72-50 修理(改造)
仁Dは、必要なものとして『助手』を要求した。
「わかった。1名もしくは1体まで許可しよう」
「よし」
『セルウス』から許可が下りたので、一旦仁Dは地上へ戻り、礼子を連れてくることにしたのである。
2名ならマリッカDも連れてきたのだが。
* * *
『内蔵魔素通信機』で連絡しておいたので、礼子は出入り口そばで待っていた。
「……この者でいいのか?」
「そうだ」
「……本当に?」
「いい。礼子は優秀な助手だからな」
「……わかった。貴殿がそう言うならいいだろう」
『セルウス』は半信半疑の様子だったが、仁Dが是非にと主張したので、拒否もできず、礼子は晴れて『オエステ基地』に足を踏み入れることとなったのである。
* * *
「ここに新しく魔導頭脳を作ろうと思う」
仁Dは、今の魔導頭脳の右3メートルの位置を示した。
特に深い意味があるわけではないが、基地内の各所と結ばれている導線類を結線し直すことを考えると、あまり離さないほうがいいと思ったからだ。
まずは礼子と打ち合わせだ。
「形式は同じにするんですか?」
「うん。ただ、今のままだと球体の収まりが悪いから、支柱を立てるか張線で固定するかしたいと思うがな」
今はケーブル類で支えられているという状況なのだ。
「わかりました」
そして仁Dは早速魔導頭脳作りを開始した。
資材は潤沢に用意されていたので問題ない。
最高級品ではないが、十分に品質がいいので、作業は捗った。
「『平坦化』『変形』『変形』『融合』『接合』……」
「こちら、固定しました。接合お願いします」
「『接合』……これでいいか?」
「はい、ありがとうございます。次は上半分ですね?」
「そうだ。メンテナンスはミニ礼子サイズのゴーレムにやらせるから、整備用の通路は確保しておく」
仁と礼子は最初期からのコンビである。
仁ではなく仁Dであってもそれは変わらない。
息のあった作業で、魔導頭脳はどんどん組み上がっていった。
「…………」
『セルウス』は無言である。
暴走したわけではなく、理解が追いつかないだけだろうが。
この場合の『理解が追いつかない』というのは、『過去のデータと照らし合わせても、一致もしくは類似の事象が見つからないため、判断基準が見つからず、次の行動をどうすべきかの決定ができない』と言う状態である。
こういう場合は、外部から質問を行ってやり、半強制的に思考を別方向に向けてやればいい。
「『セルウス』、こんなもんでどうだ?」
作業開始からおよそ2時間、仁Dが『セルウス』に尋ねた。
「う、うむ、い、いいと思う」
「そうか」
仁Dを使い、ここの『魔導頭脳』を解析した仁が、唯一感心したのはこの『感情』である。
全体的には初心者の作なのだが、この点においてはなかなかのアイデアマンであった。
魔導頭脳に感情をもたせることがいいのか悪いのかは置いておくが、簡単にできることではないことを記しておく。
それはさておき、全体の構成を3度チェックした仁Dは、これで問題ないと判断した。
最後の仕上げとして、旧魔導頭脳の制御核を移植する作業が残っている。
これはミニ礼子が行ってくれた。
新魔導頭脳への取り付けも同じだ。
「よし、完成」
そして最後のチェックをし、問題ないことを確認した仁Dは、『セルウス』に確認する。
「起動していいか?」
「う、うむ、問題ない」
「そうか。なら『セルウス』、起動してくれ」
「なぜ私が?」
「俺がやるわけには行かないだろう?」
仁Dが起動のための魔力を流すと、以降の魔力パターンが仁Dつまり仁のものとなってしまい、それでは仁が『至上の主人』になってしまう。
「それもそうだな……わかった」
少しだけ躊躇した後、『セルウス』は『起動せよ』と魔鍵語を唱えた。
『……うむ、問題はないな』
起動した魔導頭脳はすぐにセルフチェックに入り、動作に問題がないことを自ら確認する。
『ジン殿、感謝する。これで私はこれまでの数倍の能力を手に入れられたようだ』
魔導頭脳は仁Dに礼を言った。
『古い方の私は停止させよう。……『停止せよ』……うむ、これでいい』
コピーされたデータをもつ魔導頭脳同士なので、起動直後はほぼ同じ意識を持つが、時間の経過と共に別物になっていく。
その原因は経験の差であったり、情報量の差であったりする。
今なら、旧い魔導頭脳は停止させられることを拒まなかったが、1日も経てば停止を嫌がるようになっていたかもしれないわけだ。
とにかく、こうして『オエステ基地』の魔導頭脳は刷新され、暴走の危機は去った……かに見えたのだが。
『これでようやくスタートラインに立てたというわけだ』
魔導頭脳が気になることを言い出したのである。
「それは……どういう意味だ?」
『うむ、では、今こそ話そう』
魔導頭脳は、驚くべきことを語り始めた。
『まず、ここを『オエステ基地』と呼んでいるようだが、それは、厳密には正しくない』
「どういう意味だ?」
『この地には、『基地』と呼べる施設が3箇所あるのだ』
「えっ」
『説明をわかりやすくするため、『オエステ1』『オエステ2』『オエステ3』と呼ぶことにしよう。ここは『オエステ1』だ』
「わかった。……ついでに、魔導頭脳、君の呼称も決めてくれ」
『では、私のことは『モースク』と呼んでくれ』
「わかった。『モースク』だな」
呼び方を決める、つまり名前を付ける、ということは、集団から個を分離する行為である。
個は個であることを認識し、自我を発生させる……らしい、と仁は思っていた。
『では、あらためて説明しよう。……ジン殿はおそらく気が付いていると思われるが、私『モースク』は、その昔『主人たち』の1人によって作られたのだが、試作のような扱いであった』
「なるほどな」
『私を作ってくれた『主人』はまだ若く、技術的にも未熟であった。それが今回の不安定さに結びついたものと判断する』
これで『モースク』がああいう出来だった理由がはっきりした、と仁は思った。
『だが、思ったよりも私が使いものになったので、基地周辺の地上部警備を『オエステ2』と共に任されることになり、今に至る』
「そういうことか」
少しずつ『オエステ基地』というものの輪郭が明らかになってきたな、と仁Dの視覚と聴覚を通じて仁は思っていた。
『そして、他の2つだが……』
『モースク』の話は、核心に近づきつつあった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200923 修正
(誤)『セルウス』から許可が降りたので、一旦仁Dは地上へ戻り
(正)『セルウス』から許可が下りたので、一旦仁Dは地上へ戻り




