73-07 最強戦力、参戦せり
爆発物処理用の部屋に閉じ込められた『セルウス』は、少しも慌てることはなかった。
『これで私を閉じ込めたつもりなのか』
どうにかする手立ては幾つもあった。
幸いにして、この基地内には『魔法障壁』は張られていないから、蓬莱島との通信は自由にできる。
つまり仁をはじめとする『仁ファミリー』や老君はこの事態を既に知っているということである。
また、『セルウス』には非常用の転送装置もあるので、短距離の転移で地上に出ることも可能だ。
もっとも、ようやくここまで来たのにまた地上に戻るという無駄なことは極力したくないが。
ここに『セルウス』がいるので、己を『マーカー』として増援を送り込んでもらうこともできる。
これが一番よさそうな案である。
そして当然、蓬莱島の魔導頭脳老君も同じ結論に達していた。
* * *
『残念ですが、『セルウス』に任せられるのはここまでですね』
蓬莱島では老君が結論を出していた。
いかに仁D=仁が高性能化していても、『セルウス』1体で『オエステ2』全体を相手取ることはできない。
時間との兼ね合いもあり、ここは蓬莱島から戦力を投入すべき時であろうと判断した。
「時間……なら、礼子か?」
蓬莱島の最高戦力である。
『それが一番ですね。ですが、問題も1つ』
「それはなんだ?」
『はい、御主人様。実はこのエリアの先には『魔法障壁』が展開されているのです』
「……つまり、『覗き見望遠鏡』で様子を窺えないわけか」
『はい』
「なら……そうだ、その障壁の境界付近にアンテナを通すか」
『魔法障壁』は物理的な障害にはなりえないので、障壁の外と内を、例えばミスリルの線で結べば魔力による通信ができるようになる。
つまり、『覗き見望遠鏡』により観察はできずとも、『魔素通信機』による逐次報告はできるというわけだ。
『はい、御主人様。その方法はいいですね。すぐに準備をいたします』
老君も、仁が提案した方法がかなり有効であると判断し、ミスリル銀製のケーブルの準備に取り掛かった。
通常ミスリル銀は、合金用の金属元素として扱われるか、『魔導神経線』用の極細ワイヤーとして使われるか、あるいはシールドケースに使われるか、の3つが多かった。
加えてめっき用としても少量使われるが、太いケーブルとしては、巨大な魔導機の魔力素供給ケーブルとして使われるくらいだった。
仁は仁で、この事態をできるだけ短期間に取りまとめる方法を考えていた。
そして。
「……なあ老君、『セルウス』が閉じ込められたあの部屋、かなり頑丈だよな?」
『はい、御主人様。驚いたことに、鋼鉄、軽銀、アダマンタイト、鋼鉄、という4層構造になっており、あの基地の中では群を抜いて丈夫にできております』
「そうか、よし。……仁Dと礼子も行こう」
『なるほど、橋頭堡にお使いになるのですね』
さすが老君、仁の意図をすぐに察知した。
「そうだ。そんなに丈夫な部屋なら、立て籠もることができそうだしな。出入り口は工学魔法で塞いでしまえばいい」
『なるほど、御主人様の分身人形が行くなら、礼子さんも連れていけますね』
「だろう?」
基本的に仁の危機的状況でもない限り、礼子が単独で突出することはほとんどない。
とはいえ、仁自身が操縦する『分身人形』である仁Dがいて、その場所を守るためなら、礼子は全力を尽くしてくれるだろう。
そうした前提で、今度の作戦を詰めていく仁と老君。
その間に、一旦仁Dと礼子は『オエステ1』から帰ってくる。
マリッカDは残り、『モースク』との連絡係を務めることになる。
この先、『オエステ2』に関する疑問に即答えてくれるであろう『モースク』との連絡手段は確保しておくべきだろう、という理由からである。
その他、細かな打ち合わせをし、仁は仁Dと礼子を『セルウス』のいる『オエステ2』の『爆発物処理用の部屋』へと送り込んだのである。
* * *
「……お、おお、ジン殿、レーコ殿、ようこそ、と言えばいい……のかな?」
転移門も転移魔法陣もなくいきなり現れた仁Dと礼子を、『セルウス』は驚きながらも迎えた。
専用回線ではなく音声でのやり取りに切り替える。
仁Dも礼子も、音声ではなく通信でのやり取りはできるのだが、それでは仁Dが生身ではないことがバレてしまうので、敢えて音声での会話を行う。
「老君から計画を聞いたか?」
「聞いた。うまくいくのだろうか?」
「大丈夫だ。俺は礼子を全面的に信頼しているからな」
「ううむ……」
計画の大筋は、『オエステ2』の『管理魔導頭脳』のところまで、礼子が道を切り開き、仁Dと『セルウス』が後から乗り込む、というもの。
何があるかわからないので、臨機応変……悪く言えば出たとこ勝負。
なので最も戦闘力が高く、どんな事態にも対応できる礼子が先鋒を務めるのが今回の作戦である。
(作戦とも言えない、稚拙なものだけどな……)
だが、最も戦闘力を有すると言われている『オエステ2』の『管理魔導頭脳』に不具合が生じているという今、時間との戦いになりかねず、力押しもやむを得ないというわけだ。
その礼子は、『モースク』から、管理魔導頭脳がありそうな場所を聞いてきているので、試行錯誤しながら辿り着くことを期待されている。
一緒に送られているのは300メートル巻きのミスリル銀線だ。『地底蜘蛛樹脂』で被覆されているので、少々の衝撃では切れない。
そして礼子の武装。
今回は短時間の踏破が期待されているので、愛用の刀『桃花』を背負い、手には特殊鋼のメイスを持っている。
地下基地内なので、破壊範囲の広い魔法武器は使えない。
「礼子が出たら、出入り口は塞ぐからな」
「わかりました」
打ち合わせは蓬莱島で十分に行っているので、礼子はすぐに出陣する。
「では、行ってきます」
一言残し、礼子は扉をこじ開けた。
ロック機構など意に介さず、力で解錠する。
〔な、何!?〕
〔なんだ、お前は!? どこから入った!?〕
驚く『A』と『B』は無視し、礼子は通路を戻っていく。
『セルウス』が辿った道筋は覚えている。その途中、怪しい分岐が3箇所あったのだが、その1つを目指していく。
「まずはここですね」
最も近くにあったポイント。
分岐には見えないような場所だが、よく見ると不自然な部分がある。
それは、曲面で構成されている壁の一部が平面になっていることと、その真下の床に傷が多く刻まれていること。
「ここに扉があって、ゴーレムが出入りしたために床に傷が付いた可能性……ですね」
礼子は壁を調べていく。
「向こう側に空洞がありますね。……ここは切り開きますか」
メイスを左手に持ち替えた礼子は、右手で背中の『桃花』を抜く。
そして壁に切りつけたのであった。
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本日10月4日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
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20201004 修正
(旧)『はい、御主人様。あろうまいことか、鋼鉄、軽銀、アダマンタイト、鋼鉄、という4層構造になっており、
(新)『はい、御主人様。驚いたことに、鋼鉄、軽銀、アダマンタイト、鋼鉄、という4層構造になっており、
(誤)だが、最も戦闘力を有すると言われている『オエステ2の管理魔導頭脳』
(正)だが、最も戦闘力を有すると言われている『オエステ2』の『管理魔導頭脳』




