
鉱石を運んでいくゴーレムの後をつける『忍部隊』は壁伝いに進んでいく。
〈ふむ、ここの通路は壁と天井が『白っぽい』な……〉
〈やはり『始祖』の『第1世代』が?〉
〈おそらくは……いやそれは、まだわからん〉
結論を出すのはまだ早いと、忍壱は己を戒めた。
『白っぽい』だけで、『白い』というわけではないのだから。
* * *
「ふうん、『白っぽい』……か。なんとも判断に困る色だな」
『そうですね、御主人様』
実際に使われている色はやや灰色がかった白とつや消しの黒、それに銀灰色。
全体的に見ると白っぽく見えるだけで、意図したものではないような気がする仁である。
「白っぽいほうが、照明効果が高いしな」
自動車道路のトンネル内の壁も、白い方が明るく見えるのと同じだ。
「いずれにしても、『始祖』の様式のようでもあり、そうでもないようにも見えるな」
「……うむ、ジン殿に同感だ」
『忍壱』から送られてきた正体不明の敵の拠点内の画像を見た『長老』ターレスも、仁に同意した。
「吾が思うに、この様式は『始祖』の技術と文化を受けながら、それを発展、応用したものではないか」
「ははあ、なるほど」
『先入観なしに観察、分析するとそういう結論が出ますね』
老君もまた、『長老』ターレスの意見に賛成した。
「子孫、弟子……みたいなものか」
「うむ、そう言ってもいいだろうな」
「その正体は……なんでしょう?」
「まだ情報が少なすぎてなんとも言えぬな」
「ですね……」
仁たちは、もう少し様子を見ることにした……。
* * *
『忍部隊』が最初に辿り着いたのは資材の貯蔵庫だった。
〈ここはここで、得られる情報があるぞ〉
未知の相手が、どのような素材を使っているのかを知ることができる、と『忍壱』は言った。
そこで、搬入と搬入の合間を利用して調査することになった。
時間にしておよそ5分間。
〈4分で一旦調査を打ち切って奥の壁際に待避だ。いいな?〉
〈了解〉
そして5体は倉庫内に散り、素材を調査していった。
4分後。
〈どうだった? 私のところは鉄鋼系のインゴットばかりだったが〉
〈私のところは軽銀でした〉
〈私が調べたところも軽銀でした〉
〈ミスリル銀とアダマンタイトを確認しました〉
〈銅、錫、亜鉛、鉛を確認しました〉
〈なるほど。あと2回、調査するぞ〉
〈了解〉
『忍部隊』の調査は順調である。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201019 修正
(誤)〈4分で一旦調査を打ち切って奥の壁際に対比だ。いいな?〉
(正)〈4分で一旦調査を打ち切って奥の壁際に待避だ。いいな?〉




