73-19 調査隊、『A』と『B』は冒険する
「老君、あれでよかったのか?」
蓬莱島で、マリッカDと『A』『B』のやりとりを見ていた仁が尋ねた。
『はい、御主人様。『A』『B』が100パーセント信頼するに値するかと言われれば答えは否、ですが』
「ふうん?」
『しかし、『オエステ3』の様子を見に行かせることに問題はないと考えます。あの2体が『オエステ3』のスパイでない限り』
「なるほどな」
老君の説明に仁も納得し、しばらくは事態を見守ることにしたのだった。
* * *
『オエステ3』へは転移魔法陣で行くことができる。
『A』と『B』の2体は一瞬で『オエステ3』に移動した。
〔……静かだな〕
〔うむ、静か過ぎる〕
2体は音声ではなく内蔵の通信装置で会話をしている。
〔……うっすらとだが、埃が溜まっているな〕
〔うむ。これを見ると、100年くらいは清掃が行われていないということだろう〕
〔空調が正常なら、という前提があるが〕
〔それはそうだ〕
『オエステ2』内は、フィルターを通した空気を循環させているので、埃が溜まりにくいのである。
ここ『オエステ3』も同様だとして、埃の溜まり具合からの推測であった。
〔まずは進んでみよう〕
〔それしかないな〕
通常なら転移魔法陣のある部屋には数体のゴーレムが詰めているはずなのだが、それがいないということは、やはり何か異常事態が生じているということだろう、と2体は考えた。
基地内の構造は1から3ですべて異なるので、知識は役に立たない。
〔だが、ここは生産特化の基地だったはずだ〕
〔うむ。だがそれにしては、静か過ぎる〕
〔確かにな〕
〔ここは、資材採掘にも適した土地だったはずだ〕
なのに、採掘音すら聞こえないのは何かがあった証拠だ、と『B』は言った。
その『何か』を確かめることも、今回の訪問の目的である。
〔まずは『下』を目指すとしよう〕
〔お、そうだな〕
『下』には採掘現場、そして『統括管理魔導頭脳』がある。
であるから、2体は基地の深部を目指したのだ。
〔……警備のゴーレムも見かけないな〕
〔確かに。異常すぎるぞ〕
さらに通路を進み、下へ降りる非常階段を見つけた2体は、扉がロックされていることを確認した。
〔非常口をロックするだと?〕
〔……考えられることは外敵の侵入だが、それらしいモノはいなかったな〕
謎は深まるばかりである。
2体は用心しながら非常階段を下りていった。
〔……そういえば、明かりは灯っているな〕
〔うむ。とはいえ、ほとんどが『エーテル発光体』だからな〕
〔いや、あれを見ろ〕
〔む?〕
『A』が指差す方……下方の階段の途中には、『エーテル発光体』ではない明かりが1つ、灯っている。
〔あれは……〕
〔警告灯か?〕
『始祖』の警告灯は、赤ランプが点滅したり赤色灯が回転したりするものではない。
オレンジ色の明るいランプがそれを意味する。少なくとも『オエステ』基地では。
〔地下に警告灯が灯っているということは……〕
〔……採掘場所で何かあったということだろうか?〕
まず考えつくことは落盤、火山性のガスなどだが、『始祖』の技術からはどちらも可能性が低い。
いずれにせよもう少し進んでみないことには判然としないということで、『A』『B』2体は警告灯の先へと階段を下りて進んでいった。
〔……む、腐食性のガスか?〕
〔硫化水素だな〕
警告灯が灯る位置より5メートルほど階段を下ると、空気中に異臭が混じるようになった。
『A』と『B』は、大気を分析する機能を持っているため、それが硫化水素であることを知る。
〔硫化水素ということは、やはり火山性のガスだろうか?〕
〔採掘用ゴーレムが、その程度のガスで動作しなくなるとは思えないのだが〕
〔いや、ミスリル銀は、表面処理を施しておかない限り、耐性が低いぞ〕
ミスリル銀もまた、硫黄分と反応して硫化銀となり、電気のみならず魔力の導通も悪くなるのだ。
〔だが、そのせいでゴーレムは止まらぬだろう〕
〔それはそうだ〕
基本的に採掘用のゴーレムは気密、水密構造になっている。ガスや湧き水に影響されないようにである。
外装には軽銀が使われたり、耐食性のあるめっきが施されるなどして対策されている……はずだった。
〔ならば、止まったとすれば別の要因があるはずだ〕
〔それを突き止めねばな〕
そして2体はさらに慎重に階段を下っていく。
『A』が先行し、3メートル開けて『B』が続く、というポジション取りだ。これなら、『A』に何かあっても『B』は退避する余裕があるだろうというわけだ。
下へ、下へ。
転移魔法陣が設置されていたフロアから、50メートルは下ったころ。
〔……硫化水素が増えてきたな〕
〔うむ。だが、これが異常の直接の原因とは思えない〕
濃度は、人体にすぐさま影響があるほどではない。
が、それよりも、こうしたガスが浄化されずに漂っていることのほうが問題である。
〔下層の空調は機能していないのだろうか?〕
〔それしか考えられん〕
だが、既に人間はいないわけで、少々のガスのせいで基地の機能が停止するはずはないのだ。
〔まだ何かあるはずだ〕
〔それを見つけねばな〕
〔うむ〕
さらに2体は非常階段を下り、最下層に辿り着いた。
〔この階層に、おそらく『統括管理魔導頭脳』があるはずだ〕
〔うむ。……ガスの濃度は……まだ許容範囲か〕
硫化水素は、ごくごく薄い場合は卵の腐ったような臭い……腐卵臭……がする。
空気より重く、水に溶けやすい。
濡らしたハンカチで鼻と口をふさぐことで短時間なら影響を弱めることができる(一番は近づかないこと)。
それはさておき、『統括管理魔導頭脳』のある階層には、『エーテル発光体』のみが灯っていた。
〔……この荒れようは……〕
〔何かが暴れたのか?〕
そのフロアは、壁、床、天井が傷だらけであった。
だが、何かの破片のようなものは見つからない。
〔ゴーレム同士の戦いがあったのではないかと思ったのだがな〕
〔……だとしたら、後片付けを行ったということになる〕
謎が解けるどころか一層深まってしまった。
そして、周囲を観察しつつ進む2体はついに『統括管理魔導頭脳』のあるはずの部屋に辿り着く。
ここで2体は離れていた距離を詰め、扉とその周辺を調査する。
〔ここがそうだと思う〕
〔で、あろうな〕
『第2世代』が好む様式の扉である。
だが、その扉も傷ついていた。
〔ロックはされていないな〕
〔うむ〕
『A』が扉を開け、『B』が中を覗き……驚いた声を上げる。
〔これは!〕
〔どうした、『B』?〕
〔『A』、見てみろ〕
『B』に言われ、『A』も部屋の中を覗いた。
〔こ、これは……!〕
そこには、俄には信じがたい光景が広がっていたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201016 修正
(旧)
そして、周囲を観察しつつ進む2体はついに『統括管理魔導頭脳』のあるはずの部屋に辿り着く。
(新)
そして、周囲を観察しつつ進む2体はついに『統括管理魔導頭脳』のあるはずの部屋に辿り着く。
ここで2体は離れていた距離を詰め、扉とその周辺を調査する。
(旧)扉を開けて中を覗いた『B』は、驚いた声を上げる。
(新)『A』が扉を開け、『B』が中を覗き……驚いた声を上げる。




