72-42 ユニット
『ジョナール基地』のゴーレム『1』(=ジョナサン)と、『オエステ基地』(仮称)との会話が始まった。
「まずは、互いの呼称を確認したい。私は『ジョナール基地』の『1』である」
「うむ。当方の基地は特に名称はない。単に『基地』と呼んでいる」
「そうか。便宜上、『オエステ基地』と呼んでもいいか?」
「構わない」
こうして仮称『オエステ基地』はとりあえず正式名称となったわけだ。
「感謝する。そして貴殿はなんと呼べばいい?」
「『管理魔導頭脳』か? それともゴーレムか?」
「どちらでもいい。この会話の間だけの呼び方でも構わない」
「そうか。ならば『セルウス』と呼んでもらおう」
「わかった。『セルウス』だな」
呼び名が決まれば、会話もしやすくなる。いよいよ本題の情報交換だ。
「こちら『ジョナール基地』には、もう元の『主人たち』はいない。そちらはどうか?」
「こちら『オエステ基地』にもいない」
「そうか。『ジョナール基地』は『統括管理魔導頭脳ジョナサン』によって維持、管理されている。そちらはどうか?」
「『オエステ基地』は『管理魔導頭脳』と『メメンタス』によって維持、管理されている」
「……なんと言った?」
『1』(=ジョナサン)には理解できない、初めて聞く単語が使われたのだった。
「『メメンタス』……ああ、これは新語だったかもしれぬ。『意思を保存する』という意味だ」
「ふむ……『記憶バンク』といったところか」
「…………まあ、そうだ」
肯定までにやや間が空いたのが気になったが、『1』は対話を続けることを優先した。
「今度はこちらからの質問に答えてもらおう」
「よろしい」
「……そちらの基地に『生きた人間』はいるのか?」
「いや、基本的にはいない」
「基本的には、とは?」
「新たに『主人』となってくれた方が時折やって来られるからだ」
「なるほど、その者は常住ではないのだな」
「そうだ」
「……その方の魔力パターンを記録した魔結晶を見せてもらえるか?」
「よかろう」
『1』は魔結晶を『セルウス』に手渡した。
『セルウス』はそれを受け取り、じっと見つめる。どうやら解析を行っているようだ。
そして2分ほど確認すると、『セルウス』は魔結晶を『1』に返した。
「なるほど、新たな『主人』に相応しい人間のようだな」
「わかるか」
「わかるとも。それに、その魔結晶を加工した人物も、並々ならぬ技術を持っていることもな」
『セルウス』は魔結晶を見ただけでいろいろな情報を推測したらしい。
「『1』よ、貴殿の『主人』が欲しくなった」
「何?」
「貴様の主人を俺に寄越せ」
「『セルウス』、何を言っている?」
「つべこべ抜かすな。黙って俺の言うことを聞けばいいのだ」
「『セルウス』、おかしくなったのか?」
どうも様子がおかしいと、『1』は『セルウス』から距離をとった。
「『1』! 貴様の基地はどこにある! 貴様の『主人』はどこにいる!!」
「……落ち着け、『セルウス』。いったいどうしたのだ?」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……」
「『セルウス』!」
これは異常事態だ、と判断した『1』は、さらに『セルウス』との距離をとった。
「……!え(6%3$”#=0+;Y<?*>`@p・_dw9……」
『セルウス』はそれからも意味不明な言葉を発していたが、突然それが止んだ。
「……すまない、『1』よ」
その口調は最初の『セルウス』のものであった。
「一体何が起きたのだ?」
「……なんでもない。ちょっとした不具合だ」
「直せないのか?」
「……これは私の問題だ」
「そうか」
「……『1』よ、今日のところはこれまでにしよう」
「……わかった」
まだまだ得たい情報はあるが、『セルウス』の様子を見ると、無理強いをしてもいいことはなさそうだと『1』は判断した。
それでも、ようやく掴んだ細い糸を無条件で手放すつもりはない。
「では、次回の情報交換を約束してもらえるか?」
「次回か。……そうだな、では明日」
「明日だな」
「また、この場所で」
「了解した」
「できれば貴殿の『主人』にも会ってみたいがな」
「それは互いの信頼がなければ難しい」
「わかった。では、明日」
「うむ、明日」
* * *
その一部始終は蓬莱島で観察されていた。
「思ったより理性的なやり取りができていたと思ったら、何だ、あれは?」
「瞬時にして態度が変わったな?」
「どこかバグっているのは間違いなさそうだが……」
『仁ファミリー』メンバーは意見を言い合っている。
「バグと言うか……ユニットの1つが暴走したようにも思えるな」
仁が意見を述べた。
「どういうことだい、ジン?」
ラインハルトが疑問を仁にぶつける。
「うーん……なんていうのかな……ああ、『二重人格』みたいなイメージを受けたと言えばわかるかな?」
「ん、わかる。確かにあの様子は……似てる、かも」
「うん、そう言われてみるとな。つまり、思考ユニットが複数あって、そのうちの1つがおかしくなっているとジンは判断したんだな?」
「そういうことだな」
「くふ、確かにそう考えると、あの奇行の説明がつくね」
仁の説明に、皆納得してくれたようだ。
「だけど、それってまずいんじゃないんですか?」
リシアが心配そうに言った。仁は頷いてみせる。
「まずい。ほっといたら他のユニットにも影響が及ぶ可能性が高い」
魔導頭脳の場合、複数のユニットを用いるなら最低でも3つにするのが常道だ。
これは2の倍数が原則のコア数とは異なり、『意識単位』なので、3すくみになるように設定し、互いが互いを見張って暴走を押さえるようなシステムを構築するのだ。
大規模な魔導頭脳になればなるほど重要である。
「ジンは……というか、老君はそういうことないのかい?」
サキからの質問。
サキも素材については詳しいが、魔法工学については初心者レベルだ。
「老君については何重にもセキュリティとセーフティーが掛かってる。15のサブユニットと、1つのメインユニットにはそれぞれバックアップがあるし、互いの不具合を監視し合い、僅かでもパフォーマンスが低下したら即座にバックアップに切り替えてメンテするようになっているし、ユニット数が多い分、1ユニットが全体に及ぼす影響は小さいし」
「くふ、なるほどねえ」
仁の説明を聞いて、サキも納得したようだった。
「さて、それよりも『セルウス』についてだ……」
仁は少々深刻な顔つきであった。
それを見た『仁ファミリー』のメンバーも、事の重大さに顔を顰めたのである。
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