73-10 戦う彼女は疾風のごとく
少しだけ時間は戻って、礼子が正しい道を模索し、4本腕のゴーレムと戦っていた頃。
『オエステ1』内の転移魔法陣から、2体の戦闘用ゴーレムが現れた。
その2体は転移魔法陣を守るように立つ。すぐにまた2体が転移してくる。
『モースク』が気が付いたのはこのとき。
『緊急事態発生。緊急事態発生。事前通告なしに『オエステ2』よりゴーレム来襲。転移魔法陣室を封鎖の必要あり』
『モースク』が基地全体に通達したが、そのときには、次々に4本腕の戦闘用ゴーレムが転移してきており、計22体が転移魔法陣室にひしめいていた。
そしておよそ30秒に2体ずつ増えていくのである。
「マリッカ、『ガルディ』を向かわせたほうがいい。そして『テクト』は『モースク』の警護だ」
「は、はい」
マリッカDは仁の助言に従い、『モースク』に指示を出した。
『わかりました、マリッカ様』
この僅かなタイムラグで、侵攻してきたゴーレムの数は50を超えた。
「このままだと向こうの戦力がどんどん増えるぞ。一旦魔法陣を止めないと」
「ど、どうやるんでしゅか?」
「……この際だから贅沢は言っていられない。老君に『魔力爆弾』を魔法陣上に転送してもらおう」
かなりの力技だが、今回は致し方ない。
仁は、この騒動が終わり、転移魔法陣を修復する前に、安全装置を取り付けようと決心した。
だが今は、『オエステ1』の防衛戦である。
* * *
「うーん……やっぱりやって来たか。……マリッカの奪取かな?」
「くふ、多分技術者としてジンも狙われているよ?」
蓬莱島では、連絡を受けた仁たち『仁ファミリー』が食堂に集まっていた。
「子供並みだな。欲しいものがあるから奪ってきて独り占めしたい、っていう感情に近いんじゃないか?」
ラインハルトが呆れがちに言う。
「ああ、なんとなくわかる。感情の制御ができていないという意味ではそうなのかもな」
仁もその意見に同意した。
「くふ、だけど、それがわかっても厄介なのは変わりないよね」
「いや、論理的な説得は無駄、ってわかっているだけでも多少違うぞ」
サキとグースが意見を述べる。それを聞いたマーサが、珍しく意見を述べた。
「……あたしなんかが口出しするのはどうかと思うんだけどね。サキちゃんとグースくんの意見を聞いて思ったことがあるんだよ」
「伺いましょう」
「子供みたい、ということなら、一度ガツンとやって躾けないと駄目だろうと思うのさ」
マーサの意見は、仁にも理解できるものであった。
ガツンと、というのは別に暴力に訴えるわけではない。
対象に対し、悪いことは悪いのだと、十分に納得できるよう、きっちりとわからせることだ。
「……この場合、力に訴える者は力に負けることを思い知らせるべきじゃないかねえ」
溜息をつきながらマーサがまとめた。
「やっぱりそうですか……」
「と、なると、まずは攻め込んできたゴーレムを片付けて、そのあと逆に侵攻することになるわけだ」
ルイスが作戦とも言えないような方針を口にした。
「それもそうだが、今は礼子が『管理魔導頭脳』を目指しているはずなんだよな」
「ああ、そうだったね。どのくらい進んでいるんだろう?」
ルイスにも言われ、仁も気になったので老君に確認すると、
『はい御主人様。今現在礼子さんは、ついに正しいルートを見つけ、たどり始めたところのようです』
との答えが返ってきた。
「そうか……それじゃあ、『オエステ2』は礼子に任せるかな。老君、礼子に状況だけは伝えておいてくれ」
『承りました』
* * *
『オエステ1』が4本腕ゴーレムに襲撃されている、という事実を聞いた礼子は、進行速度を上げることにした。
「ルートはこちらでいいはずですが……」
しかし、この時点で1つ、大きな疑問ができてしまった。
それは、『オエステ1』を襲っているゴーレムたちは、どこから転移したのだろうか、ということ。
「おそらく、送り出し側がもう1つあるんでしょうね」
魔法陣の場合、魔法式の記述内容を精妙に一致させればよいわけだから、転移門で同じことをするよりは簡単だ。
そんなことを考えていた礼子であるが、偶然のなせるわざか、辿り着いたホールに、今しも転移しようとするゴーレムがおり、当然その足元には転移魔法陣が刻まれていた。
そして、集まっているゴーレム、およそ200体。
「これは幸運でした」
が、よくよく考えてみれば、これまで礼子が巡ってきた基地内に転移魔法陣はなかったのであるから、このルートに存在する可能性は高かったわけだ。
また、このルートが管理魔導頭脳に続くものであるなら、このゴーレムの多さも納得である。
「まずは転移魔法陣を壊します!」
礼子に気付き、排除するために迫ってくるゴーレム。
その攻撃をかわした礼子は、むんずと足を掴み、魔法陣へ向けて投げ飛ばした。
投げられたゴーレムは、転移しようとしていたゴーレム2体に激突。魔法陣の上は半壊したゴーレムで塞がり、その衝撃で魔法陣の一部が損傷。機能を停止した。
「これで『オエステ1』には行けないでしょう」
礼子はメイスを構え、突っ込んでくるゴーレム軍団を迎え撃った。
ホールは十分に広いので、礼子も縦横無尽に動き回りながら対応できる。
10倍近い体重差をものともせずに暴れまくる礼子。
速度は圧倒的に礼子が上だ。その差もやはり10倍。
だがこの10倍は大きかった。
4本腕のゴーレムを翻弄しつつ、動作不能にしていく礼子。
最初のうちはメイスで急所の腹部上を突き壊していたが、10体を越えた頃から柄が曲がってしまったので、メイスは諦めて『桃花』に切り替えた。
その一突きで上半身と下半身を繋ぐ魔導神経線は断ち切られ、行動不能となる。
時折発射される『強制停止弾』も、礼子には全く効果がない。
『単分子ブレード』も、『桃花』の前には竹光と同じ。
200体近いゴーレムも、礼子の活躍により、30分後には全て行動不能となっていたのだった。
「少々時間が掛かりましたね……」
地下基地内なので、天井が崩壊しないよう注意しながら戦った結果である。
それでも1体あたり10秒程度で倒しているのだから、その凄まじさがわかろうというもの。
「でも、これで管理魔導頭脳も少しは目が覚めたのではないでしょうか」
今回、礼子は『強制停止弾強制作動装置』を使わなかった。
それは、『力を見せる』という目的において、わかりやすい方法を採ったためである。
「このホールを抜ければ、管理魔導頭脳にまた一歩近付けるはずですね」
『桃花』を鞘に戻した礼子は、動かなくなったゴーレムを背に、ホール出口を目指したのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201007 修正
(誤)辿り着いたホールに、今しも転移しようとするゴーレムが折り、
(正)辿り着いたホールに、今しも転移しようとするゴーレムがおり、
20201222 修正
(誤)だが今は、『オエステ2』の防衛戦である。
(正)だが今は、『オエステ1』の防衛戦である。




