73-01 世代の差は、始祖たちにも
11月6日、蓬莱島の食堂兼会議室では、『仁ファミリー』の話し合いが行われているところであった。
ラシール大陸西部に、『侵略派』の『始祖』が建造した基地が、何箇所もあることがわかっているのだ。
そのラシール大陸と蓬莱島は海を隔てて2000キロメートルほど離れている。
この距離を遠いと取るか近いと取るか。
仁は『近い』と考えていた。
また、ラシール大陸のすぐ東には4公国が接しているし、北側にはパンドア大陸も存在する。
結局、世界の平穏、ひいては仁自身の安寧のため、ラシール大陸西にある基地が安全であることを確認したいということになったのである。
「……状況を一旦まとめてみよう」
仁が提案した。
「判明している基地は3つ。『オエステ1』『オエステ2』『オエステ3』だ」
ラインハルトがそれに続ける。
「うん。そして、それらは『第2世代』の『始祖』が建造した」
「そして、そこの管理魔導頭脳は、おそらく出来があまりよくない」
よくないどころか欠陥品の可能性すらあるのだ。
「そしてその魔導頭脳は、メインユニットに『禁忌』とされた『人間の思考』をコピーしている。……ターレスさん、これでいいでしょうか?」
「うむ。概ねそれでいいと思う。強いて付け加えるなら、所有しているゴーレムは魔導頭脳の出来に反して、なかなかの高性能であるな」
「どうしてそんなちぐはぐなことになったのか、少し気になるんですが」
「ジン殿もか。吾もだ。……ここは、『モースク』に、基地の成り立ちと『始祖』の第1世代、第2世代のことを話してもらうべきだろう」
『長老』ターレスは、それを知ることで、新たな対策や対処法を検討することができよう、と言った。
「そうですね。……マリッカ、『マリッカD』で頼んでくれるか?」
「はい、わかりました」
そこでマリッカは、『オエステ1』に滞在している『分身人形』……『マリッカD』を操縦し、『オエステ1』の管理魔導頭脳『モースク』に、基地の歴史を簡単に教えてくれるよう依頼したのである。
* * *
『はい、マリッカ様。それでは、当基地の歴史をお話しいたしましょう』
『モースク』はゆっくりと語り始めた……。
* * *
およそ4000年の昔。
惑星ヘールの資源枯渇により生存環境を脅かされた『始祖』は、惑星アルスへの移住を決断した。
同時に、アルスの『ヘールフォーミング』……アルスの自然環境をヘールと同じにする……ことも行われた。
そして『始祖』は移住してきた……のだが。
『仲違い』が起こったのだ。
『始祖』にしては珍しいことに、『意見の食い違い』が、進むべき道を別れさせたのである。
そう、『穏健派』と『急進派』のことである。
元々個人主義であった『始祖』なので、大きな争いをすることはなく、また人口が少ないことも手伝って、穏やかに住み分けをすることができた。
穏健派の中の『独立派』はゴンドア大陸に住み着き、『北方民族』の祖先となった。
また、同じく穏健派の中の『共存派』はローレン大陸北部に住み着き、『異民族』と呼ばれるミツホ・フソー・ニューエルといった人々の祖となった。
そして穏健派の中の『融合派』がアルス人類の祖先となったわけである。
では、『急進派』はどうだったか。
急進派の中の『開拓派』は、その名のとおりにアルス各地にばらばらに散らばった。その1つが旧レナード王国の『エルラド基地』(現エルラド遺跡)である。
そして『侵略派』は、主な活動場所を『ラシール大陸』と『パンドール大陸』(現パンドア大陸)に選んだのである。
——ここまでは、仁たちも知っている内容だった。
『侵略派』は、他の派閥にない特徴を持っていた。
それは『第2世代』である。
5人の子供が、彼らの中にいたのだ。
4人は男性、1人は女性。少年と少女、といえるような年齢の5人だった。
彼らは母親である『始祖』がアルスに着いてから生まれた世代である。
惑星ヘールを知らない世代。
彼ら5人はまた、『第1世代』とはいろいろな点で違っていた。
より攻撃的で、より結束が強かったのである。……5人の間でだけ、だが。
その反面、知識・技術的には『第1世代』よりも劣っていた。『学ぶ』ということを忌避していたからである。
曰く、『考えることは魔導頭脳にやらせればいい』。『我々はこの世界を楽しめればいい』。
だが、まだまだ『第1世代』の発言力は強く、『第2世代』は自分たちの好きなようにはできないでいた。
そんな中、『第2世代』の少年3人が、『自分たちの『住居』が欲しい』と言い出した。これは問題なく了承される。
そこで3人の少年は、それぞれ好みの場所に地下施設を建造していった。
建造に使ったゴーレムは既存のものだったが、施設を管理する魔導頭脳に関しては、『自分たちでやってみろ』ということで、それぞれ自作品を設置。
その1つが『モースク』である。
『第1世代』と同じことをするのを嫌がった『第2世代』は、魔導頭脳のメインユニットに、自分の頭脳の一部をコピーして使うことにした。
自分と同じ考え方をする魔導頭脳ができあがり、3人は大満足。
一方で『禁忌』を破られた『第1世代』は苦々しい思いでそれを事後承諾したという。
『第2世代』が存命中は、魔導頭脳も『見た目は』正常に動作していた。
『製作者』であり『主人』である者と同じ思考をしているので、ほとんど問題は発生しなかったからだ。
* * *
「……なるほど、あの魔導頭脳が稚拙な出来だったのはそういうわけか」
「謎が1つ解けたね」
説明を聞いていた仁たちは納得していた。
だが、まだまだ疑問は尽きない。
引き続き『モースク』の説明に耳を澄ませる……。
* * *
一方、『第1世代』は。
「……まだまだ次の世代には不安がある」
「同意する。我らの枷がなくなったら、どうなることやら、想像もつかん」
「だが、我らの方がより早く現世から退場するのは自明の理」
「然り。ならば、何か手を打っておかねば」
頽廃したとはいえ『第1世代』の『始祖』は、惑星間航行を実現し、惑星改造まで行ったのだ。
その技術力と知識は『第2世代』を遥かに凌駕していた。
「『我が子ら』が道を誤った場合、それを正してくれる存在が必要ではないかな?」
「うむ。それには知識だけではなく力も必要だろう」
『第1世代』は、次世代のために相談を続けていった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200928 修正
(誤)10月6日、蓬莱島の食堂件会議室では
(正)10月6日、蓬莱島の食堂兼会議室では
20200929 修正
(誤)10月6日
(正)11月6日
20210601 修正
(誤)そのラシール大陸と蓬莱島は海を隔てて3200キロメートルほど離れている。
(正)そのラシール大陸と蓬莱島は海を隔てて2000キロメートルほど離れている。




