72-48 デバッグ
マリッカDが仮拠点を整備していた頃、仁Dは『オエステ基地』で難渋していた。
というのも、『魔力爆弾』1号弾の爆発にも、『セルウス』の暴走……無限ループは解消しなかったのだ。
「直接殴ったりしたら敵性反応として認識されそうだしなあ……」
ここは、『セルウス』を放置して、先へ進んでみるほうが、事態の変化を促せるのではないかと老君は判断し、仁Dを先へ進ませた。
先といっても、あと少しで扉だったので、とりあえずその扉を開けるところまでだ。
開け方は『セルウス』のやり方を見て記憶していたので問題はない。
「ダイヤルをここに合わせ、テンキーみたいなこいつをこの順番で押して、最後にパズルみたいなこいつをこうスライドさせていけば……よし、開いた」
扉の先は広いホールで、中央には銀色の球体が無数のコードで空中に支えられていた。
どうやらあれが『魔導頭脳』らしい、と仁Dは推測する。
いまだに『セルウス』は無限ループから復帰してこないので、仕方なく仁Dはそのホールに一歩、足を踏み入れた。
一応肩には安全確保のため『ミニ礼子』を乗せている。
先程修理要員としての使い方をしたので、警戒はされていないはずとの判断からだ。
「さて、あいつがここの魔導頭脳かな」
今は仁本人が仁Dを操縦している。
仁Dはゆっくりと慎重に、魔導頭脳に近づいていく。
そしてついに、その外被に手を触れることができた。
「……熱いな」
摂氏100度は優に超える温度であった。『分身人形』でなければ火傷をしていただろう。
もっとも、分身人形なので手で触れてみたわけで、生身ならそんなことはしないはずである。
「『冷却』……『冷却』……『冷却』」
かなりの熱を持っていたようで、冷却の工学魔法を使っても、1度では冷めきらずに3回の繰り返しを必要とした。
さすがに3度の冷却を受ければ過熱していた外被も冷め、仁Dはあらためて手を外被に触れ、『分析』を使うことができたのである。
「『分析』……ふうん……球形をしている以外は、基本的に『ジョナサン』と同じだな」
最初の調査で、円柱状であるか球形であるかの違いしかないことがわかる。
そして……。
「『ジョナサン』よりも稚拙な箇所が多いな……」
仁Dには、技術的に未熟な者が作ったかのように見えるのだ。
そうしているうちに、また外被が熱を持ち始めた。
「内部で発熱している箇所を早いとこ直したほうがいいな」
先程の『分析』により、発熱しているユニットはわかっている。
まずは『冷却』により冷却した後、一時的にシステムから切り離す……のだが、今は魔導頭脳が動作している状態なので、いきなり切り離すことはリスクが高い。
「……にしても、これだけいろいろやられて何も反応しないというのもおかしいな?」
ユニットの1つが暴走したくらいで全体に影響を及ぼす、ということはあまり前例がない。
強いていえば、システムの完成度が低いため、なのだが……。
「うーん……どうも、作った人は……熟練者じゃないとしか思えない」
仁の素直な感想。
はっきり言って、『初心者』が作ったのではないかとさえ思えるのだ。
(……よく考えてみれば、今が直すチャンスかもな……)
直してほしいと頼まれているわけであるから、勝手なことをするわけではない。
このままでは埒が明かないし、仁D自身も危険である。
現に、このホールの空気は淀んでおり、人間にはかなり厳しい条件であるといえた。
(よし、直してしまおう)
そこで仁Dは緊急停止させるため、魔導頭脳にエネルギーを供給している『魔力反応炉』を停止させることにした。
本来ならば『停止せよ』や『停止』などの魔鍵語を入力するのだが、まるきり受け付けなくなっているのだから致し方ない。
「『分離』」
最も単純なのがエネルギー導線を切り離してしまうことだ。
「……済まん」
内心謝りつつ、仁Dは魔導頭脳のエネルギー導線を切断した。
当然、魔導頭脳は完全停止する。
仁が見たとおり、補助電源や予備電源はなく、魔導頭脳は即座に停止した。
「……よし『冷却』……うん、これくらいなら大丈夫だな」
発熱していたユニットが元凶なのはわかっている。そこでユニット内の制御核を交換することにした。
狭い場所なのでミニ礼子に任せることにした。
「これを代わりの制御核にしよう」
持参した魔結晶に『純化』を掛けて品質を上げる。
ちょうどいいタイミングで礼子が戻ってきた。
「暴走したユニットから、制御核を抜いてきました」
「ありがとう」
仁は、受け取った制御核を、まずコピーする。
そしてあらためて解析していくのだ。
「『分析』……『読み出し』……う、うん? ……『読み取り』……あちゃー……」
仁Dを操縦している仁は、思わず操縦席で天を仰ぎたくなった。
というのも、この制御核の作りが杜撰過ぎるものだったからだ。
「完全に初心者が書いたものだな……」
まず、構成がわかりにくい。思いつきをそのまま書き出したような出来だ。
次に、効率が悪い。余計なルーチンや、意味のない分岐が多すぎる。
そして、これが最も悪いのだが、判断処理のウエイト……重み付けがブレていた。
あるルーチンではAが最も重要とされているのに、別のルーチンではBが最も重要となっている。
そのために、AとB、双方の重要性を判断しなければならなくなった時に処理が停止するのだ。
最後に、駄目押しとして1箇所『命令』が間違っていた。
些細な間違いではある。例えるならコンマ『,』とピリオド『.』を間違えた程度の。
しかし、制御核として見たら致命的である。
「……うーん……やっぱり、初心者が作った魔導頭脳というのが当たっている気がしてきた」
仁Dは間違った部分を修正していく。
「『消去』『書き込み』……『消去』『書き込み』……ここもか……『消去』『書き込み』」
12箇所の修正を施したので、効率はともかく文法上の間違いはなくなったはずだ。
「礼子、これを戻してきてくれ。……ついでに、その隣のユニットから制御核を外してきてくれないか」
「わかりました」
実際に目の当たりにして、仁としてはこの魔導頭脳に不安を持ったのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200921 修正
(誤) 実際に目の辺りにして、仁としてはこの魔導頭脳に不安を持ったのであった。
(正) 実際に目の当たりにして、仁としてはこの魔導頭脳に不安を持ったのであった。




