73-17 見せかけの平穏ではなく、真の安定化に向けて
とりあえず『オエステ2』内の秩序は回復されたわけだが、まだ問題は山のように残っている。
まずは動かなくなったゴーレムの再起動と再配置。
これは『守護用魔導頭脳』である『プローテ』に任せればいい。
大変なのは、『統括管理魔導頭脳』に辿り着くまでに礼子が破壊したゴーレムの修理だ。
「100から先は細かく数えておりませんが、200体は超えているのではないかと」
「そうか……『職人』を呼ぶか」
「お手数掛けます、ジン様」
「いや、マリッカが謝ることじゃないさ」
今の時点で仁DとマリッカDを操縦しているのは老君なので、完全な一人芝居である……が、それを指摘する者はいない。……これは余談。
仁DはマリッカDを通じて、『オエステ2』内に『職人』10体を呼ぶ許可をもらい、即実行する。
「よし、ゴーレムの修理を行うぞ」
「わかりました」
仁Dは礼子と、10体の『職人』は2体1組で行動開始だ。
窒素が充満している場所でも、全員まったく問題ではない。
* * *
蓬莱島では既に日付が変わり、11月8日となっていた。時刻は午前7時。
「老君、どんな具合だ?」
起きてきた仁は、老君に状況を確認した。
『はい、御主人様。順調です。…………』
「……なるほど、これから修理か。なら、仁Dの操縦を代わろう」
『お願いいたします』
仁Dの操縦を代わった仁は、まず魔法陣を確認しようとして……溜息をついた。
礼子が倒したゴーレムが入り乱れており、ほとんど床が見えていなかったからである。
「修理だ、修理」
仁Dはかなり本気を出し、ゴーレムを修理していく。
その速度、およそ1分で2体。
「これなら楽だな」
「おそれいります」
礼子が倒したゴーレムのほとんどは、手足や魔導神経線を切断されるなど、修理しやすいものが多かったのだ。
『桃花』による切り口もきれいなので、接続は容易い。
それでも200体近いゴーレムは、仁D、礼子、そして『職人』4体で取り掛かって1時間近い時間が掛かってしまった。
が、その甲斐あって、床に描かれた魔法陣がすっきりと見えるようになったのである。
「なるほど、こいつが『オエステ1』へ行く転移魔法陣か。……一方通行なんだな」
『オエステ1』にある魔法陣は1つなので、送り出す時はいいが、その逆の場合、2つあるどちらへ転移するかで不具合が生じるだろうからだ。
そして、当然のように他にも魔法陣が刻まれている。
「どれどれ……ええと、これは地上へ出るものか。こっちは……ん? ああ、『オエステ3』へ行けるのか!」
これはいい発見であった。
いざとなれば、この転移魔法陣を使って『オエステ3』へ行けるわけで、探す手間が省けたわけである。
「あと、こいつは……基地内の移動か。ゴーレム倉庫と行き来するためのものだな。それが4つか」
それで全部である。
仁Dは、この場所に関しては『職人』たちに任せることにした。
「さて、それじゃあ墓所へ行くか」
「はい」
礼子が気にしていた場所である。
仁Dは礼子の先導で通路を行く。
そしてその場所に到着。
「ここか……」
「はい」
まずは破壊したゴーレムの修理からだ。
4体の4本腕ゴーレムが横たわっている。
「こいつは、自律タイプだな……」
なので、直った途端に襲ってくることも考えられる。
「直すだけ直して、起動は遠隔操作にするか」
「はい」
仁Dと礼子は、15分ほど掛けて4体の4本腕ゴーレムを修理した。
ほとんどが『切断』による破壊だったので、修理は容易だった。
「これでよし。あとは、遠隔操作で起動できるようにしよう」
起動命令を、使い捨ての魔導具で再現するのだ。
命令を出して2秒後に崩壊するように設定しておくことで、再起動時に襲われることを防げる。
素材は蓬莱島から送ってもらった。
制作に要した時間は5分足らず。
その後、『白い扉』を開け、仁Dと礼子は墓所に立ち寄った。
「……お騒がせしました。ですが、基地のトラブルは直しましたのでご安心を」
「……いろいろお騒がせしました」
仁Dと礼子は墓標に手を合わせたあと、室内を見回し、チリ・ホコリが落ちていないことを確認。
その時、仁Dは、とあるものを見つけた。
墓碑の一番下に刻まれた文字である。
『始祖』が使っていた古代文字だ。今は『仁ファミリー』も全員読めるようになっている。
「……我ら、肉体は滅びるとも、精神は不滅なり……か……」
墓碑にふさわしい碑文のようでもあり、何か意味があるようでもある。仁Dの目を通し、ちょっと気になった仁であった。
その他には気付いたこともなく、仁Dと礼子はそっと部屋を出、扉を閉めたのだった。
そして仁Dと礼子が『ルゥカー』のある部屋に戻ったときには、基地内のゴーレムも全て修理を終えていた。
もちろん、閉じ込められていた『セルウス』はとっくに『オエステ1』に戻っている。
これで『オエステ2』内は完全に秩序が戻ったわけだ。
* * *
だが、蓬莱島にいる仁としてはまだなんとなくすっきりしていない。
それは、2つの魔導頭脳『プローテ』と『ルゥカー』に関してである。
この2つの魔導頭脳は、おそらく『第2世代』の『始祖』が作ったもので、一部その思考様式を受け継いでいる。
つまり、感情に支配されれば再度暴走する可能性があるのだ。
かといって魔導頭脳を破壊するというような短絡的なことはしたくない。
その情報バンクに蓄えられたデータは貴重である。
そこで仁は老君に相談する。
「老君、どうするのがいいかな?」
『はい、御主人様。……マリッカさんに協力してもらい、『オエステ1』の『モースク』のように、新規に建造して置き換えるのが最もよいかと思います』
「やっぱりそれか……」
『マリッカDの口から、『オエステ1』の『モースク』が新造されたと伝え、実際に確認させればよろしいかと』
「わかった。それでいこう」
* * *
その話を受け、『オエステ2』ではマリッカDが『統括管理魔導頭脳』である『ルゥカー』に話し掛けていた。
「『ルゥカー』、『オエステ1』の『モースク』は、こちらのジン様に、新たに建造してもらったのですよ」
『なんと!』
「その結果、元の数倍の性能になっています」
『それは凄いですな』
「確認してご覧なさい」
『そうですね』
そして『ルゥカー』は、『モースク』と連絡をとったようだ。
数分後、
『……マリッカ様。ジン殿に、私の新造を依頼していただけますか?』
とのセリフが飛び出してきたのだった。
『オエステ1』の『モースク』のことを言えば、『ルゥカー』も負けじと新造を依頼してくるだろうと老君が言ったとおりであった。
「わかりました。すぐに頼んでみます」
こうして、『オエステ2』の無害化への第1歩が踏み出されたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201014 修正
(誤)仁Dを目を通し、ちょっと気になった仁であった。
(正)仁Dの目を通し、ちょっと気になった仁であった。
20211108 修正
(誤)仁Dと礼子はそっと部屋を出、扉を締めたのだった。
(正)仁Dと礼子はそっと部屋を出、扉を閉めたのだった。




