72-47 仮拠点
さらに下の階層へ向かう仁Dと『セルウス』。
またも20メートルほど階段を下り、エアロックのような小部屋を2つ通り抜けた。
「自由魔力素濃度は一定に保たれているようだな」
仁Dがそう告げると『セルウス』も応じる。
「もちろんだ。我が基地の中枢部だからな」
「……外部の自由魔力素濃度の変化については把握しているのか?」
「もちろんだ。746年前、地上部の自由魔力素濃度が激減する現象があったが、その時もこの基地内は安定した濃度を保っていたのだ」
「それは凄いな」
746年前というのは魔導大戦終結の年である。つまり『魔素暴走』が起きた年なのだ。
脆弱な魔導機であれば停止してもおかしくないほどの減少であったが、この地下基地は稼働していたらしい。
「この基地の存在意義は?」
「何?」
「何をするために存在しているのか、ってことだ」
「……面白い問いだな?」
「そうかな?」
今仁Dを操縦しているのは、仁に代わって老君。
老君は、抽象的かつ本質的な問いとして『存在意義』を選んだ。
暴走した魔導頭脳なら、高い確率で混乱するはずなのだ。
「存在意義か……ふむ…………」
『セルウス』は考え込んでいるようだ。
「…………………………」
「『セルウス』?」
「…………………………」
「どうした?」
「…………………………」
返事がない。どうやら、混乱どころか思考の無限ループに入り込んだようである。
仁Dを操縦している老君は、やはり暴走していたか、と納得したのである。
暴走していなければ、『基地の存在意義は?』に対する魔導頭脳の答えは決まっている。『主人のため』、またはそれに類する答えになるはずなのだ。
老君自身、『存在意義』を問われれば、『御主人様にお仕えすること』と間断なく答えるであろう。
そうならないということは……。
(もう『主人』、つまり『始祖』はいないのでしょうね。そして、それを認めたくないのか、あるいは廃棄されたのか)
後者だとしたら、ここの魔導頭脳はかなりまずい状態にあるのではないか、と仁Dを操縦する老君は想像したのだった。
* * *
蓬莱島では、老君が仁に質問をしていた。
そもそも、無限ループに入り込んだ魔導頭脳を見たことがないので、老君といえどもこういう場合の最適な対処法が決められなかったのである。
『御主人様、こういう場合はどうするのがよろしいでしょうか?』
「うーん……俺もこういうのは初めて見た。『始祖』の思考シーケンスは一種独特なんだな」
『そう思います』
「これに限らないけれど、無限ループに陥ると危険だから、通常思考の場合にはループ回数の上限もしくは制限時間を設定するのが普通なんだが」
『アドリアナ式』ではそうなっている。
また、上限を設定しないような複雑な思考の場合はサブユニットで行わせるので、メインユニットが監視できるから無反応に陥ることはない。
『御主人様、では、『セルウス』を何とかするにはどうするのが一番いいでしょうか?』
「そうだな……俺も『始祖』がどういうシーケンスを構築したかは詳しくないが……」
仁はしばし考えた後、老君に告げる。
「今取り掛かっている問題よりも重要な問題を突きつけてやることなんだが……」
その方法はどうするか、と仁。
だが老君は、実行面に関してはすぐに答えを出した。
『地上に待機しているホープに指示を出し、『魔力爆弾』の1号弾あたりを空中で爆発させましょう』
「なるほど、ショック療法だな」
人間でいえば混乱して取り乱している相手の頬を叩いて正気に戻すようなやり方である。
「よし、すぐにやろう」
『わかりました』
仁の許可を得た老君はすぐに指示を出し、ホープは『ペガサス2』から上に向けて『魔力爆弾』の1号弾を発射した。
もちろん、空中で爆発させるため、時限信管付きの物を、である。
* * *
現地は夜になっており、暗い夜空に『魔力爆弾』1号弾が炸裂した。
1号弾は対人に使っても殺傷力のない弱いもの。ただし破裂音は大きい。
「うん? 今の爆発は?」
「不明だ。『オエステ基地』が、またなにかやったのだろうか?」
案の定、『1』をはじめとする『ジョナール基地』の面々が気付き、不審がり始めた。
マリッカDとターレスDはその正体を知っているので慌てることはない。
が、まだ打ち明ける段階ではないと、口を噤んでいた。
嘘をつくよりも黙っている方を選んだのである。
「……マリッカ様、どういたしますか?」
『1』はマリッカDに、今後の方針を尋ねた。
「そうですね……無為に待つのも得策ではないでしょう。この付近に転移魔法陣を設置し、一旦戻りましょう」
「わかりました、そういたしましょう」
マリッカDからの提案に、『1』は即頷いた。
「いや待て、『1』殿」
ターレスDが待ったをかける。
「マリッカ様、概ねそれでよろしいかと存じますが、なにかあったときのために見張りは残しておくべきかと」
「あ、そうですね。ターレスさんの言うとおりです。『1』さん、見張りは残しておいてください」
「わかりました。『2』と『3』を残しておき、何か動きがあったらすぐに知らせに戻らせます」
そういうことになり、さっそく転移魔法陣の設置が開始された。
まずは場所の選定からである。
「どこまでが『オエステ基地』の勢力圏かわかりませんが、今いるこの場所……『セルウス』と話をした場所から1キロほど東にすればよろしいかと」
「そうですね……そのくらいなら、何かあってもすぐに駆けつけられますし、いいでしょう。『1』さん、お願いします」
「承りました」
ターレスDとマリッカDが相談し、最終方針を決定した。
『1』相手では相談にならない(マリッカDの提案を全て肯定してしまう)からである。
* * *
1キロほど東、そこにはちょうどいい岩山がそびえていた。
そこの北側には岩棚があり、転移魔法陣を刻むのに適していた。
派遣されていた技術系ゴーレムがそこに魔法陣を刻む。大きさはゴーレム3体が同時に乗れる程度のものとした。
「これでいいでしょう」
「ご苦労さま。ついでに、この岩棚の下に、簡単な拠点を作れないでしょうか?」
「可能です。作りますか?」
「ええ、是非」
「承りました」
再び、『1』(=ジョナサン)の指示で、技術系ゴーレムが加工を開始した。
2時間で『仮拠点』としての加工は終了。
岩山を洞窟状に穿ち、内部に部屋を作ったのである。
一応調度として、岩から作ったテーブルと椅子が備え付けられている。
出入り口の扉は岩で偽装されおり、ちょっと目にはそれとわからない。
「ありがとう。それでは一旦戻りましょう」
こうしたバックアップの準備を整え、マリッカDたちは『ジョナール基地』へと戻った。
残ったのは『2』と『3』、そして拠点の保守要員としての技術系ゴーレムの3体。
そのうち『2』と『3』は『セルウス』と出会った場所へ戻っていった。
そして待機が始まる……。
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本日9月20日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
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お知らせ:本日9月20日は昼過ぎまで所要で不在となります。
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20200920 修正
(誤)746年前、地上部の自由魔力素濃度が激減する減少があったが、
(正)746年前、地上部の自由魔力素濃度が激減する現象があったが、




