72-46 修理屋仁
ついに『オエステ基地』に足を踏み入れた仁D。
そこは、磨き上げられた金属製の壁、金属製の床、金属製の天井の小ホール。
材質はおそらく鋼鉄だな、と仁Dは見抜いた。
酸化しやすい、つまり錆びやすい鋼鉄を、錆一つなく磨き上げている。これは基地内を整備する、おそらくゴーレムがきちんと仕事をしている証拠であろうと仁Dは判断した。
つまり、『オエステ基地』は、『管理魔導頭脳』が不調になってはいるが、基地としての機能は正常ということになる。
「付いてこい」
『セルウス』はそう告げ、くるりと背を向けて足早に歩き出した。仁Dが付いてくるものと疑わない足取りである。
もちろん付いていかないという選択肢はないので、ちゃんと付いていく仁D。
小ホールにある幾つもの扉の1つを抜け、歩いていく『セルウス』。
通路もまた。鋼鉄製である。
(そういえば、白くないな)
『始祖』が好む『白』系の内装ではないことに気が付く仁D。
磨き上げられた鋼鉄の色を形容するなら『銀灰色』。同じ金属である銀が『銀白色』と呼ばれるのは、光の反射率が全金属中で最も高く、『白く』見えるからである。
ゆえに別名を『白銀』。
鋼鉄の場合は反射率の関係で銀よりも暗く見えるので白ではなく灰色、つまり『銀灰色』。
長々と背景を説明してきたが、つまるところ『白く』は見えないのである。
「『白く』ないのは何か理由があるのか?」
仁Dは前を行く『セルウス』に声を掛けてみた。
「理由? 白くすることに意味を見いだせないから。ただ、それだけだ」
「なるほど」
どうやら『オエステ基地』の『始祖』……おそらく第2世代……は、かなり合理的なものの考え方をする面もあったようだ、と仁Dは考えた。
「ふむ、お前は他の同胞の基地を見たことがあるようだな」
「ああ、それなりに」
「それなりに、か。……」
続けて何か言いたそうではあったが、ちょうど大きな扉の前に到着したところであり、『セルウス』はその扉を開けるのに掛り切りになり、結局何を言わんとしていたのかはわからずじまいになった。
「おお」
扉を開けた、その奥には魔導頭脳が設置されていた。
「まずはこれを直してもらおうか」
「わかった。診させてもらうぞ」
仁Dは魔導頭脳に歩み寄る。
大きさは、直径4メートル、高さ5メートルほどの巨大な円柱だ。
形状的には『ジョナサン』と似ている。
「『分析』……うん?」
解析を開始した仁Dは、気になることがあった。
「……この魔導頭脳は、暴走したものじゃないな?」
「気が付いたか。まあそのくらいの技術がないことには話にならんからな。……そうだ、その魔導頭脳は暴走してはいない。だが、故障しているのは間違いない」
「つまり、これを直してみせることで、こちらの技術を確かめたいんだな?」
「察しがいいな。そのとおりだ」
「……まあいいさ。直してみようじゃないか」
ここで老君は仁と操縦を交代する。
『始祖』の技術を調べるチャンスだからだ。
「『分析』『精査』……なるほど」
「どうだ、直せそうか?」
「問題ない」
『ジョナサン』や『オニキス』『アゲート』『クォーツ』と同じ型である。
今の仁なら問題なく修理できる。
「魔結晶が劣化して、5箇所で魔導回路が切れているのが原因だな」
そう告げながら仁は工学魔法を駆使する。
「『知識転写』『結晶化』『変形』『知識転写』」
持参した魔結晶に一旦データをバックアップしてから、劣化した魔結晶を再結晶化して構造欠陥をなくす。
それを再度整形し直し、バックアップしておいたデータを書き込めば、制御核の修復は完了だ。
「『分析』『精査』……あと2箇所あるな」
そちらも同じようにして修理する仁D。
「……」
「終わったぞ。魔導回路の導線も劣化していたから、酸化物を取り除いて強化しておいた」
「……そうか、ご苦労」
「で、どうだ?」
「……うむ、悪くない」
「そうか」
「だが、あと4箇所、周辺装置を修理してもらおうか」
「わかった」
なかなか慎重というか疑り深いというか、『セルウス』はまだまだ仁Dの腕前を信用していない。
それとも別の理由があるのかも、と、操縦している仁は考えていた。
* * *
別の部屋にある魔導頭脳を3基、同じように修理した仁Dは、『セルウス』の案内で1段深い階層へと向かった。
移動は階段である。
薄暗い照明しかなかったが、仁Dの視覚なら危なげなく歩ける。
「まだ下があったのか」
「そうだ。いきなり基地の中枢部に案内するほど考えなしではない」
「まあ、論理的に考えればそうだろうな」
「よし、ここだ」
20メートルほど下った先に小部屋があり、そこの壁に付いている小さなハッチを開く『セルウス』。
「ここの配線の不具合はわかるか?」
「どれ」
仁Dはハッチ内を覗き込む。
そこにはびっしりと魔導線が通っているが、色分けなどは一切されておらず、どれがどこに繋がっているのか、素人では1年掛けてもわからないだろうと思われるほど。
だが仁は違う。
「こういう時は……『追跡』」
魔力の流れを調べることによって、断線箇所がわかるのだ。
1000を超える本数の魔導線があったが、断線しているのは1本のみであったから、問題はない。
ただ、断線箇所が壁の奥なので少々難しい。
「ふん、貴様に直せるのか?」
「問題ないさ」
仁Dは荷物からミニ礼子を取り出した。
「礼子、この線の先が切れているから、繋いできてくれ」
「わかりました」
ミニ礼子の身長は30センチ。
人間には通れないような隙間でも潜り込んでいける。
「なるほど、そうやって使うのか」
「そうさ。便利だろう?」
「うむ」
そうして2、3言葉を交わしているうちにミニ礼子は戻ってきた。
「修理完了です」
「よし、ご苦労さん。……『追跡』……うん、直っているな」
「……見事だな。貴様の腕前は、認めざるを得ないようだ」
4箇所の修理を通じ、『セルウス』は仁Dの技術力をようやく認めたようであった。
「まだ修理する場所はあるのか?」
「あるにはある。が、緊急度は低い。貴様の腕前はよくわかった。管理魔導頭脳のところへ案内しよう」
いよいよ、『オエステ基地』の中枢部か……と、仁Dを操縦している仁も少し緊張するのであった。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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