73-08 正しき道はいずこにありや
礼子の愛刀『桃花』は世界……いや、宇宙でも最強クラスの金属、『ハイパーアダマンタイト』でできている。
礼子の膂力と相まって、鋼鉄製の壁もバターのように切り裂かれた。
「やはり」
切り裂かれた壁の向こう側には、空洞……いや、通路があったのである。
『エーテル発光体』により薄明るく照らされた通路は、真っ直ぐ奥へと続いており、礼子は躊躇わずに足を踏み入れたのである。
早足で進んでいく礼子。
「……ここは違うようですね……」
そう判断した理由は、『魔法障壁』が張られていないこと。
管理魔導頭脳の周囲には『魔法障壁』が張られているはずなのだ。
そして辿り着いた先の部屋には、故障したゴーレムが数十体放置されていたのみ。
「不用品置き場、とでもいいましょうか」
ここには用はないと、礼子は急ぎ引き返したのだった。
* * *
元の通路に戻り、先を目指す礼子。
次なるポイントは十字路である。
真っ直ぐ進めば、『セルウス』が『A』『B』と来た道。
左右は未知の場所へ続くはずである。
「どちらでも同じでしょうけれど、まずは右へ」
礼子は十字路を右へ曲がった。
すぐ行き止まりになる。正面には扉が1つ。
「ロックされてはいないようですね」
その1点だけでも、管理魔導頭脳に続くルートではない可能性が高かったが、とりあえず扉を開いてみる礼子。
「ここは資材倉庫のようですね」
鉄、銅、軽銀などのインゴットが置かれている部屋であった。
その奥にも扉があるので開いてみると、そこは魔結晶が置かれていた。
「こちらではなさそうです」
来た道を戻る礼子。
十字路をそのまま直進すれば、もう1つのルートである。
今度は少し進むと、通路はなだらかな下りになる。
「こちらも違う可能性が高いですね……」
ここにも『魔法障壁』が張られていないのだ。
わざとそういうミスリードをしている可能性がなきにしもあらず、だが、老君は、『異常をきたした魔導頭脳が、そんな虚実を使い分ける可能性は極めて低い』と判断し、仁や『長老』ターレスも賛成していた。
同様の理由で、違うルートに罠を張っているということもないだろう、とも。
『A』と『B』は、自律型ゆえに自らの判断で『セルウス』を嵌めたのである。
「また扉ですね」
礼子の行く手を阻んだのは、丈夫そうな鋼鉄の扉。防火壁と呼んでもいいような、無骨なものだった。
「……一応、この先にあるものを確認しておきますか」
『内蔵覗き見望遠鏡』を作動させる礼子だったが、意に反して扉の先を見通すことはできなかった。
「……これは、ミスリルを使った魔力の遮蔽構造がありますね……何か重要なものを守っているのかもしれませんね」
少しだけ興味が出た礼子は、その扉を開けてみることにした。
手回し式のロック機構は、簡単に回すことができた。
「施錠はされていませんね」
扉の重厚さとは裏腹に、あっさりと開いた。
……開いたのは扉そのものではなく、『潜り戸』と言えるような、人一人がやっと通り抜けられる程度の出入り口だが。
礼子の身長なら、屈まなくても通り抜けられる。
「……酸素が、ない?」
そしてその向こうには風属性……『空気を遮断する』ような結界があって、窒素が充満していた。
礼子はこれが罠かとも思ったが、周囲の様子を見て、そうではなく結界内部の何かを保護するためらしいと判断した。
そもそも、少なくとも1000年以上は無人の基地だったであろうから、人間への配慮はなされなくなって当然である。
「真空ではなく窒素にしているのは、気圧差を均すのが面倒だからでしょうね」
扉を全てエアロックにしなければならず、それは製作も設置も運用も面倒である。
その点、窒素充填であれば、風属性の障壁系で十分なのだ。
「そうまでして、保存しているものとは……やはり、警備がいますね」
行く手の曲がり角から、2体の4本腕ゴーレムが姿を現したのである。
「ええと、害意はありませんから、お通しくださいませんか?」
念のため、そんな言葉を掛けてみる礼子。
だが2体は無言のまま近づいてくる。発声機構がないのか、あるいは問答無用ということなのか。
「お見逃し……はしてくれそうにありませんね」
4本腕の1本に、礼子の持つものの倍はありそうなメイスが握られている。
それを振りかぶりながら、2体は襲いかかってきた。
「不法侵入は認めますが、事情聴取も弁明も聞かずにこれはちょっと行き過ぎでは?」
メイスの攻撃を身軽にかわした礼子がそう言っても、2体のゴーレムは聞く耳を持たないようで、再度の攻撃を仕掛けてきた。
「仕方ありませんね。降りかかる火の粉を払わせていただきます」
礼子は手にしたメイスで、敵のメイスを受けた。
どちらも破壊されず、鈍い音を立てて弾かれあう。
「なかなか丈夫なメイスですね」
礼子が使っているものは、アダマンタイトではないものの、仁が極限まで強度を上げた鋼鉄。
その強度はアダマンタイトに迫る。
そして4本腕ゴーレムの使ったメイスはアダマンタイトが一部に使われていたようで、トータルで見て互角だった。
だが、そこからの対応が違う。
4本腕ゴーレムは、確かに警備用に開発されたかもしれないが、その基準は争いごとの嫌いな『始祖』である。
かたや礼子は、仁の傍にあって、無数の戦闘を経験してきている。
この差は大きかった。……大きすぎた。
跳ね返ったメイスを、反動に逆らわずぐるりと回した礼子は、斜め下から突き上げるようにして4本腕ゴーレムを攻撃したのである。
その一撃は胸部装甲を貫いた。
4本腕ゴーレムの急所は胸部。もっとも装甲の厚い部分である。
そこに制御核をはじめとする重要機器が集中しているのだ。
そして、礼子が貫いたのはいわゆるみぞおち部分。腰回りに可動性を持たせるための継ぎ目があり、装甲はやや薄い。
その奥に重要な機器はないが、下半身に命令を伝える魔導神経線が通っている。
礼子のメイスはその魔導神経線を断ち切ったのである。
もんどり打って倒れるゴーレム。
下半身が言うことを聞かなくなってしまっては、こうならざるを得ない。
だが、残る1体は礼子を危険度大と判断したようだ。
礼子対警備ゴーレム、その第2ラウンドが始まる。
いつもお読みいただきありがとうございます。




