72-38 魔法陣発見
蓬莱島では仁たちが『忍部隊』から送られてくる映像を見つめている。
「お、停止していた1体が再起動した」
「もう1体は……再起動しても歩けないからな。……ははあ、基地に送り返すのか」
「しかし、思った以上にゴーレムを溜め込んでいたんだな、『ジョナサン』は」
『ジョナール基地』に所属するゴーレムはおよそ1000体もあるという。
そのうちの1割、100体が町の維持に使われ、人の代わりに歩き回っていたようだ。
「少しずつ作りためていったようだな」
4000年近くもあったわけだから、1000体くらい作られていてもおかしくない。
しかしそれは『オエステ基地』も同じである。
「ジョナール基地のゴーレムより高性能なものが、少なくとも1000体はいると見ておいたほうがいいかもな」
ルイスが、戦略的な見地を踏まえてそう提案した。
蓬莱島の戦力としてはランド隊が1000体いる。それに加えて礼子がいるが、
「『戦いというものに奇跡はない』。……誰だったか、昔の戦術家が遺した言葉だよ」
ルイスは難しい顔をしている。
「『質も量も、数値化し、論理的に考えよ』……これはまた別の戦術家だったな」
『魔導大戦』当時の戦術家なので、完全な形の資料が残っていないのだという。
「……それでも、当時レーコちゃんがいたら、この言葉もどう変わっていたことか」
礼子は戦術級ではなく戦略的な強さを誇る。
それこそ一騎当千、万夫不当。
1人で戦局をひっくり返すことができる存在。
「おっと、話がそれた。……『ジョナサン』は、論理的思考ができ、また非凡な発想もできるような優れた魔導頭脳のようだ。でも……」
「……同時に、『始祖』の欠点も受け継いでいる。……と言いたいんだろう?」
ラインハルトが、ルイスの考えを先回りして口にした。
「そういうことだな。まずは……『ホウレンソウ』だっけ、ジンが指摘したのは」
「そう。『報告』『連絡』『相談』……個人主義だったせいか、『始祖』はどうにも単独で片付けようとするきらいがある……と思うんだ。それは、その被造物である魔導頭脳を見ているとよくわかる」
この仁の意見には『長老』ターレスも賛成した。
「うむ、ジン殿やラインハルト殿、ルイス殿らの見立ては正しい。『始祖』は、どうしても『自分でなんとかする』という考えに凝り固まるようだ」
「やっぱりそうなんですね」
「うむ。ジン殿たちのように、大勢で相談したほうがよいということが、吾にもわかってきたところだ」
もちろん、大勢の意見をまとめるということはそれなりに時間がかかることであるから、即断即決ができるならそれもまた1つのやり方ではある。
一方的にどちらが優れていると決めつけられるものではない。
だが、しかし。
「……この時点で中間報告をしないというのはいただけないかな」
「そうですね、ジンしゃま。今度注意しておきます」
仁の呟きに、マリッカも賛成した。
今回、『ジョナサン』に内緒で仁たちも調査を行っていたことは棚に上げている。
……これは『ホウレンソウ』とは別枠の、『戦略的』な行いだということで、だ。
その時、画面を見ていたマルシアが声を上げた。
「お、またあいつが出てきたぞ」
『あいつ』とは、『巡回するゴーレム』である。
そしてまた、彼らは画面を注視した。
* * *
[『1』、いました。巡回しているゴーレムです]
[……なるほど、こちらのゴーレムと外観はほとんど変わらないな]
10体が地上で『騒がしく』動き回ったためか、『オエステ基地』のものと推測されるゴーレムがやって来たのである。
[……やつの識別名称は『シク』とする]
[わかりました。『巡回』の古語ですね]
[そうだ。……『シク』だが、我々に気付いたかな?]
[おそらくは]
[だが、それらしい反応をしないな?]
[無視しているようにも見えますね]
[そのあたりが謎だ]
コンタクトを試みても無視される。強行すれば攻撃を受ける。
なんとも手詰まりな状況だった。
[……これは、『シク』は無視し、別のアプローチを試みるのがいいかもしれんな]
[別の、とは?]
[あの『シク』が出てきた、あるいは戻っていく出入り口を探すのだ]
[なるほど]
[こちらを無視しているということは、遠巻きに見ていればそのまま戻っていく可能性がある]
[なるほど、確かにそうですね]
[全員、2体1組で散開し、最低30メートルは離れて『シク』を見張れ]
[了解]
* * *
蓬莱島では、そのやり取りを『忍部隊』の目と耳を通じて観察していた。
「確かにいい手だな」
「うん。それしかないよなあ」
既に巡回ゴーレム『シク』の出現場所は観察衛星『ウォッチャー』で特定されていたが、当面は黙っておくことになっている。
マリッカのために尽力している『ジョナサン』を慮ってのことだ。
「転移魔法陣から出てきているんだろう?」
『はい、御主人様。今『シク』がいる場所からそれほど遠くはありませんから、あの『1』以下10体が追跡しているならまもなく見つかるでしょう』
* * *
老君の予想どおり、20分後には巡回ゴーレム『シク』は出入り用の転移魔法陣にたどり着いた。
[なんだ、ここは……?]
『1』を操縦している『ジョナサン』にも、一瞬理解が追いつかないような場所であった。
[……そ、そうか……このようにして転移魔法陣を隠蔽しているのか……]
開けた空き地である。ただそれだけ……に見えた。
だが、魔法陣を理解した者の目をもって見ると、そこにあるものが見えてくる。
[魔法陣は……地中の岩盤に刻まれているのか……]
地表に出ているのは転送部がほとんどで、魔法陣の大半は上に土が被さっていた。
それでも魔法陣としての機能は問題なく、今も稼働している。
[……そして、岩を極に使っているのか……]
土の下にある部分が多く、効率が落ちている分を、魔法陣に付与した『極』によって補っているのが見て取れた。
[それでも、時々はメンテナンスをしてはいるのだろうな]
『1』、つまり『ジョナサン』はそう判断した。
そして、彼らが見ている前で転移魔法陣は起動し、『シク』は姿を消したのであった。
[うむ、間違いなくここが出入り口だ。全員で行くぞ]
[了解]
『1』を通じて、操縦している『ジョナサン』はこれまでの経緯はすべて把握している。
ここは最大戦力で調査に行くほうがいいだろうという判断からであった。
そこでまず『9』と『10』が転移魔法陣に乗る。全員が乗れるほど大きくなかったからだ。おそらく1体用である。
が、詰めれば2体はなんとか乗れたのであった。
そして魔法陣に魔力を流す。扱いは共通のものであったから問題なく起動した。
2体は転移され……たかと思ったのだが、突然地面が爆ぜたのである。
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