73-12 辿り着きし、その場所は
その部屋に礼子が足を踏み入れると、怒号が響き渡った。
『く、来るな! 来るなああああああああ!!』
眉をひそめる礼子。
「……あれが?」
目の前にあったのは、魔導頭脳には違いないが、『オエステ1』の『モースク』とは大きく異なる外見をしていた。
それは円柱状だったのである。
「……潜水艦基地……『アゲート』や『クォーツ』に、似ている?」
それは、製作者の系統が近いことを意味している。
そして、もう1つ……。
「あなたは、『統括管理魔導頭脳』ではないのですか?」
この言葉は、混乱し、暴走した魔導頭脳をわずかながら正気に戻した。
『な……何? ……どういう……そうだ。私はこの基地の『守備用魔導頭脳』である』
「守備用……つまり、ゴーレムに指示を出しているのはあなたということですね」
『そうだ。……も、もしや、私を破壊してゴーレムを止めようというのか!? や、やめろ! やめてくれえええ!!』
「……」
礼子驚き呆れるとともに、少しだけ感心していた。
非常に感情豊かな魔導頭脳である、と。
いや、そのせいで今、混乱の極みにあるので、魔導頭脳にとっては感情が豊かであることが必ずしもいいことではないのだが。
「ゴーレムを止めてくれるなら、破壊しませんよ?」
試しにそう言ってみる礼子。
果たして、『守備用魔導頭脳』の反応は劇的だった。
『何!? 本当か? 騙すのではないだろうな?』
「……あなた方じゃあるまいし。そもそもわたくしがこの基地にやって来たのは『オエステ1』への侵攻を止めるためですよ?」
『ぐ、む……わかった。ゴーレムを停止させる』
礼子は『アンテナ線』を敷設しながらここまで来ているので、『内蔵魔素通信機』による通信は繋がっている。
なのですぐに老君から連絡が入った。
『礼子さん、『オエステ1』内のゴーレムは全て停止しました』
実際は、全てのゴーレムは『ガルディ』によって行動不能にされていたのだが、それが停止した、ということである。
「……ゴーレムは止まったようですね」
『こ、これで、私を破壊することはやめてくれるか?』
「いいでしょう。当分再起動はさせないでくださいね?」
『わかった』
約束どおり礼子が何もしないようなので、『守備用魔導頭脳』も少し落ち着いてきたようだ。
「1つ、確認したいことがあります」
『な、何だ?』
だが、礼子が声を掛けると、明らかに動揺している。人間でいったら臆病だと言われるだろう。
『守備用』なのに、と礼子は思うが、『攻撃』ではなく『守備』なら臆病な方がいいのかもしれない、と思い直す。
それはそれとして、確認しなければならないこととは。
「この基地の『統括管理魔導頭脳』が暴走している、と聞いたのですが、事実ですか?」
『む……そうだ。事実だ』
「やはり。……直せないのですか?」
『修理用のユニットごと暴走している。自然に停止するのを待つしかないな』
「自然に停止? それって、システムダウンなのでは?」
『……そのとおりだ。だが致し方なかろう? 我らには他に手はないのだから』
その結論を聞き、呆れるしかない。礼子も、老君も、そして蓬莱島にいる『仁ファミリー』も。
* * *
『御主人様、お聞きになりましたか?』
「ああ、老君。……どうしてああいう結論に行き着くんだ?」
さすがの仁も、『守備用魔導頭脳』が出した結論が論理的ではないので、その原因を推測することができなかった。
「老君ならわかるか?」
『いえ、御主人様。私も、推測するだけになってしまいますが』
老君といえども、論理的ではない魔導頭脳については理解が及ばないようである。
「それでもいいから、聞かせてくれ」
『わかりました。……『守備用魔導頭脳』の目的は、基地の防衛です』
「ちょっと待て。『オエステ1』にゴーレムを侵攻させたのもあいつなんだろう? なのに守備用だって?」
『はい、御主人様。……御主人様の世界には『攻撃は最大の防御』という言葉がございますね』
「……ああ、そういうことか」
『はい。守るための攻撃、ということです』
「わかった。続けてくれ」
『はい、御主人様。……『守備用魔導頭脳』が目指すのはあくまでも『基地の防衛』であって『統括管理魔導頭脳』の守護ではないのです』
つまり、基地が無事であるなら、統括管理魔導頭脳がシステムダウンしても構わない、というスタンスなのではないか、と老君は推測したわけだ。
「うーん、なるほど……」
『付け加えますなら、『統括管理魔導頭脳』と『守備用魔導頭脳』は製作者が違います。ですのであまり互いを尊重していないのでしょう』
「ああ、なるほど」
礼子の視覚情報も受信しているので、『守備用魔導頭脳』が球形でないこと、『アゲート基地』の『統括管理魔導頭脳アゲート』に似ていることもわかっている。
「『守備用魔導頭脳』は『第1世代』の『始祖』が作ったものであり、『第2世代』が作った『統括管理魔導頭脳』のことをそれほど重視してはいない、ということか」
『はい、御主人様。そういうことです』
老君の推測が正しいとしたら、なぜ『A』と『B』はセルウスを騙したのだろうか、と仁は疑問に思った。
そのことも老君に尋ねると、
『はい、御主人様。『A』と『B』は『守備用魔導頭脳』とは無関係に自律行動をしているからではないでしょうか』
との答えが返ってきた。
「……そういう風にも言えるか……」
それならば、この先の行動は、少し修正したほうがいいのではないかと仁は思った。
『はい、御主人様の仰るとおりです』
「なら、まずは『守備用魔導頭脳』を修理してからその後の方針を決めるのがいいか?」
『悪くありませんね』
「だよな? ……ああ、それに『オエステ1』は情勢が落ち着いたんだな?」
『はい、御主人様。礼子さんの活躍で、攻め込んだゴーレムは全て停止しております』
それなら猶予期間ができたから、順に制圧していけばよさそうだ、と仁は判断。
まず『守備用魔導頭脳』を正常に戻すところから始めることにしたのである。
* * *
「……あなたは、自分が正常でないことを自覚していますか?」
仁からの指示を受けた礼子は、『守備用魔導頭脳』に尋ねてみた。
『む? ……うむ。少々機能低下が見られるな』
「なら、この際、修理してみませんか?」
『何?』
「今、この基地内に、あなたを……いえ、『統括管理魔導頭脳』をも修理できる方が来ております」
『なんだと? それは、『統括管理魔導頭脳』が欲しがった人物か?』
「そうです」
『ううむ……』
『守備用魔導頭脳』は考え込んでしまった。礼子はさらに畳み掛ける。
「わたくしがその気になれば、あなたを強制的に停止させて修理・改造することもできます。それをしないのですから、少しは信用してくれてもいいのでは?」
『……う、うむ。わかった。その方を連れてきてくれ』
「わかりました。つきましては、『魔法障壁』を解除しておいてください」
「承知した」
礼子は蓬莱島へその旨を連絡した。
こうして少し、事態が動いたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201009 修正
(誤)『統括管理魔導頭脳』のことをそれほど重視していはいない、ということか」
(正)『統括管理魔導頭脳』のことをそれほど重視してはいない、ということか」
20201015 修正
(旧)73-12 ようやく辿り着いた、その場所は
(新)73-12 辿り着きし、その場所は
サブタイトルが 73-06 と似すぎているので直します




