72-43 準備と対策
『オエステ基地』の管理魔導頭脳と思われる『セルウス』について、『仁ファミリー』の面々は話し合っている。
「結局、暴走だとしたらどうすればいいんだ?」
「……直すしかないんだが、その方法がな……」
ラインハルトと仁のセリフは、そのままファミリーメンバー全員の気持ちでもある。
「まず、直すには魔導頭脳のところへ行かなけりゃならない」
「それが難関だな……」
「どう考えても、辿り着くのに苦労するだろうからな」
ここで珍しくベルチェからの質問が出た。
「あの、『覗き見望遠鏡』と『力の長杖』をうまく組み合わせて、遠隔で修理はできないものなんですの?」
「うーん、それができるといいんだけどな」
これにはラインハルトが答えた。
「どちらも『魔法障壁』系の結界で簡単に防げてしまうんだよ。だから気付かれたらそこで終わりだ」
「そうなんですのね……わかりましたわ」
『魔法障壁』を使えないような格下の相手であれば問題ないのだが、今回は格下どころか、控えめにみても同等以上の相手である。侮って掛かることはできない。
「放っておく選択肢は?」
「一応はある。が、暴走していて、一度『礼子を狙っていたゴーレム』と接触していることを考えると、遅かれ早かれ外界へ出てくるんじゃないかと思える」
「うむ、ジン殿の懸念はもっともだ。……吾の推測を言うと、暴走した魔導頭脳は外部への攻撃を躊躇わなくなる傾向にあるな」
「そうなんですか?」
「うむ。そこが厄介なところでな……」
少し言いにくそうにした後、『長老』ターレスは説明を続けた。
「『始祖』が基本的に内部に籠もる性格なので、暴走して反転するとその暴力は外へ向かうのだ」
「ああ、そういうことですか」
「……魔導頭脳の開発初期にそういう事故が多かったと聞いている」
こうした文献や資料にも載っていないであろう情報は『長老』ターレスならでは、である。
「だとすると、今のうちになんとかしないと……ですか」
「そうなるな。そして、それができるのはジン殿だけであろう」
「くふ、……またもやトラブルが舞い込んできた、という顔だね、ジン」
「まあな……」
もう少しのんびり暮らしたいのに、世界が放っておいてくれない、と仁はぼやいた。
「なら、全て投げ出してヘールに移住すればいい。アルスとの接点は蓬莱島だけ、にして」
「……」
「それができないジン兄は、やっぱり責任感の強い人」
「責任感……『ノブレス・オブリージュ』ってやつかい?」
「『ノブレス』じゃないけど、力を持つ者は、それを適正に使う義務が、ある」
「難しい問題だな」
それでも仁は、それを否定するつもりはない。
平穏を維持するために力をつけ、力があるから世界を守れる。
けっして守護者を自認するわけではない。単に、自分の守りたい『範囲』がちょっと広いというだけなのだ。
「なら、もう『ジョナール基地』をあてにするのはやめた方がいいと?」
だが、仁の言葉にターレスは首を横に振った。
「いや。少なくとも『ジョナール基地』関連のゴーレムは抑止力になり得るだろうから、協力して進めるのがいいだろう」
「あ、確かに」
「多少なりとも理性が残っているなら、だがな。そういう意味では急いだほうがいいのかもしれぬ」
「そう、ですね……」
明日、もう一度『1』と『セルウス』は会って話をすることになっている。
その時に、何か手助けができないだろうか、と仁は考えた。
そこで『仁ファミリー』恒例のブレーンストーミングである。
「マリッカDを連れて行くのは?」
「それは1つの手だろうな」
「同様に、ターレスDも」
「うむ、そうであるな」
「仁Dも」
「もちろん行くさ」
「レーコ嬢も」
「はい」
行く顔ぶれに関してはほぼ満場一致で決まる。
「そのメンバーで、まずは『ジョナサン』と会って話をしてみるんだろうな」
「うむ、吾としてもそれがいいと思う」
「それから『オエステ基地』に向かう際は『ペガサス2』で行ったほうがいいだろうから、『ジョナール基地』からこちらへ一旦呼び戻したほうがいいな」
「わかった。そうしよう」
皆の意見を取り入れ、準備は進んでいく。
「これでだいたいOKかな」
『はい、御主人様。もしも足りないものがございましたらお送りいたします』
「そうだな。その時は頼む」
『はい、お任せください』
こうして遠征の準備は整い、仁D、マリッカD、ターレスDらで『ジョナサン』の所へ転移し、打ち合わせをすることにした。
* * *
『ようこそ、マリッカ様、ジン殿、ターレス殿』
「今日は提案を持ってきました」
『お伺いいたします』
そこで、マリッカDの口から、『仁ファミリー』で相談した内容を説明した。
『確かに、仮に魔導頭脳が暴走したとしたら、外界へ無差別攻撃を始める可能性はあります』
『ジョナサン』も危険性は認めた。
『暴走の原因はわかりません。ですが、『セルウス』が正常なら、なんとかして修理を認めさせなければいけませんね』
「そうなんです。……ジン様なら修理できると思うのですが、『セルウス』は認めるでしょうか?」
『難しいかと』
『ジョナサン』は、自分もジンを認めるまで実証を必要としたことを理由に挙げた。
「では、なんとかしてジン様の実力を『セルウス』に示せればいいのでしょうか?」
『それが可能でしたら』
「『セルウス』の前で、何かを作ってみせるとか修理してみせる、というのはどうでしょう?」
『手段としてはいいと思います。ただし『セルウス』が納得するかどうかは未知数です』
「それでは、少しでも可能性を高くしたいのですが、何をしてみせるのがいいと思いますか?」
できるだけ近い立場、近いスペックの魔導頭脳である『ジョナサン』に考えてもらうのが妥当だろうというわけだ。
『そうですね……ここは、魔結晶の加工を見せるのがよろしいかと』
「加工……ああ、制御核を修理できることを示すにはもってこいですね」
『はい、そういうことです』
『魔導頭脳』の『ユニット』も『魔結晶』であるから、それを自在に加工する様を見せれば説得力があるだろうというわけである。
「なら、幾つか魔結晶を持っていくとしましょう」
『それがよろしいかと』
「……そしてこの後、『セルウス』と再び会いますね? その時に、私たちを紹介してもらえますか?」
『もちろんでございます』
仁たちは最初は十分に離れた場所に待機していて、『セルウス』が許可を出したら近寄る、という手筈となった。
『マリッカ様たちはどうやって現地へ?』
「飛んでいきます」
『! ……わかりました』
こうして、『セルウス』との会談への準備は整ったのであった。
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