72-45 訪問?
暴走してはいても、『セルウス』はなんとか話し合いができるようだ。ただし、『セルウス』側の利益になるようなことしか認めないだろうと仁は推測した。
従ってこれからの『セルウス』との交渉は、より慎重にいかねばならない、ということで、仁は仁Dの操縦を老君に預けることにしたのである。
「頼む、老君」
『はい、御主人様。お任せください』
* * *
仁と交代した老君は、これまでに蓄積した『始祖』の魔導頭脳との交渉術ともいうべきデータを駆使して対話を開始した。
「『セルウス』、そちらは技術者を必要とする状態なのか?」
「ぐ、む……そうだ」
『セルウス』は少し落ち着いてきたようで、話し方もまともになってきた。これなら、と仁Dは話をすすめる。
「なるほど。……なら、俺が行こう」
「……うむ。貴様なら適任だな。よかろう。まずは貴様だけを許可しよう」
「……礼子は?」
「駄目だ。許可するのは貴様だけだ」
これは想定外であった。これまで、仁の行動に対し、礼子の随伴が認められなかった例はほとんどなかったのだ。
「……わかった。だが、道具類の持ち込みは許可してくれるな?」
「それは、構わない」
「よし。3分待ってくれ」
そして仁Dは道具類を取りに行くふりをして『ペガサス2』へ。
礼子も付いて行き、老君はミニ礼子を転送する。
ミニ礼子は工具類の入ったバッグに潜むことになる。
持ち物検査で見つかった場合は、『狭い場所に入って作業させるための小型ゴーレムだ』で通す予定。
そして3分、『セルウス』の下に戻る仁D。
「用意は整ったぞ」
「……うむ、一応中身を見せてもらおうか」
「わかった」
カバンの中身はミニ礼子の他に、クランプ類、支柱類、カッター、魔結晶十数個、定規、ウエス(ボロ布)など。
そしてミニ礼子については問題なく持ち込む許可が下りた。
「では、行くとしよう」
「わかった」
開放された『セルウス』は立ち上がり、仁Dもそれに並んだ。
「それじゃあ、行ってくる」
「気をつけてください」
「ジン殿、任せたぞ」
マリッカと『1』に送られ、仁Dは『セルウス』と共に歩み去ったのだった。
『セルウス』は立ち去り際に、『後を付けてくることは許さぬ。場合によってはジンとやらの安全は保証しない』とまで言い切っていったので、マリッカたちも『1』たちも後を追うことはできなかった。
* * *
蓬莱島でも、その一連のできごとは観察されていた。
「うーん、初めてのパターンだな」
「ああ。『始祖』が作った魔導頭脳とはいえ、大分考え方が違うようだ」
「まったくだ。自爆ゴーレムといい、本拠地を悟られないための手が込んでいるしな」
仁たちの意見としては、これまでの『始祖』とは全く違うと思って掛からなければいけない、というものだった。
そしてそこにハンナが考えを口にした。
「……ちょっと、なんというか……脈絡がない気がするのはなぜかな?」
これに答えたのは仁。
「それは……おそらく『ユニット』の一部が暴走しているからじゃないだろうかな」
「おにーちゃん、それって、ユニット間の考えに統一性がないってこと?」
「その可能性は高いと思う。だからこそ修理しなければならないと思うんだよ」
「うん、それはわかるよ。でも、『オエステ基地』に行くって、ちょっと嫌な予感がするんだよね」
「まあ、そのための『分身人形』だからな」
「うん……」
『御主人様、皆さん、いよいよ『分身人形』が『オエステ基地』に入ります』
仁たちは老君の声を聞き、大型魔導投影窓を注視した……。
* * *
「さあ、付いてこい」
「わかった」
仁Dは『セルウス』の後に続き、10分ほど歩いた。
誰も付いてきていないように見えているが、『忍部隊』が後を追っている。
また、『ウォッチャー』も見守っていた。
「ここに乗れ」
『セルウス』が指し示したのは転移魔法陣。
以前『シク』が自爆して破壊したものとはまた別のものだ。
「よし、行くぞ」
仁Dが乗った後に『セルウス』も乗り、2体は同時に転移した。
残念ながら、これにより『忍部隊』の追跡はできなくなってしまう。
意図していたとすれば『セルウス』は策士であるが、おそらくは偶然であろう。
転移した先は小広い部屋。が、殺風景で何も置かれておらず、中継地点であろうと仁Dは想像した。
「こっちだ」
『セルウス』は部屋の隅へと仁Dを呼ぶ。
そこには巧妙に隠されたハッチがあった。人一人が通れるくらいのものだ。
「先に入れ」
『セルウス』は仁Dにハッチをくぐらせた。
このハッチじゃ『セルウス』通れないだろう、と仁Dが思ったその時、背中に衝撃があった。
『セルウス』に突き飛ばされたのである。
ハッチの先は暗闇の縦穴であった。
「何を!?」
操縦しているのは老君なので、瞬時に対応できたのだが、ここは仁のフリをするが得策と、そのまま縦穴を落ちていく。
もちろん、暗視機能を発動させ、いざとなったら『力場発生器』で衝撃を緩和するつもりで。
だが、その必要はなかった。
縦穴内には重力魔法が掛けられているのか、落下速度は遅く、しかも一定。仮に頭から落ちても大きなダメージは受けないほどの速度である。
そして30秒ほどの落下の後、仁Dは縦穴の底に到着した。
その頃には体勢を立て直していたので、危なげなく脚から着地。
着地と同時に明かりが灯る。
「おお」
そこはエアロックのような部屋であった。
その扉が外から開けられ、そこに立っていたのは……。
「セルウス? いや、違うな」
仁Dを突き飛ばしたのと同じ型のゴーレムだった。
「さすが慧眼だな。だが、私も『セルウス』である」
「なるほど、『セルウス』というのはその型のゴーレムを操縦している魔導頭脳の名称か」
「そのとおり。さ、出てくれ」
納得した仁Dはそちらの『セルウス』についてエアロック的小部屋を出た。
そして案内されるまま通路を歩いていく。
途中3つほど、厳重なシャッターが付いた部屋を通過。
それらはセキュリティのためである、と看破しつつ、仁Dは案内されるまま歩いていく。
歩くことおよそ15分……つまり縦穴から1キロほど離れていることになる……でようやく目的地らしき場所に到着したのである。
「ここが……『オエステ基地』か?」
仁Dが尋ねると、『セルウス』は、
「そうだ。その一角である」
と答えたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20200920 修正
(誤)そしてミニ礼子については問題なく持ち込む許可が降りた。
(正)そしてミニ礼子については問題なく持ち込む許可が下りた。




