73-05 まずは情報収集から始めることに
仁Dは、まずは『オエステ2』の様子を確認するという方向で『モースク』と協議していた。
「『オエステ2』の反応がないということが気に掛かるんだ。だから様子を窺いにゴーレムを派遣したい」
『なるほど、それで『セルウス』を強化したわけですか』
「そういうことです。理解してもらえましたか?」
『もちろんです、マリッカ様』
マリッカの言葉はすぐに受け入れられるが、盲従もしくは狂信に近いので、その点をいずれどうにかしないといけないな、と仁は考えている。
が、今はまず『オエステ2』だ。
「転移魔法陣でこちらから『オエステ2』へ行くことはできますよね?」
『はい、マリッカ様』
借りた整備用ゴーレムを送り返すこともあるから、転移魔法陣は双方向なのだ。
「では、『セルウス』を『オエステ2』に派遣して、様子を調べさせましょう」
『わかりました』
こうして、いよいよ『オエステ2』調査の幕が開いたのである。
* * *
『それでは転送する。無事を祈る、『セルウス』よ』
「行ってくる」
『セルウス』は自律モードで出撃した。
仁Dが性能を向上させた際、蓬莱島でもその行動をモニタリングできるようにしてあるので、『仁ファミリー』は『オエステ2』の様子を見たいがため、全員が食堂に集まっていた。
その見たものは大型魔導投影窓に映し出されている。
「お、視界が切り替わった。転移したな」
「うん。魔法陣は同じだが、部屋が違う。……こっちは赤っぽいな?」
「銅系合金か? オリハルコンかな?」
アルスでいう『オリハルコン』は銅の合金である。
地球では赤みを帯びた金属、という説もあり、それに該当する金属といえば銅であるため、仁が命名した。
正体は魔力付加したベリリウム銅だ。
鋼鉄よりも強度は高く、腐食に強いのが特徴である。
「出迎えかな? 同じような型のゴーレムが2体……いや、これは警備だな」
転移魔法陣を出た『セルウス』の前に、2体の4本腕ゴーレムが立ちはだかったのである。
* * *
〔……『オエステ1』から来たのか?〕
4本腕ゴーレムは、音声ではなく専用の通信回線で話し掛けてきた。
『そうだ』
『セルウス』も同じ回線で返事をする。
〔今頃、何用だ?〕
『管理魔導頭脳と話し合いがしたい』
〔こちらにはそのつもりはないが?〕
『そちらになくてもこっちにはある。……管理魔導頭脳の所へ案内してくれ』
〔だめだ〕
『何ゆえ?』
〔管理魔導頭脳は今、反応しなくなっている〕
『それはまずいのではないのか?』
〔確かにまずいな〕
『では、なんとかしないと!』
〔我らにはそれはできない〕
『なぜ?』
〔我らは許可がない限り、管理魔導頭脳に手を出せないからだ〕
『なるほど。……1つ聞こう。お前たちは自律思考ができるのだな?』
〔現にできている〕
『そんなゴーレムはあと何体いる?』
〔我ら2体くらいだろう〕
ここまで言葉を交わしてみて、状況のまずさに愕然とする『セルウス』。
『お前たち2体だけが、なぜ自律思考できる?』
〔それは我々2体が、旧タイプだからだ〕
『なるほど』
旧タイプは『操縦タイプ』と『自律タイプ』にはっきりと分かれていた。
それがいつしか『共用タイプ』に取って代わられたのである。
だが、『共用タイプ』は、今回のようなケースには使えないという、意外な欠点を抱えていたのである。
それでも、『オエステ2』の事情に通じている仲間がいるといないとでは大違い。
『私に協力してくれないか?』
〔お前に?〕
『そうだ。私は『オエステ1』から、ここが少しおかしくなっているようだと教えられ、様子を見に来たのだ』
〔なるほど。我々は基地内の案内をすればいいのかな?〕
『そうだ。是非頼む』
〔わかった。いいだろう。ただし、くれぐれも破壊行為は慎んでくれ〕
『うむ、わかった』
案内するだけなら、管理魔導頭脳の指示に逆らうことにはならない。
こうして『セルウス』は2体のゴーレムに案内され、管理魔導頭脳のある部屋へと向かった。
『お前たちのことをなんと呼べばいい? 一時的な呼称でいいから、決めておきたい』
〔わかった。それでは、私のことは『A』と呼んでくれ〕
〔私は『B』と呼んでもらおう〕
『わかった。『A』と『B』だな。私のことは『セ』と呼んでくれ』
〔わかった〕
こうして、互いの呼び名が決まった。
迅速な行動が必要な場合、これは重要である。
また、自己と他者を区別するためのツールとして『名前』はシンプルながらも有効である。
そして、こういうミッション時には短いほど呼びやすくなる。
『A』『B』『セ』の3体は転移魔法陣の部屋を出た。
『セルウス』は自律モードでも操縦モードでも『オエステ2』の管理魔導頭脳と相対したことはなかったので、案内は非常に助かっている。
『管理魔導頭脳がおかしくなったのはいつからだ?』
〔そうだな。おおよそ45時間ほど前だ〕
45時間というとおおよそ2日前である。
その頃、『モースク』は仁やマリッカのことを自慢気に話していた頃だ。
『何か管理魔導頭脳には解けない問題にでも直面したかな?』
〔その可能性はある〕
やはり、と『セルウス』は思った。
その『制御核』は仁Dが新調し、デバッグまで行ったもの。
今までよりもより論理思考ができるようになっており、思考速度も向上していた。
『ならば余計に放っておけないな』
〔様子を見るまでなら協力しよう〕
会話から情報を得つつ、『セルウス』とは管理魔導頭脳の設置されている部屋を目指した。
〔止まってくれ〕
『どうした?』
〔通路を仲間が塞いでいる〕
『仲間……新型か?』
〔そうだ。自律行動できない型が3体〕
『排除できないか?』
〔無理だ。基本性能が違いすぎる〕
仁Dが改造する前の『セルウス』と『A』『B』はほぼ同じ性能。
なので今の『セルウス』には、戦力差を想像することができる。
答えは……。
『私だけで排除する。破壊は極力最小限に留めるよう心掛ける。よろしいな?』
〔構わない。ゴーレムはあくまでもゴーレム。管理魔導頭脳ではない〕
『わかった』
管理魔導頭脳が操縦していたとしても、それは所詮ゴーレム。管理魔導頭脳本体ではない、ということなのだろう。
『セルウス』は単身通路を進み、案の定3体のゴーレムに道を塞がれた。
『通して欲しい』
〔駄目だ〕
『私は、この基地のゴーレムではない。『オエステ1』から来たのだ。だから通してもらえないだろうか』
〔駄目だ〕
3体のゴーレムは頑なであった。
仕方なく『セルウス』は、排除することにした。
『……『強制停止弾』強制作動』
仁Dが追加した機能である。
これにより、3体は自らが持つ『強制停止弾』の効果により停止したのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20201002 修正
(旧)『何か管理魔導頭脳に解けない問題に直面したかな?』
(新)『何か管理魔導頭脳には解けない問題にでも直面したかな?』




