73-21 調査するほど、謎は深まるばかりなり
坑道へ向かった『A』と『B』は、すぐ障害にぶつかった。落盤である。
〔おかしいぞ。このあたりは、十分に補強された区画のはずだ〕
〔そうだな。ということはつまり、人為的に崩されたのだろう〕
〔なんとかして向こう側へ行ってみるか?〕
〔それがいいと思う〕
そこで『A』と『B』は崩れた岩を取り除いていく。
思ったとおり、坑道自体の強度は十分だったので、岩を退けたそばから崩壊するというようなこともなく、20分後には通り抜けられる程度の穴が空いた。
〔よし、行こう〕
〔うむ〕
そして2体は坑道の先へと向かって行った。
〔……硫化水素だな〕
〔うむ〕
坑道の奥から硫化水素の臭いが漂ってくる。かなりの濃度のようだ。
それもまた、この『破壊者』の置き土産なのかもしれないと考える2体なのであった。
* * *
『……と、いうわけです、御主人様』
「なるほど、そういう流れか」
蓬莱島の研究室食堂では、『A』と『B』の調査結果について、老君が仁たちに報告していた。
今現在食堂にいるのは仁、エルザ、ハンナ、サキ、グース、マリッカ、『長老』ターレス、ネージュ、ルージュら。
「あの『A』と『B』の視覚と聴覚をモニタリングできたらもっとリアルタイムで情報が得られるのになあ」
「ジン兄、それなら派遣するゴーレムを決めたときに言わないと」
「エルザおねーちゃんの言うとおりだよ、おにーちゃん」
ぼやいた仁だったが、エルザとハンナにツッコまれてしまった。
『それでしたら、音声は無理ですが『覗き見望遠鏡』であの2体を追ってみましょう』
「ああ、その手があったな。是非頼む」
これが人間なら『読唇術』で会話の内容を知ることができるのだが、ゴーレム相手では役に立たない。
よってサイレント映画のように、無音の画面を見つめることになるのだ。
とはいえ、状況を判断した老君が適宜解説してくれるので助かっている。
『落盤の先へ行きますね』
「うん。あの先にも硫化水素が充満しているのだろうか?」
その情報は『オエステ2』から仁DやマリッカDを通じて得られたものである。
「くふ、『オエステ3』は生産に特化しているということだったよね? だとすると、鉱山では何が採れるのかな?」
「金属類と魔結晶は確実だろうな」
「うん、ジンの予想どおりだろうね。問題はレアな鉱石だよ」
サキとしては、希少な鉱物が産出するのではないかと期待しているのだった。
だがその期待は、いろいろな意味で裏切られる。
* * *
坑道は急角度で地中へ向かっている。それとともに硫化水素の濃度も増してきた。
〔このあたりは破壊の跡がないな〕
〔うむ。だが油断はできんぞ〕
〔わかっている〕
〔む……坑道の補強材が僅かだが腐食し始めているな〕
〔硫化水素の影響か〕
硫化水素は銀、銅をはじめ、様々な金属を腐食する。これは主に硫黄の作用である。
燃焼性の気体であり、燃えると亜硫酸ガスを発生する。これもまた毒性がある。
〔しかしわからぬな。腐食させることが目的なら、もっと強力なものだってあるはずだ〕
〔確かにな。それもまた調査せねばならんな。……む?〕
坑道の分岐点に差し掛かった。
そこは小広いホール状の空間になっており、来た道を除く5方向へと坑道が分かれている。
〔どうするか〕
〔今のところ、敵の気配はないな。ならば、どれを選んでも同じだ〕
〔ならば、まず一番右から行くか〕
〔それでいい〕
簡単なやり取りの後、『A』と『B』は向かって右の坑道へと入っていったのだった。
そこは水平に近い坑道となっており、硫化水素臭は薄れた。
そして、石英・水晶系の鉱物が採れるようだった。
〔ふむ、魔結晶の坑道だな〕
〔そのようだ〕
坑道は500メートルほどで行き止まりになる。
何も異常はない……ように見えるが、実はとんでもない状況であった。
〔鉱夫ゴーレムが1体もいない。これはおかしい〕
〔同感だ〕
見たところ、鉱床は優秀で、まだまだ魔結晶を採掘できると思われるのに、鉱夫ゴーレムがいないのだ。
またしても謎が増えてしまった。
『A』と『B』は来た道を坑道の分岐まで戻り、今度は1つ左の坑道へと足を踏み入れる。
そこもまた、水平に近く掘られた坑道で、前と同じく魔結晶の鉱脈に掘られたもの。
そしてここも、鉱夫ゴーレムが1体もいないという異常な状況であった。
二度2体は道を引き返し、今度は5つあるうち真ん中の坑道を選んだ。
それは緩やかに下り道となっている。
〔む……黄鉄鉱の破片だ。それに硫化水素の臭いが強くなった〕
黄鉄鉱は明るい金色の鉱物で、立方体に結晶する。
金色のサイコロ状の標本は有名だ。
その成分は硫黄と鉄で、化学式はFeS2。
主要な用途は硫酸の製造である。
含まれている硫黄が鉄の性質に悪影響を与えるため、鉄鋼材料としてはほとんど用いられていない。
だが硫化鉱物は、鉄以外にもいろいろな金属の鉱石として産出する。
〔ここは……水銀鉱脈か?〕
〔そのようだな〕
水銀の硫化物は辰砂と呼ばれ、赤い鉱物である。
古くは『丹』と呼ばれ、赤色、朱色の顔料であった。
丹生という地名は、丹が生じるところ、つまり辰砂の鉱山があったのではないかと推測される。
閑話休題。
水銀は常温で唯一の液体金属である。
水銀には毒性があり、脳や肝臓に障害を与えるとされる。
〔もしや、毒として散布するために水銀を欲していたのでは?〕
〔その可能性はあるが、この坑道も静か過ぎる〕
〔うむ……確かに〕
そしてこの坑道もまた、鉱夫ゴーレムが1体もいないのであった。
* * *
〔今度はここだ〕
四度目の調査行。
今度は右から4番目、すなわち左から2番めの坑道調査である。
坑道は急角度で地中へ伸びていく。
〔ここにも鉱夫ゴーレムがいないな〕
〔うむ〕
鉱夫ゴーレムはどうなったのか、それもまた謎である。
今の所、調査するたびに謎ばかりが増えていくという状況である。
それでも調査の手を止めるわけにはいかない『A』と『B』なのである。
〔……ここはミスリル銀の鉱床があるようだな〕
〔うむ。僅かだが金も採れるようだ〕
『A』と『B』はさらに先を目指す。
そしてここにも鉱夫ゴーレムはいない。
〔さっぱりわからぬ〕
〔同感だ〕
そして『A』と『B』は5度目の調査、最も左にある坑道へと向かったのである。
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本日10月18日(日)は14:00に
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20201018 修正
(誤)三度2体は道を引き返し、今度は5つつあるうち真ん中の行動を選んだ。
(正)二度2体は道を引き返し、今度は5つあるうち真ん中の坑道を選んだ。
(誤)今度は右から4番目、すなわり左から2番めの坑道調査である。
(正)今度は右から4番目、すなわち左から2番めの坑道調査である。




