72-49 修理、そして……?
目の前にある『魔導頭脳』に不安を抱いた仁と仁Dは、修理したユニットの隣も念のためチェックすることにした。
ミニ礼子に指示を出し、ユニットから制御核を外してきてもらう。
「隣のユニットから外してきました」
「ありがとう。……『分析』『読み出し』……うわあ……」
予想どおり、こちらの制御核にも、先程のものよりはマシとはいえ、数箇所のバグが見つかったのである。
「礼子、ユニットは幾つあった?」
「はい、7つです」
「そうか。全部見直した方がいいな……」
仁Dは表情を変えないが、操縦している仁は渋い顔である。
「やるしかないな」
この際なので全体のデバッグを行うことにしたのである。
その結果、全てのユニットでバグが見つかった。
全てコントロールコアにプログラムミスである。
2番めのものは4箇所。
3番めのものは2箇所。
4番めのものは5箇所。
5番めのものは1箇所。
6番めのものは2箇所。
7番めのものは7箇所。
で、最初のものは12箇所だったので、計33箇所を修正したことになる。
その7つを統合しているメインユニットには、バグは見つからなかった。
「……これでいいだろう」
魔導頭脳が正常になれば、セルフチェックを行うことで不具合箇所を自ら洗い出すことができるはずだ、と考えかけた仁であったが、そのセルフチェックルーチンがなかったことに気がついた。
「うーん……まあ、いいか」
正常な魔導頭脳なら、仁Dがそういう忠告をすれば、その必要性を察し、機能を追加してくれ、と言うはずである。
言わないなら、それは論理的思考が不完全であるということになる。
「礼子、俺……仁Dは部屋の外に戻るから、合図をしたら切ったエネルギー導線を繋いでくれるか? そうしたら『転送装置』でバッグの中に戻ってきてくれ」
「わかりました」
ミニ礼子は内蔵されている『転送装置』の行き先を、仁Dが持つバッグ内の魔結晶に設定した。
その間に仁Dは部屋を出て『セルウス』の横に戻る。
「……『融合』」
仁Dの合図を見て、ミニ礼子は切り離したエネルギー導線を接合し、バッグ内に転移した。
すぐに魔導頭脳は動作を再開する。
そして、バグが直っているのですぐに『セルウス』の口を通じ、正常な反応を返してきた。
「私の『存在意義』は、『この基地』に奉仕することだ」
「なるほど」
『この基地』という、やや曖昧な範囲指定ではあったが、十分に納得できる答えであった。
「納得したか? では付いてこい」
『セルウス』は歩き出し、魔導頭脳の前に立った。仁Dもその後ろ1メートルほどに立つ。
「『セルウス』というのは私であり、この魔導頭脳でもある」
仁Dを通じ、仁もそれはわかっていた。要するに老君と老子の関係だ。
「貴様は、私の監視のもとで、私でもある魔導頭脳を整備するのだ」
それもまた予想どおり。
先程仁Dとしてひととおり確認しているので、ユニット以外の不具合は把握している。
「わかった。どこから始める? 『魔力反応炉』からかな?」
「う? そ、そうだな。そこからだ」
先程見たところ、『魔力反応炉』は使われている魔結晶の純度が低いため、経年劣化していたのである。
そして、さすがに1系統のみということはなく、3系統の『魔力反応炉』が用意され、1つが故障しても残る2つがすぐに稼働する……はずなのだが。
「ああ、劣化しているから稼働にタイムラグができそうだな」
「そ、そうか」
破壊された時を除き、通常使用での『魔力反応炉』の停止には前兆がある。
出力が不安定になるのだ。それを検知し、バックアップを稼働させる準備を行うわけだが、その『アイドリング状態』にある『魔力反応炉』が、必要な出力を発揮するまでの所要時間が、今のままでは長すぎるのである。
早い話が、劣化した結晶構造が抵抗となって出力の立ち上がりを遅らせているのである。
「バックアップ分から整備していこう。『純化』『結晶化』」
この2つの工学魔法は、構造を修復するだけで組み替えるわけではないので、『魔導式』が刻まれていても使うことができるのだ。
「これでバックアップは2基とも直ったな。それじゃあメインを直そう」
「…………」
『セルウス』は無言になってしまった。
それはそれで静かでいいと思いながら、仁は『魔力反応炉』の整備を進めていった。
「これで終了だ」
「…………見事だな」
『セルウス』からようやく言葉が出てきた。
「こちらが思っていたよりも貴様……いや、貴殿と言おう。貴殿は優秀なようだ」
「そりゃどうも」
「……ついで、と言ってしまっては身も蓋もないが、魔導頭脳全体の見直しは……できるか?」
「……どういう意味だ?」
「…………」
仁Dの問いに、『セルウス』はしばしためらう様子を見せたが、やがて口を開いた。
「今の魔導頭脳の出来が悪いことは自分で承知している。そこで、基本構造・基礎データ・情報バンク・思考ルーチンはそのままで、新しく建造してもらいたいのだ」
「何だって……」
意外といえば意外な申し出であった。
が、よくよく考えてみれば、それほどおかしな内容ではない。
仁自身、先程仁Dに確認させて『初心者の作』と評したほど、出来が拙かったのだから。
「どうだ? 無理か?」
「……いや、技術的には可能だ。だが、資材はあるのか?」
「それについては心配ない。整備用に集め、蓄えたものが大量にある」
「まずはそれ見せてくれ」
「わかった」
『セルウス』は仁Dの申し出を了承した。すると、ホールの周囲にある扉が開き、そこから雑用担当と思われるゴーレムが数十体、素材を抱えてやって来たのである。
「どうだ?」
「そうだな、量は十分だ。あとは品質だな」
「気の済むまで確認してくれ」
「よし」
『セルウス』の許可も出たので、ホールの隅に積まれた資材を、仁Dは確認し始めた。
「軽銀、ミスリル銀、アダマンタイト、ニッケル、鉄、金、銅、錫……金属は十分だな。……魔結晶は……ああ、これも大丈夫そうだ」
「そうか。それでは、是非作って欲しい」
「わかった。……と言いたいところだが……」
「何か足りないものがあるか?」
との問いに仁Dは、
「助手だ」
と答えたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200922 修正
(誤)で、最初のものは12箇所だったので、計21箇所を修正したことになる。
(正)で、最初のものは12箇所だったので、計33箇所を修正したことになる。
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