73-16 仁Dたちはオエステ2を正常化しようと尽力する
マリッカDが、『認証鍵』を唱え、『統括管理魔導頭脳』を再起動する。
「『フォーメルスヴォート』『起動せよ』」
「さて、どうだ?」
正規の手順を踏んで停止させたわけではないので、一抹の不安があったが……。
『む……いったい私は?』
とりあえず問題なく『統括管理魔導頭脳』は再起動を果たしたのである。
「『統括管理魔導頭脳』、調子はどうだ?」
『……貴様は誰だ?』
「俺はジンという。技術者だ。過熱していたので強制停止させて故障した部分を直してやったんだぞ」
『なんと、そうであったか。礼を言おう。……して、そちらの方は?』
後の言葉はマリッカDに対するものだった。
「私はマリッカといいましゅ……す」
老君はマリッカの噛み癖までも再現していた。
『おお、あなたが『オエステ1』の主人となったという!』
「そうです」
『これはこれは、ようこそ『オエステ2』へ。……私の『主人』になっていただけるのですか?』
「あなたが望むなら」
『そうですか! 是非、是非!』
「わかりました。……あなたのことはなんと呼べばいいですか?」
『私のことは『ルゥカー』とお呼びください』
やはりここ『オエステ2』の『統括管理魔導頭脳』も、己の名を持っていた。
もしかすると『第2世代』が作った魔導頭脳の特徴なのかもしれない、と仁は思ったのである。
マリッカDはまずはその名前を受け入れつつ、改造の必要性を説いていく。
第1に修理の提案だ。
「『ルゥカー』ですね。わかりました。では『ルゥカー』、あなたの修理をしたいのですが」
『私の、修理、ですか?』
「そうです。技術者であるジン様によれば、かなりあちらこちらが劣化しているようですから」
『確かにそうかも知れません』
そしてここでさらに、
「加えて、あなたが無限ループに陥るなどの不具合が起きないよう安全装置をつけてもらうのがいいと考えます。そうしないと、私とのコミュニケーションが取りづらいでしょうから」
と付け加える。
老君の判断では、『ルゥカー』が多少なりとも論理的に判断できるなら、この提案は受け入れるはずなのだ。
そしてそれは当たっていた。
『わかりました。確かにマリッカ様とのやり取りができなくなることがあるかもしれないというのは困りものです。……ジン殿、貴殿に可能なのなら、頼むとしよう』
「そうか。……俺の腕前については『プローテ』に聞いてみてくれ」
『うむ? 『プローテ』だと?』
「『守備用魔導頭脳』のことだ。そちらも不具合を生じていたが、俺が直した」
『そうだったか。………………うむ、確認した。確かに貴殿はその技術を持っているようだ。では改造を頼むとしよう』
こうして、ようやく『オエステ2』の『統括管理魔導頭脳』を正常化できることとなった。
仁Dは礼子とマリッカDを助手に、改造に取り掛かった。
まずはマリッカDが『認証鍵』を唱え、『ルゥカー』を一旦停止させる。
次いで外装を取り外し、改造に取り掛かるわけだ。
一度行っているので、作業はさらに手際よく勧めることができる。
〈…………〉
「……見事なものだ、な」
そばで見ている『B』と案内役のゴーレムは呆れるやら感心するやら。
仁Dはそんな外野の思惑など知らぬげに、てきぱきと作業を進めていく。
「一旦、こっちの魔結晶にシステム全体をバックアップする。そうしたら『基礎制御魔導式』に手を加えよう」
これが今回の改造の肝である。
要するに、コンピューターのOSのデバッグとバージョンアップを同時に行ってしまうようなものだ。
それならバージョンアップだけで済みそうなものだが、『基礎制御魔導式』の場合はコンピューターのOSが幾つも使われているようなものなので、一部はデバッグを、また別の部分はバージョンアップを、というような直し方をするのである。
「『消去』『書き込み』」
「……ここも直したほうがいいみたいです、ジン様」
「わかった。どれどれ。……『読み出し』……うん、ならば『上書き』……」
「こちらはわたくしが『消去』しておきました」
「お、助かる。……『書き込み』」
礼子とマリッカDの下準備、仁Dの最終処理、ということで作業はスムーズに進んだ。
自己チェック機能を追加し、無限ループ対策にはタイムアウトエラーを出すように設定した。
感情を参考に、より論理的な結論を出せるようなルーチンを新たに付け加える。
「よし、これで最後だ。『書き込み』……完了」
「お疲れ様でしゅ」
マリッカDは仁Dを労い、礼子は最終チェックを行う。
「チェックはわたくしにお任せください。……『分析』『追跡』『精査』……大丈夫です、問題はありません」
「そうか。……マリッカ、再起動してくれ」
「はい。……『フォーメルスヴォート』『起動せよ』」
『終わったのですか、マリッカ様』
『ルゥカー』が目覚めた。
「終わりましたよ。……自己チェック機能も追加しましたので使ってみてください」
『はい、確かにそういう機能がございますね。では早速。………………はい、問題ございません』
「そうですか、それはよかったです」
ここに、『オエステ2』の脅威は去ったといえる。
『ジン殿、感謝します。これで私は、マリッカ様にお仕えする資格を得られたでしょう』
仁Dへの態度を見ても、これまでとは違うことがわかる。
ここで、仁Dは懸念事項を尋ねてみることにした。
「『ルゥカー』、君は『メメンタス』を知っているか?」
『メメンタスですか? ……聞いたことがあるような気はしますが、情報バンクにはないですね』
「そうか……」
もしかしたら破損した部分に記録されていたのかもしれないと、仁Dは少し残念に思っていた。
「……わたくしからもよろしいですか?」
珍しく礼子が発言の許可を求めてきた。
当然、仁DはOKを出す。
「……わたくしが訪れた部屋の1つに、『白い』部屋があり、墓碑が並んでいました。……なぜ、あそこをああいう風に扱うのですか?」
『ああいう風に』というのは、『統括管理魔導頭脳』へ続く道のダミーとして扱っている、という意味だ。
そして『ルゥカー』は仁Dのおかげで、その質問の意図をきちんと察することができるようになっていた。
『……なるほど、レーコ殿の言わんとすることは理解した。誠に面目ないことだ』
そして、その扱いを反省することもできるようになっていた。
『今後は敬意をもって扱おうと思う』
「そうしてください。そして、わたくしが壊してしまったゴーレムも、できれば修理を……」
「それは、俺がやろう。……その場所を教えてくれ」
『わかった。ジン殿、お願いする』
「その後は他のゴーレムも修理だな……」
とにかくこうして『オエステ2』内の秩序は回復されたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201013 修正
(誤)「そうだ。そちらも不具合を生じていたが、俺が直した」
(正)「『守備用魔導頭脳』のことだ。そちらも不具合を生じていたが、俺が直した」




